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ペセラン様リクエスト
九琉学園、京介×圭志
学園祭で裏有
“これより第…回、九琉祭の開会を宣言する”
学園祭当日の仕事など開会の宣言を済ませてしまえば後はフリーだ。
ざわざわと騒ぐ生徒達を横目に壇上から下りてきた京介を迎えた圭志は京介と二人、学園祭を回り始めた。
軽快な音楽や呼び込みを耳にしながら圭志は隣を歩く京介の腕を引く。
「ちょっと皐月のクラス覗いてこうぜ」
「お前の好きにしろ」
学園祭の雰囲気にあてられてか、どこか上機嫌で圭志は京介の腕に自らの腕を軽く絡めると柔らかな笑みを浮かべ、京介も応えるようにゆるりと口角を上げた。
生徒達で賑わう廊下を進み、1-Aとプレートが掲げられた教室の前で足を止める。扉脇に置かれた茶色の幟を見れば流麗な黒字で甘味処と書かれていた。
「ここだな」
「あぁ」
圭志と京介が揃って顔を出せば、室内に集まっていた一年生集団が頬を赤く染めてきゃぁきゃぁと声を上げる。
「あっ、会長!黒月先輩も!来てくれたんですか?」
その声を聞いてか、藍色の着物に紺色の帯を締めた皐月が胸元にお盆を抱えたまま慌てて出迎える。
「よぉ、皐月。和服か。似合ってるな」
「その着物見立ては宗太だな」
「分かりますか?」
京介の指摘に皐月は少し照れたようにはにかみ、圭志が皐月の頭を撫でた。
「渡良瀬は来ないのか?」
「先輩とはこの後一緒に…」
薄く嬉しそうに頬を染めた皐月に案内され圭志と京介は奥の席に通された。
なんでもそこは特別席だとか。
「えっと、こちらがおしながきになります。お決まりになりましたらお声をかけて下さい」
ぺこりと丁寧にお辞儀をして皐月は一旦その場を離れる。圭志は手渡されたおしながきを見ながら、向かいに座った京介に話しかけた。
「着物か。良く考えたな」
「普段じゃ見れねぇ姿が人気なんだろ。俺も去年はクラスの出し物で着させられたぜ」
「へぇ…、それはちょっと見てみたかったな」
「お前が見たいなら正月にでも家に帰った時見せてやるぜ。どうせまた俺ん家に泊まるだろ」
「そうだな。楽しみにしとく」
ふわりと笑った圭志の頬に手を伸ばし、京介はその頬に触れるとすとひと撫でしてすぐに手を離した。
「皐月」
周囲の目が集まっていることなど気にせず京介が皐月を呼べば、皐月は元気良く只今と、注文票を持って寄ってくる。
「俺は紅茶だけでいい。圭志、お前は?」
「じゃぁ、餡蜜と珈琲」
「承りました。お持ちするまで少々お待ち下さい」
料理番に注文を伝えに去っていた皐月を見送り、圭志と京介は他愛もない話をしながら料理が出てくるのを待った。
硝子の器に綺麗に盛られた寒天、フルーツ、赤エンドウ豆に餡子。その他諸々に黒蜜がかけられている。
圭志は添えられたスプーンを手にするとまずは一口食べてみる。見た目に反して意外と甘さは控えめでさっぱりとしていた。
「普通に美味いな。これならお前も食べれるんじゃねぇか?」
「甘くないのか?」
「甘いけど思った程じゃねぇ。ほら、一口食ってみろよ」
スプーンで餡蜜を掬い、圭志は向かいに座る京介に餡蜜の乗ったスプーンを向ける。
それを京介は疑いながらも躊躇わずに口に含んだ。
「ん…」
「どうだ?そんなに甘くなくて美味いだろ」
「そうだな。けど俺は遠慮しとく。後はお前が食え」
紅茶のカップを持ち上げ口を付けると京介はそう言って穏やかな眼差しを向け、圭志もふと表情を緩めた。
室内から注目を集めていることなど二人は気にも止めずにゆったりとした時を過ごす。
支払いは京介が済ませ、先に廊下で待っていた圭志は呼び込みに回っていた生徒から是非にと言われてチラシを受け取っていた。
「新聞部主催、仮装コンテスト?飛び入り参加大歓迎…」
「どうした?」
チラシを片手に待っていれば会計を済ませた京介が圭志の手元にある紙に気付いて覗き込んでくる。
「いや、今渡されたんだけど…」
「出たいのか?」
「まさか。見るのは構わねぇけど出たくはねぇ」
「……仮装か」
「京介?」
ジッとチラシを見つめたまま何事か考えている京介の横顔を圭志は訝し気に見た。
「行ってみるか。行くぞ圭志」
「あ、おぅ」
チラシを持っていない方の手をとられ、圭志は京介に手を引かれるまま、仮装コンテストが開かれる体育館へと足を向けた。
