01
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尚様リクエスト
九琉メンバーによる話
テーブルを挟んで正面に座る明を眺めながら圭志は口を開いた。
「何で明はいつもここで仕事してんだ?」
「え?」
そう言われて手元の紙に視線を落としていた明は顔を上げた。
「だってそうだろ?明は風紀なんだから普通風紀室で仕事するもんだろ」
ここ生徒会室だぜ?間違ってんだろ。
圭志のもっともな意見に明は、俺だって出来るなら風紀室で落ち着いてやりたいと眉を寄せて呟いた。
「なぁに言ってんだよ明。お前が寂しいって言うから連れてきてやったのに」
明の隣にドサッと腰を下ろして静がクスリと笑う。
「そんなこと俺は絶対言ってない!」
「そう怒るな、可愛い顔が台無しになるぜ」
「かっ、か、可愛いって何だよ!?///馬鹿じゃねぇの!肩に手を回すな、離れろっ///」
愉しそうに笑って明の些細な抵抗を受けている静と、顔を赤くして本気で怒っている明を微笑ましく眺めながら圭志は一つ欠伸をした。
明は静に丸め込まれて連れて来られたのか。
圭志はスイと視線を明達から部屋の奥へ移す。
そこには面倒臭そうに、机に片肘を付いて机上の右端に積まれた紙に目を通している京介がいた。
そしてその手前へ視線を動かせば宗太と皐月がそれぞれの席で何やら作業をしている。
圭志はもう一つ欠伸を漏らすと、組んでいた足を解いて立ち上がる。
「用もねぇみたいだし俺帰るわ」
寮へと帰る途中で宗太とばったり出くわし、何故かその流れで生徒会室に連れて来られた圭志は今まで大人しく応接室でお茶をしていた。
しかしそれも数分前に飽きてしまった。
「黒月〜!帰る前に助けてくれよ!!」
静にがっちり腰を掴まれて、顔を赤く染めてバタバタと暴れる明が圭志に情けない声を出して助けを求める。
圭志はその様子にふと悪戯を思い付いたようにニヤリと笑みを浮かべた。
身を屈めて、テーブルを挟んだ向こう側に右手を伸ばすと明の顎を捉える。
「!?」
上向かせて顔を近付けるとニヤッと笑った。
「良い機会だ、佐久間に手取り足取り教えて貰え」
「ななななっ、何をだよっ!?///」
カァッと更に顔を真っ赤にした明から手を離して圭志は大笑いする。
静も明の腰を抱いたままくくっと肩を震わせて笑う。
「おや、明くんは一体何を想像したのかなぁ?俺に何を教えて欲しいのかな?」
「〜〜〜っ///」
「程々にしとけよ。じゃぁな」
圭志は笑いを納めて静達に背を向ける。
一応、渡良瀬に声かけてくかと近付けば先に皐月が気づいて机から顔を上げた。
「黒月先輩?どうかしたんですか?」
皐月の声に宗太も机に落としていた視線を上げて、背後を振り返る。
振り向いた宗太に圭志が用がないみてぇならもう帰ると告げれば、宗太は他に何か急ぎの用でも出来ましたか?と聞き返してきた。
「いや、別に何もねぇけど」
「そうですか。それなら後少しだけ待ってて貰えませんか?その間に終わると思いますので」
後少し、って渡良瀬の机の上にはまだ結構の量の書類が積まれている。
終わらないだろ。
そう言おうと口を開きかけて、遮られた。
「先輩もう帰っちゃうんですか?」
心なしかしょんぼりした雰囲気の皐月がそう言う。
そしてそれに答えたのは圭志ではなく宗太だった。
「帰りませんよ、ね?」
ね、と確認する宗太の声はどちらかといえば帰るなというニュアンスだった。
宗太の言葉にパッと表情を明るくさせた皐月は圭志が頷くのを待っているようで、圭志はその顔を見てはぁ、とため息を吐いて頷いた。
頷かないと後が怖そうだ。
よかったですね、と皐月に笑いかけている宗太を見て圭志は肩を落とした。
大体渡良瀬が俺に頼みたい事ってなんだよ?
