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高澤利希様リクエスト
京介×圭志で嫉妬、もしくはそれによる喧嘩話
四角いモニターから目を離さず、カタカタと動く指先。
圭志は湯気の立つコーヒーカップをその隣にカチャリと置いた。
「少し休めよ京介」
「ん…」
手探りでカップを掴もうと伸ばされた右手。モニターからまったく動かないその視線が面白くなくて、圭志は京介の右手を掴むとその指先を甘噛みしてやった。
ぴくりと指先が震えて、少しだけ気分が上昇する。
「圭志」
たが、咎めるように名前を呼ばれてすぐに下降してしまう。
圭志は掴んだ右手を離し、京介に背を向けた。
「ちょっと出てくる」
「ん…」
カードキーだけを持って、圭志は部屋を出た。
視線ぐらい向けろよ。いくら忙しいからってそれはねぇだろ。
「面白くねぇ…」
すぐ側に俺がいるというのに。
こうなったらしばらく部屋には帰らねぇ。携帯電話も置いてきたし、京介が探して迎えにこればいい。
さて、問題はどこで暇を潰すかだ。
下へ行くボタンを押し、エレベーターの脇にある溝にカードキーを通す。
待つことも無く開いたエレベーターに足を踏み出し、圭志は生徒会フロアを後にした。
そして圭志は考えた末、一人部屋を持つとある人物の所へ行くことに。
ピンポンとチャイムを鳴らし、待つ。
「はいはい、誰だよ」
確認もせず、勢い良く開いた扉から赤髪が飛び出してきた。
「俺だ。どうせ暇してんだろ一夜」
「え!?黒月先輩?…どうしたんスか?」
一夜は思わぬ来訪者に声を上げて驚いた。
「別に。…遊びに来た」
「会長様と何かあったんスか?」
どうぞ、と中へ入るよう進めながら一夜が聞いてくる。
「別になんもねぇよ。それとも遊びに来たら不味かったか?」
「いやそうじゃないッスけど、…あの独占欲の強い会長様が許すとも思えねぇし」
そう言った一夜に、京介の顔が浮かぶ。
しかし、それも一瞬の事で圭志は眉を寄せた。
「京介は俺の相手をしてる暇もねぇんだと。朝からアイツの相手ばっかしてやがるぜ」
「アイツ?…先輩、もしかして会長様に浮気されたんスか!」
リビングのソファーに腰を下ろした圭志に、一夜が詰め寄る。その時の台詞がまた面白く無くて圭志は更に眉を寄せて言い返した。
「されてねぇよ。俺がいるのにアイツがするわけねぇだろ」
「はぁ……?」
意味が分からないと一夜は首を傾げる。
だったらその不機嫌さはなんなのだろう。どう見ても会長に相手にされなくて妬いてるようにしか見えねぇンすけど、と一夜は出かかった言葉を寸前で飲み込んだ。
どこか面白くない気持ちを胸に抱えながら、圭志は勝手に京介が迎えに来るまで一夜の部屋に居座ることにした。
「一夜、コーヒー」
「はぁ…」
気の抜けたような返事をして一夜はキッチンに入っていった。
「先輩、砂糖とミルクは?」
「いらねぇ」
その後、カップを持って戻ってきた一夜と他愛ない話をだらだらとしながら圭志は過ごした。
…本当面白くねぇ。京介一人の態度にこんなにも振り回されるなんて。
◇◆◇
「あ、新しいの淹れてくるッスよ。たしか何か摘まむものも…」
そう言ってキッチンに消えた一夜はコーヒーのおかわりと菓子の入った缶を持って戻ってきた。
「先輩…?」
そして、目の前に広がる光景に軽く目を見開いた。
「寝てるンスか?」
ほんの僅か席を外していた間に眠りに落ちた圭志にも驚いたが、それよりも自分の前で無防備に眠ってしまった圭志に何より驚いた。
「先輩、…こんなとこで寝てると襲っちまうッスよ」
滅多に見れない寝顔を眺めながら、ゆさゆさと優しく体を揺さぶれば圭志はぼんやりと目を開けた。
「起きたッスか…先輩?」
「…ん…京介」
寝惚けているのか圭志は顔にかかった影を京介だと疑わず、手を伸ばし、その首に慣れた動作で腕を巻き付けた。
これに驚いたのは一夜である。
「ちょっ!先輩!俺は会長様じゃないッスよ!」
甘えるように寄せられた頬に、普段の姿から想像できない圭志の一面に一夜は動揺して慌てた。
「いや可愛いンすけど…、でも…」
混乱しながらも両肩に手を置き、引き剥がそうと腕に力を込めた。
「黒月先輩ってば!」
「……速水。てめぇ何してんだ」
その時、いきなり背後から押し殺したような低い声がかけられた。
「…っ!」
バッとリビングのドアを振り返った一夜の目に、こちらを鋭く睨み付ける京介の姿が写った。