「って、おい!何だよこれ」
しゃらしゃらと頭上で涼やかな音が鳴る。重い頭と身動きのしずらい体を引き摺って圭志は別の扉から出てきた京介を半眼で睨んだ。
「何って…花魁だな」
何重にも重ねられた艶やかな着物に、赤い派手な帯締め。鬘を被せられた髪は綺麗に結われ、幾つもの簪が挿されている。
その人が圭志だと教えられなければ誰も気付かないであろう。
「じゃぁお前は…」
京介は先の話に出てきたように、どこか上質な生地の着物を身に着け、紫色の混じる髪を軽く後ろに流し、何やら家紋の入った黒い羽織を肩に引っ掛けていた。
「新聞部の設定じゃお前を身請けする良い所出の若旦那だそうだ」
「は?身請けってお前」
「俺は着物だけを借りる予定だったんだがな。…まぁ悪くない」
羽織をはためかせ、圭志の正面に立った京介は右手を持ち上げると圭志の顎に指をかけた。
すっと至近距離で絡む瞳に眼差しを細め、顎に添えた指で圭志の顔を少し上向かせる。
「京す…」
「本当にこのまま貰っちまっても構わねぇよな」
いつの間にか腰に回されていた手が圭志を抱き寄せ、クツリと笑った吐息が上向かせられた唇に触れる。
「圭志」
「んっ…」
閉ざされない瞼に、視線を絡めたまま圭志は京介の口付けを受け入れた。
「ン…っ…」
するりと京介の首に腕を回し応えれば、圭志の腰に回されていた手が着付けされたばかりの帯を解いていく。
見た目とは裏腹に脱がしやすいのはやはりその為か。
圭志の身を包む艶やかな着物に指を掛け一瞬動きを止めると、京介は周囲に気を向け、圭志の腰を抱いて近くの更衣室に場を移した。
締めていた帯を解かれた事であまり意味をなしていない着物を引き摺り、圭志は涼しい顔して続きを再開させようとしている京介に待ったをかける。
「っ、待て。お前何しにここまで…」
「仮装なら着物も置いてあるだろうと思ってな。どうだ?」
圭志が京介の着物姿を見たいと言ったからか。
些細な願いを叶えようとしてくれる京介に嬉しさを覚えて、圭志の口から素直な言葉が溢れた。
「似合ってる。格好良い。…いつもと違う姿に見惚れてるのはお前だけじゃねぇからな」
「…そうか。けど俺はお前の飾らない顔の方が好きだぜ」
そう言って京介は圭志の頭に被せられていた鬘を床に落とす。さらりと作り物ではない赤みを帯びた髪が現れ、京介は唇で触れた。
「着飾ったお前より、ありのままの姿のお前が好きだ」
「…京。お前、…狡い」
「何が?」
カァッと赤く染まった耳朶にも唇を寄せて、京介は分からない振りをする。
それを知っていてもどうすることの出来ない鼓動はとくとくと早さを増し、圭志の体温を上昇させる。
圭志は腕に絡む着物をそのままに、京介の背へと腕を回した。
「こんな顔じゃ外へ出れねぇよ」
「出なくて良い。初めからお前を誰にも見せるつもりはねぇ」
「京介…、ン…っ」
見つめれば弧を描いた唇が降ってくる。
「お前も俺だけを見てれば良い。圭…」
与えられる言葉と熱に心地好さを感じて、圭志はそっと瞼を閉じて身を委ねた。
肌の上滑る指先は熱くて優しい。
赤い華の咲いた首元に唇が触れ、熱の籠った吐息がかかる。
「…圭志」
「っ…ぁっ…京…」
下肢に与えられる緩やかな刺激に圭志の眦から涙が溢れる。
「…京、介…もうっ…っ」
下腹部に埋められた熱が圭志の内で脈動し、圭志は堪らずに身を震わせた。
二人の足元には脱ぎ捨てられた着物が散乱し、圭志は京介の首に腕を回して身の内から這い上がってくる快楽の波に堪える。
「…っく…ぅ…」
「声、抑えるな…。聞かせろ…」
更衣室の中央に置かれていた簡易テーブルに背を押しつけられ、圭志は首元から顔を上げた京介の熱い眼差しに見下ろされる。
「ン…ふっ…ぁ…」
荒い息を吐く唇と唇が重なり、飲み込みきれなかった唾液が圭志の口端から零れる。
「は…っ、イイか…圭志?」
「…あっ…ぁっ…ンッ!」
京介の指が蜜を溢す圭志の熱に絡められ、赤い舌が口端から落ちた唾液をすくう。同時に、肌を打つ乾いた音が室内に響き圭志は京介の背に爪を立てた。
「くっ…ぁ…んん…っ…!」
ぐちぐちと音を立てて前を抜かれ、体の奥では熱い塊が何度も圭志の中を行ったり来たりして圭志の意識を翻弄する。思考はどろどろに溶かされ、与えられる刺激に内股が限界を訴え震えた。
「あっ、きょ…すけっ、もっ…っ…」
もどかしい刺激に腰を揺らめかせ、圭志は涙で濡れた目で京介を見上げた。
