02
その数時間後。
俺はウィルに校内案内を頼まれた、ワケだが。
「ねぇ、タイチ。何で俺と視線合わせてくれないの?」
「そ、そんな事ないよ…?」
何故、俺は案内した先の図書室で本棚とウィルの腕の間に挟まれなきゃならないんでしょうか?
ウィルを直視出来ない俺は視線をちょっとだけ反らし答えた。
「嘘。タイチは俺が嫌いなんだ?」
すると、ウィルは悲しそうな声でそんな事を言ってきた。
そうだ、俺はウィルを知ってるけどウィルは俺を知らないんだ。
初対面の人に意味も分からずこんな態度とられたら傷付くよな…。
罪悪感がむくむくと頭をもたげ、俺はそんな事ないと声を上げた。
「違うんだ。ウィルがあまりにも格好良くて、顔なんて俺のモロ好みで、目なんか合わせちゃったら俺もうどうしようとか、いっぱいいっぱいで。それで、あの…き、嫌いなわけじゃないんだ!」
一気に捲し立てる様に言った俺にウィルは驚いた顔を見せた。
「そっか、…良かった。じゃぁこれからも仲良くしてね」
ふにっと頬に柔らかい感触がして、にっこり笑みを浮かべたウィルの顔が離れていく。
「…はっ…へ!?」
ばっと頬を押さえて、キスされたんだと気付いた。
「〜〜っ///」
みるみるうち顔を真っ赤に染めた俺に、腕の囲いを解いたウィルはフッと笑う。
「タイチ可愛い」
白い指先が俺の頬に触れ、輪郭を撫でるようにスルリと滑っていった。
翌日…
「おはようタイチ」
「…おはよ、ウィル」
隣の席の王子様は何もなかったかの様に挨拶をしてきた。
ウィルにしたらキスは挨拶程度の事なのかな。
そう思ったら何だか胸が痛んだ。
「……?」
「どうしたタイチ?」
「ん〜、何でもない」
ホームルームを終えて授業が始まる。
俺はもやもやと消化しきれない気持ちを抱えたまま、隣の席のウィルを盗み見た。
さらさらとノートの上を滑るペン。真っ直ぐ前を見つめるウィルの横顔に思わずため息が漏れる。
カッコイイなぁ〜。
細い銀の眼鏡がウィルの美貌に更に磨きをかけ、ゾクゾクするような色気を醸し出している。
もう一度触れてみたい…。
って、何考えてんの俺!ぎゃ〜!!///
カチャ、と指先で眼鏡のブリッチを押し上げ視線がこちらを向く。
「タイチ?」
「………」
「タイチ」
ウィルをぼんやり見つめたまま心の中で葛藤していたらいきなり間近にウィルの顔が現れ、俺は思わず体を仰け反らせた。
「ぅわっ!///」
結果、ドタンと椅子から滑り落ちた。
「いってて…」
「大丈夫?もう授業終わったよ」
差し出された手を断って俺は立ち上がり、椅子を直した。
「ちょっと考え事してた」
気付かれないよう小さく深呼吸を繰り返して答える。
「そう。次は音楽だって。一緒に移動しよう?」
「うん」
周りからの突き刺さるような嫉妬の目に気付きながらも俺は頷いた。
「あの、ウィル?音楽室はこっちじゃ…」
教室を出た途端、ウィルに腕を掴まれ良く分からないうちに図書室に連れてこられた。
そして、昨日と同じ様に本棚と腕の間に拘束される。
「タイチ」
ズイッと吐息がかかるぐらい顔を近付けられ、目の前の唇が動いて俺の名を呼んだ。
「―っ、…な、に?」
授業中変なことを考えていたせいかバクバクと心臓が加速し始め、熱が顔に集まる。
長い綺麗な指先が俺の顎を捉えて、顔を上げさせた。
「あんなに熱っぽく見つめられたんじゃ我慢出来ないよ」
「え?」
「責任、とって」
スッと足の間にウィルの右足が入り込み、グッと俺のモノを刺激してくる。
「―ひゃぅ、…って何して!んぅ…ぅ…」
抗議しようと開いた唇にウィルの唇が重ねられる。
「んふ…っ…はっ…んぅ…」
驚いて奥に引っ込めた舌を絡めとられ、唾液が混じり合う。
「…はぁ…っ…」
息の仕方が分からなくて、苦しくてジワリと涙が滲む。
足が震えて、ウィルの差し入れた右足の上に身体が落ちそうになる。
「や…っ…、もっ…」
震える指先でウィルの制服を掴み、引っ張る。
頭がぼぅっとしてきた。
「…はっ…ふぁ…っ…」
思いが伝わったのか、涙でぼやけた視界にゆっくりと離れていく濡れた唇が写った。
それを追ってとうとうウィルの顔を見てしまった。
「―っ///」
熱を孕んだ碧眼の瞳が冷たい眼鏡の奥で妖しく揺れていた。
力の入らない体をウィルに支えられ、右手をとられる。
「次はこっち」
その手を絡み合った足の付け根におしあてられた。
「やっ…///」
掌に、スラックスの上からでも分かる熱を感じて俺は身を捩った。
「嫌?でもタイチのは喜んでるよ」
