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まさきん様リクエスト
圭志をかばって京介が大怪我をする。それをみて圭志が取り乱す
*恋人同士設定






風呂から上がり、髪から落ちる滴をタオルで拭いながら、ソファーで寛ぐ京介の隣に腰を下ろした。

「ん、…出たのか」

「あぁ。京介も入って来いよ。明日は出掛けるんだろ」

「お前もな。二人きりじゃねぇのが残念だな」

「何言ってんだよ。誰がいたって気にしねぇ癖に」

立ち上がり際、伸びてきた指先に頬を撫でられ圭志は瞳を細める。

その様子に京介は口元を緩め、身を屈めると圭志の耳元に唇を寄せた。

「先にベッドで待ってろ」

「っ、ん。いいけど今日はヤらねぇからな」

耳元を擽った吐息に肩を震わせ圭志は釘を刺すように返す。

「分かってる」

「それなら待ってる。早く来いよ」

苦笑を溢し、バスルームへ消えた京介の背を圭志はゆるやかに、温かさを帯びた眼差しで見つめた。





同じベッドに入って、お互いの温もりに包まれ微睡む。

「…京介…もう、寝たか?」

「まだ起きてる。…どうした?」

「ん……。いや、何でもねぇ」

そうか、と言う言葉と共に唇が降ってくる。

「京介…」

「何だ?」

「今日はヤらねぇって」

「キスぐらい良いだろ」

圭志はその視線を受け止め吐息を漏らすと、一回だけなと自分に言い訳をして、応えるよう自ら唇を寄せた。






シトシトと冷たい雨が降る中、生徒会役員と圭志、明は傘をさして、学園から一番近い街まで来ていた。

「何で俺まで…」

「まだ言ってるのか明。往生際が悪いったらないな。そんなんだから雨が降るんだ」

「雨が降るのは梅雨だからだろ!」

明と静が言い合いをしているのを背に聞きながら皐月は隣を歩く宗太を見上げた。

「良い物が見つかるといいですね」

「えぇ。誰かさんに割られたティーポットとカップ、結構お気に入りだったんですが割れたものは仕方ありませんし…。あぁこの際、皐月も欲しいものがあったら遠慮なく言って下さい。今なら生徒会経費で落ちますから」