「っ…は…イキそうか?」
見つめられた京介も額に汗を浮かべ、押し寄せてくる快楽の波に引き摺られぬよう耐えていた。
しかし、圭志が頷いたのを見ると耐えていた熱を放つようにグッと、圭志の中に沈めていた熱塊で一際強く圭志の奥を突いた。
「――っぅ…ンあぁ…っ!」
「っ、はっ…くっ」
びくりと圭志の背がしなり、絡めていた京介の指の間からとろとろと蜜が溢れ出す。圭志は自分の熱が弾けたのと同時に体の奥に熱い飛沫を感じ、はぁっと熱い息を吐く。
「ふっ…ァ…ッん…」
京介は数度腰を揺らし、全てを出し終えるとゆっくり圭志の中から自身を抜いた。
その拍子にとろりと中から零れた蜜に圭志はふるりと身を震わせた。
「大丈夫か?」
「ン…っ、なん…とか…」
弛緩した体を京介に抱き寄せられ、抱き締められる。熱を帯びたままの互いの肌が気持ち良くて圭志は瞳を細めて京介に胸元に擦り寄った。
そのまま心地の好い眠りにつきたかったがそうもいかない。
圭志は京介の腕の中、体を凭れさせながら窓の外から軽快な音楽が流れてくるのを聞く。
「……服」
「着替えならロッカーにある。幸いここは更衣室だからシャワーもあるしな」
「確信犯かお前は…」
ん、と京介の胸元から顔を上げた圭志に京介はさぁ?と笑って唇に触れるだけのキスを落とす。
足元に落ちた着物はそのままに圭志は京介に抱き上げられてシャワー室に姿を消した。
その後…、二人は更衣室を出ると何事も無かったかのように体育館に顔を出した。
「どこ行ってたんだ神城、黒月!仮装はどうした!」
「そのことだが圭志は舞台には上げねぇ。着物も返す」
綺麗にとは言い難いが、畳んだ着物を京介は相手に突き返す。事に及ぶ前に先に脱がしたので汚れはついていないはずだ。
「なっ、お前達をトリにしようと思ってたのに!」
大袈裟なほど嘆く新聞部員に京介は圭志の腰を抱き寄せゆるりと笑う。
「悪いな。コイツは見世物じゃねぇんだ。恋人として他の野郎に騒がれてる姿を見るのは癪に触る」
「俺も心は広くねぇからな…京介」
腰に回された京介の腕に手を添え、圭志は情事後の気だるい色気を身に纏って艶やかに微笑む。
すると、京介はくくっと喉の奥で笑い、知ってると圭志の耳元で囁いた。自然な流れで圭志のこめかみに口付け、圭志はその唇を擽ったそうに受け入れる。
二人にとっては当たり前のことでも、それを目の前で見せつけるようにされた新聞部員には堪ったものじゃない。顔を蒼くしたと思ったら今度は赤く染め、狼狽する。
「そういう訳だ。諦めて他を当たってくれ」
そんな新聞部員の様子など気に止めず、京介は圭志を連れて体育館を後にした。
生徒達で賑わいを見せる校舎内に戻り、圭志と京介は自分達のクラスに顔を出す。
「あー!二人ともどこ行ってたんだよ!交代の時間はとっくに過ぎてるんだよ!」
二人の姿を目敏く見つけた明がウエイター服姿で駆け寄ってきて圭志に二人分の着替えを押し付け、珍しく強気で言ってきた。
「サボりは駄目だからな!今から接客に入ってもらうから裏で着替えてきてよ!」
言うだけ言って明はクラスメイトに呼ばれ踵を返す。ちなみに圭志達のクラスは喫茶店を出し物として選んでいた。
「着替えろって。どうする?」
「しょうがねぇ。やるか」
荷物置き場となっている裏のスペースに回り、二人はウエイター服に着替えると客の集まる表へと姿を見せた。
途端、ざわりと生徒達がざわめく。
「なんだ…?」
「……あぁ。お前タイは締めといた方がいいぜ。俺はそれでも構わねぇけど」
タイ?と、首を傾げて、緩めに締めていたタイとシャツの襟元に触れ圭志ははっと気付く。
シャツから覗いた滑らかな白い肌に赤い華がその存在を主張するように綺麗に咲いていた。
「……まぁいいか」
そして圭志は首元に咲いた所有の証を隠すでもなく愛しげに撫でると、ふと笑み溢して首元から指を下ろした。
傍らでそんな圭志の様子を見ていた京介は口許を緩め、持ち上げた右手でさらりと圭志の頭を撫でる。
「京介?」
「時たま可愛いことするよなお前」
「…なにが?」
「何でもねぇ」
何処へ行っても終始甘い雰囲気を振り撒く京介と圭志に、学園祭の間、二人がいる2年S組は人が絶えることはなかった。
END
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