ウィルの指が、俺のベルトを外し前を寛げる。
そこから頭をもたげた俺のモノがひょっこり姿を覗かせた。
「っ、やだ///何で…///」
恥ずかしさでジワリと涙が浮かぶ。
「…ふっ…くっ…ん…」
「何で泣くの?」
「だって…、ぁ…ふっ…」
俺のモノにウィルの熱がぴったりくっ付けられる。
とられた右手を両方包むように握らされ、その上からウィルの左手が包むように重ねられる。
シュッと重ねられた右手ごと上下に動かされる。
「タイチ、俺のことスキでしょ?」
恥ずかしくて、答えられなくて俺は目をぎゅっと閉じてふるふると首を横に振った。
「嘘。タイチ、いつも俺のポスター見つめてた」
ぐりっと爪を立てられる。
「ひゃ―!!ぁ…あ…!」
「スキって、言って…」
添えられた手の動きが忙しなくなり、ウィルの息も徐々に乱れてきて、限界が近い事を教えている。
「ん、はぁ…っ、好き…大、好き…だから。…もぅ…うぃる…///」
俺ももう限界で、助けを求めるよう何度も繰り返しそう告げた。
「―っ!」
「…やぁ、なんで…おっきく…///」
途端、質量を増したウィルのモノ。
俺は早く楽になりたくて、ウィルにとられていた右手を無意識に自分で動かしていた。
「…んっ…はぁ…ぅ…」
ぐちゅぐちゅと湿った音が右手の中で響いて、とろとろと溢れ出した熱が指の隙間からポタポタと床に落ちる。
「はっ…は…、ぁ…ぁあ…イくっ…」
ぶるぶると身体が震えて自然と手の動きが速くなる。
「はっ…っ…タイチ、一緒にイこ?」
重ねられていたウィルの左手が俺の右手を一際強く動かした。
「…ひゃぁ…ぁ…ぁああっ―!!」
「っ…くっ――!!」
どろっと溢れた熱が掌の中で弾けて二人の手を汚した。
「はぁ…はぁ…」
あまりの衝撃に意識が飛びそうになる。俺は立っていられなくて膝を落とした。
「はぁっ…。やっぱり可愛いタイチ…」
それをウィルがしっかり抱き止め、頬を寄せて笑った。
カチリ、と火照った肌にあたった冷たい感触が気持ちいい。
またその冷たさが俺に冷静さを取り戻させた。
身体をウィルに預けたまま、俺は小さな声で呟くように聞いた。
「何で?…何で俺なの?俺、皆みたいに可愛くないし…、遊びならやめてよ」
流されるまま流されてしまった俺はふいに沸いた恐怖に身体を震わせた。
俺はウィルが好きだけどウィルは?期待してもいいの?
ぎゅっとしがみつくようにウィルの制服を握り締めた。
「タイチ。俺の話聞いてなかったね?」
ため息を吐かれて身体が強張る。
「俺が何でこんな学校に来たか教えてあげる」
ウィルの長くて綺麗な指先が俺の顎を浚う。
「それは、俺のポスターをいつも見つめてる男の子の事を知りたかったから。近付いて、会話を交わして、出来ることなら触れてみたかった」
「えっ!?まさか…全部見て…///」
「うん。朝と夕方、いつも遠くから見てた」
信じられないと俺は目を見開き、顔を真っ赤に染めた。
俺、変なことしてないよな?あ、でもポスター剥がそうとしちゃった!この間は写メまで…。
「ぅ〜〜///」
穴があったら入りたい。
身体を小さく縮こまらせ唸る俺にウィルはくすくすと笑った。
「大丈夫、全部可愛かったから」
「かっ、可愛くなんて///」
「ううん、俺から見たらタイチは十分可愛いよ」
間近でにっこり微笑まれて、俺は金縛りにあったように動けなくなる。
顎にかけられていた指先が、俺の唇の上をゆっくりなぞるように滑り、眼鏡の下の瞳が妖しく細められた。
「本当、…今すぐ食べちゃいたいぐらい可愛くて俺は好きだよ?」
「ぴっ!」
背筋にゾクリと変な汗が伝って思わず変な声が漏れた。
「そ、そそそうだ!じゅ、授業行かなきゃ!」
思いきり動揺して俺は何とかウィルから視線を剥がして早口で告げる。
ヤバイ、何か分かんないけどヤバイ!いつだったか佐々が言ってた言葉を思い出した。
眼鏡をかけた奴の大半は絶対鬼畜だぞ。お前マゾだったんだ?って…。
逃げようとした俺の腰に腕が回り、図書室の奥へと引き戻される。
「タイチ、そんなものより俺と二人だけの授業しよう?」
「…ひゃ!」
耳に熱い吐息と声が吹き込まれ、身体の中にまだ燻っていた火が再び燃え始める。
どうやら俺は逃げられそうにない。でも、ウィルが好きだから何でも許せるような気がした。
出会いは偶然、じゃぁその先は………必然?
END.
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