にっこり笑って皐月の頭を撫でた宗太に、後ろを歩く静が、更に後ろを振り返った。

「おい京介、宗太があんなこと言ってるぜ」

京介はそれに肩を竦め、睨むように言い返す。

「お前が悪ぃんだろうが。生徒会室で暴れやがって。明をからかうのは良いけどな、周りの迷惑を少しは考えろ。お陰で居合わせただけの俺達まで連帯責任に食らってんだぞ」

「これは驚きだな。京介の口から周りの迷惑を考えろって言葉が出てくるとは」

わざとらしく驚く静に、京介の横を並んで歩く圭志が口を挟んだ。

「ようは俺達に迷惑かけんなって言ってんだよ」

圭志のその台詞に明が振り向いて、申し訳なさそうな顔をする。

「あ…、ごめんな黒月」

「いいや、悪いのは佐久間だし。明が気にすることじゃねぇよ」

そんな感じで彼等は目的の店へと足を進めた。

買う物は、生徒会室の備品。ティーポットとカップだ。

街の賑わう中心部から少し離れ、車が擦れ違うには少しキツい小路にその店はあった。

「ここか?」

足を止めた宗太に倣い、それぞれ足を止める。傘を上向けて、静は宗太を見やった。

「そうです。私の行き付けのお店で、あのティーポット一式もこの店で買ったんです」

チラッと静に返ってきた宗太の視線はどこか冷たい。

「せ、先輩!早く入りましょう。僕、今日ここへ来るの楽しみにしてたんです!」

それを皐月が宗太の服の裾を引き、意識を自分に戻す。

「そうですか、なら早く入りましょう。皐月が濡れちゃいますしね」

傘を畳み、店へと入っていく宗太と皐月。静も傘を閉じると明を振り返った。

「宗太の奴、根に持ってるなぁ。お前もそう思わないか?なぁ、あき…」

「何かおかしくないかあの車」

振り返った先の明は、小路を、それこそ暴走でもしてるんじゃないかってぐらい凄いスピードでこちらに向かって走ってくる一台の車を見つめて、訝しげに呟く。

傘を閉じた事でクリアになった視界。静はその車を目にした瞬間、鋭い声を上げていた。

「やばい、逃げろっ!」

雨で音を、傘で視界を奪われた状態で何処までその声が届いたのか。

静は明を店の中へ無理矢理押し込んだ。

「っ――」

背後で、タイヤの軋む嫌な音と

「京介っ――!!」

悲鳴にも似た叫び声が雨音を切り裂く。

様々な破壊音を残して、一瞬後には何事も無かったかの様に雨だけが降り続いていた。









何が起きたのか、圭志には分からなかった。

静が鋭い声を上げて、何事かと傘を上に上げた次の瞬間には京介に力一杯突き飛ばされていた。

傘が宙を舞い、
そして、京介が――。

「京介っ――!!」

考える前に口が動いて、体が動いていた。

雨など気にならなかった。視界にすら入っていなかった。

圭志は力無く横たわる体を抱き起こし、何度もその名を呼ぶ。

「京介!京介っ!おいっ、返事しろよ京介ぇ!!」

「馬鹿っ、動かすな黒月!」

それを静に肩を掴まれ、止められる。

「離せっ!京介がっ―…!!」

頭の下に差し入れた手に、ぬるりと生暖かい液体が触れた。

「…ぁ、…―っ!?」

ギクリと体が震え、顔からは血の気が引いていく。

まるで一人、真っ白な空間に放り出された様な気がして恐怖で震えが止まらなかった。

「救急車だ!明っ!」

圭志を押さえたまま静が指示を飛ばす。だが、明も顔が真っ青で聞こえていないようだ。

「チッ、…宗太!早くしろ!」

手が離せない静は店から飛び出して来た宗太を見るなり、怒鳴るように声を発した。

それを受けて宗太は直ぐ様携帯電話を取り出し、ボタンを押す。

「会長っ!黒月先輩っ!」

皐月も惨状を目にしてその場に立ち尽くした。

程なくして現れた救急車と警察に、辺りは騒然となる。

圭志はずっと京介の側から離れようとはしなかった。

「それで、京介は?」

警察の事情聴取を受けてから、京介の搬送された病院へと駆け付けた静が、病室の前で待っていた宗太と合流する。

「命に別状は無いそうです。今は麻酔が効いているので眠っていますが」

それを聞いて静はホッと安堵の息を吐いた。

そして、病室の扉に手を掛け静かに横へスライドさせる。

「あ、…静」

「静先輩…、宗太先輩…」

病室は個室で、中に入ると明と皐月が振り向いた。

ベッドを挟んで向こう側には圭志がいたが、圭志は微動だにせず麻酔で眠る京介をジッと見つめていた。

これは黒月の方が重症だな。

静はベッドの側に立つと、頭に包帯を巻かれ、規則正しい呼吸を繰り返す京介を見下ろす。

「…お前な、マジで焦ったじゃねぇか。起きたら覚悟しとけよ」

「一度学園に戻って理事長と連絡をとった方がいいですね」

不安そうに圭志と京介を見つめる皐月の肩に手を置き、宗太は静に言った。

「そうだな…」

静はチラリと圭志に視線を投げ、続けて言う。

「黒月。京介の側に付いててやってくれ。俺達は一度学園に戻る」

「静、それなら俺ものこ…」

圭志を心配しての明の発言だろう。静は最後まで言わせず、明に向き直った。

「二人にさせてやれ。それにそんな大勢居てもしょうがない」

「…ぁ、…そっか」

静の配慮に気付いた明は、心配そうにしながらも分かったと頷く。

「では、黒月君。私達は一度戻りますが、何かあったら誰の携帯でもいいので鳴らして下さいね」

そう言葉を残し、四人は病室を出て行った。

二人きりになった病室で、圭志は椅子から立ち上がると眠る京介の頬に手を伸ばす。

ゆっくりと確かめるように指を滑らせ、圭志は小さく唇を震わせた。

「良かった…っ、京介…」

じわりと視界が滲み、ぽたりと頬を伝って涙が落ちる。

圭志は涙を拭うこともせず、ただただ掌に伝わる温もりを感じていた。

「…っ、…ふっ……」

どれくらいそうしていたのか、微かに服の裾が引かれた。

「…きょーすけ…?」

ゆっくりと瞼が持ち上がり、京介の指が圭志の頬を伝う涙に触れる。

「な…に、泣いてんだよ…」

「お前の…せい、だろうがっ…」

優しく触れてくる指を掴み、圭志は更に涙を溢れさせた。

「そうか」

「そうか、じゃねぇよっ!…ぶざけんなっ!もう二度とこんなことすんなっ!」

…怖かった。お前がいなくなったらどうしようって。

口には出さなかったが、重なる圭志の手が震えていて、涙で掠れたその声が痛いぐらい想いを伝えていた。

「…気付いたらお前を突き飛ばしてたんだ」

考える前に体が動いていた、と告げた京介に圭志は言葉を詰まらせながらも馬鹿野郎と小さく言い返した。

「無事だったから…良かった、ものの…」

「泣くな圭志、…俺はそう簡単にくたばらねぇよ」

ふっといつもの笑みを浮かべた京介に、圭志はもう暫く涙が止まりそうになかった。

「勝手なこと言いやがって…っ」







その後、連絡を受けた竜哉が駆け付け、京介の入院手続き等を済ませてさっさと帰った。

まぁ、どちらかと言えば京介が追い返したに近かったが。

また、車で突っ込んできた運転手は酒気帯びで警察に捕まり現在取り調べ中らしい。

どこからか情報を拾ってくる静に教えられた。

明と宗太、皐月も京介が目を覚ました事に安心し、明日は学校があるからと申し訳なさそうにしながらも帰って行った。

そして圭志はというと…

「ここって泊まりOKなんだろ。授業は免除あるし俺は帰らねぇからな」

当然の様に残った。

その事について京介は、圭志にも医者にもハッキリとこう言っていた。

「安心しろ、お前だけなんて帰さねぇよ。お前が帰るなら俺も帰る」

見た目はそれほどでもないが、頭を何針か縫い、肋骨には罅、その他切り傷や打撲等の細かい怪我。重傷には変わり無く、無茶なことを言う京介に医者は圭志に好きなだけ居てくれて構わないと答えた。

夜になり、明かりの消された病室で圭志は寝息を立てる京介の頬に手を伸ばす。

「ん…。…眠れないのか圭志」

その感触に、眠りの浅かった京介は目を覚まして圭志の方を見た。

「別に……」

「狭いけど一緒に寝るか?」

「お前怪我してんじゃねぇか」

否定はしない圭志に、京介は圭志の腕を掴んで促す。

「大丈夫だろ。一緒に寝るだけだし」

「…………」

無言で布団に潜り込んだ圭志を抱き締めれば、怪我を配慮してか背に軽く腕が回された。

「ん…、きょ…すけ…」

すぅと穏やかな寝息が腕の中から聞こえ始め、京介はソッとその吐息を奪う。

「怖い思いさせて悪かったな、圭志。…でも、お前が無事で良かった」

夜の帳の降りた静かな室内、やがて寝息は二つになった――。



END.

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