生徒会長の権限を大いに利用して一夜の部屋へと無断で侵入した京介は、圭志に覆い被さるように上にいた一夜に近付くと、後ろ襟首を掴み力任せに後ろに引いた。
「圭志から離れろ」
「ぐっ…、ちょっ待て!首が絞まる。それに俺は何もしてねぇよ!」
圭志の腕が回ったままの首を指して言えば京介の周りの温度が下がった。
「圭志」
どういうことだ、とその名を呼んで京介は圭志に視線を落とす。
それに、しっかり目を覚ました圭志は一夜の首に回した腕に力を入れ、京介を睨むように返した。
「…別に。京介に迷惑かけてるワケじゃねぇからいいだろ」
「なんだと?」
「何だよ」
俺を放っておくお前が悪いんだ。
不穏な空気が漂いだした室内で、忘れ去られた一夜が口を挟む。
「痴話喧嘩なら他所でして欲しいンスけど…」
「…圭志、帰るぞ」
「帰るなら一人で帰れ」
一夜の首から腕は解いたが圭志は立ち上がろうともしない。
「お前は何がそんなに気に入らねぇんだ」
「…分かんねぇのかよ」
迎えに来たら帰ろう、という気持ちは京介を前にどこかへ行ってしまった。
「はっきり言え」
苛立ちを含んだ声に圭志も不機嫌を露にして言う。
「…それより仕事は終わったのかよ?」
「少し残ってるが、それがどうした」
どうした、だって?お前は本当何も分かってねぇ。
「じゃぁ、まだ帰らねぇ。仕事が終わったら迎えに来い」
「それまでここにいるつもりか?そんなの俺が許さねぇぞ」
だいたい何で速水なんかの所にいるんだ、と言葉が続いた。
「なら明の所ならいいってのかよ」
「何処でもダメに決まってんだろ。お前が居て良いのは俺の隣だけだ」
真剣な眼差しを向けられ、それが心の底から発せられた言葉だと分かる。
分かるからこそ余計圭志は言わずにはいられなかった。
「はっ、俺を放っておいた奴の台詞とは思えねぇぜ」
朝から降り積もり自分じゃどうしようもなくなった感情をとうとう圭志は京介にぶつけた。
我が儘を言っていると、自分でも分かっている。京介が生徒会の仕事で忙しいことも。だけど理性と感情は別物で、すぐ側にいるのに向けられない視線が圭志を苛立たせていた。
「圭志…」
それを耳にした京介は微かに驚いた顔をし、膝を折ると圭志の頬に触れ、視線を合わせた。
「だったら尚更帰るぞ。ここに居たってお前の欲しいもんは手に入らねぇ。分かってんだろ?」
分かってる。けど…
お前のその手は、その目は、
俺には触れず、また血も通わない冷たいモニターに向けられるんだ。
「………」
そう思うと素直に頷くことが出来ない。圭志は瞳を揺らし、京介から視線を反らした。
構って欲しい癖に変に意地を張って動こうとしない圭志に、京介は瞳を細めるとその腕を掴んで無理矢理立たせた。
「分かった。今日はもう止めだ」
「京介…?」
「俺は十分仕事したしな。後は静にでもやらせりゃいい」
行くぞ、と言うだけ言って京介は圭志の腕を引いて歩き出す。
「おい、いいのかよ」
「あぁ。妬いてくれんのは嬉しいけど、お前のそんな顔見たくねぇしな」
京介は愛しさを込めた瞳で圭志を見つめた。
「っ、俺は別に妬いてなんか…」
「それに放って置くと俺の猫はすぐ何処か行っちまうみてぇだし、危なくて目が離せねぇ」
腕を掴まれたままリビングを出て、一夜の部屋を後にする。
「何だったンスか一体…?」
残された一夜は呆れたように二人を見送った。
一方、廊下を行く圭志はしっかり掴まれた自分の腕と京介の手をジッと見つめ、微かに口元を緩めた。
「…逃げられたくねぇならちゃんと捕まえとけよ」
「そうだな」
誰も居ないエレベーターに乗って、京介は圭志の腕から手を離すとその手で圭志の首に触れた。
「いっそ首輪でもつけるか?」
「冗談…、付けたってきっと逃げ出すぜ」
首筋に触れる指先を掴み、間近にいる京介と視線を絡める。その瞳に自分が写っているのを見て圭志は満足そうに笑った。
「猫はそういうもんだろ?」
すっかり調子を取り戻した圭志はそう言って京介の唇に己の唇を押しあて離れた。
「んっ…、猫を飼うならちゃんと覚えとけ。適度に構ってやらねぇといつか愛想尽かされるぜ」
エレベーターが止まり、扉が開く。
圭志はスルリと京介の横をすり抜けてさっさと歩を進めた。
「…構いすぎても放っておきすぎても駄目だってことか。俺の猫は気難しいな」
フッと笑みを溢し、京介は圭志を追って自室へと姿を消した。
黒猫は気紛れで、実は寂しがり屋。手元に置いて置きたければ黒猫から目を離してはいけません。
END.
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