生徒会室に入る前に宗太がやたら真剣な表情でそう言ったのだ。
応接室に戻る気にもなれず、圭志は静の席に腰を下ろす。
暇でふぁ、とまた出てきた欠伸を噛み殺して机に肘を付く。
そして、うとうとしかけてきた耳に誰かがガタリと椅子から立ち上がった音が聞こえた。
「目ぇ通し終わったぜ。こっちは許可するが、こっちは却下だ。突き返して来い」
ついでバサバサと何枚もの紙が机の上に乗せられた音がした。
「分かりました」
「これで今日は終わりだ。もういいな」
宗太は京介に、はいと頷き返し、静の席で微睡んでいた圭志に声をかける。
「黒月君」
「…ん?」
眠くて回転しない頭で圭志は返事をした。
「貴方にしか頼めない用ですよ。頑張って下さい」
「……はぁ?…まさかとは思うけど」
にっこりと微笑んだ宗太に圭志は嫌な予感を覚え、眠気はいつの間にか何処かへ行ってしまった。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで来いよ」
圭志は真横に立った京介に腕を掴まれ、ぐいと引っ張られて立たせられる。
「うわっ!?って、おい!待て、京介」
「何だよ?文句なら聞かねぇぜ。あぁでも場所ぐらいは選ばしてやる」
「場所の前に相手を選ばせろ、よっ」
掴まれていた腕を何とか振りほどき、圭志は京介から離れる。
そして、いつもの攻防戦に突入するかと思われたその時、応接室からガチャーンと陶器の割れる音が室内に響いた。
「「……?」」
圭志と京介は互いに顔を見合わせ、黙々と自席で作業をしていた宗太は無言のまま椅子から立ち上がった。
皐月はその様子に応接室と宗太の間に、不安そうにうろうろと視線をさ迷わせた。
宗太は応接室の惨状を見るなり顔をしかめた。
「静、明。貴方達は何をしているんですか?」
京介と圭志も宗太の後からやって来て二人を見やる。
そこには、ニヤニヤと愉しげに笑みを浮かべ、足を組んでソファーに座る静と、その反対側のソファー、その後ろに頬を朱に染め泣きそうな情けない顔をした明がいた。
二人の間を遮るようにテーブルがあるのだが、その上には大量の紙が散乱し、床には陶器の破片が散らばっていた。
圭志はその破片に見覚えがあった。
何故なら数十分前まで自分が使っていた物だからだ。
「…これは流石にヤバイんじゃねぇ?」
割れた陶器に視線を向けていた圭志がポツリと溢せば、その横で京介が頷く。
そして案の定、口端をヒクリと引き吊らせた宗太が綺麗な笑みを浮かべ、でも目は一切笑っていない、その口から低い声を出した。
「どうやら静、貴方には仕事が足りなかったようですね。あぁ、いえそんな事をしている暇があるなら徹夜で仕事をこなして貰いましょうか。今からでも」
その台詞に、愉しそうにしていた静は慌ててソファーから腰を上げた。
「待て。今日のノルマはクリアしただろ」
「アレは今日までに提出するものだけで誰も全部だとは言ってません。それに、日頃サボっている貴方には調度良い機会です。今までの分取り返してもらいましょうか?」
今までのストレスを発散するように悪魔の微笑みを浮かべた宗太の後ろで、自分に向けて言われているわけではないが身に覚えのある京介はこの空間にいることが居心地悪くなってきた。
「…圭志」
小声で隣に呼び掛ければ、すぐに意図を察して小さく返事が返る。
「おぅ」
そうして二人はその場から退場した。
一人心配気な顔でこちらを見ている皐月に京介は声をかける。
「皐月、宗太んとこ行ってアイツ止めてこい」
「え?はい!」
いまいち何が起きたか分からない皐月はそれでも頷いて椅子から立ち上がった。
「今のうちに帰るか」
皐月の背を見送った京介は扉へ向かう。
「俺も」
そして圭志も京介の後を追うように生徒会室から逃げ出した。
その数分後…、皐月と入れ替わるように未だ赤みの引かない顔をした明が応接室から出てきた。
「うぅ〜」
誰もいない室内を見渡し、恨めしそうに唸る。
「黒月なんか嫌いだ」
俺だけ置いてきやがって〜、とそこにはいない圭志を涙目で睨んだ。
片手に紙の束を抱えて明も生徒会室を出て行った。
最後に、
「いいですか、明日までに終わらせていなかったら貴方が割ったカップも弁償してもらいますから」
「ちょっと待て。どうしてそうなる?カップを割ったのは俺じゃねぇ」
「明に押し付けるんですか?最低ですね。そもそも原因は貴方で…」
「そうじゃなくて。カップが割れたのは不可抗力。俺でも明でもなく、そのカップは重力に従って勝手に下に落ちたもんだ」
二人の間に妙な沈黙が落ちる。
「宗太先輩、静先輩もこう言ってることですし…」
宗太のブレザーの裾を引いて皐月は宗太を見上げる。
その瞳が喧嘩はよくない。仲良くして下さいと語っていた。
「はぁ、分かりました。ここは皐月に免じてカップの件は不問にしましょう」
「サンキュ、皐月ちゃん」
反省の色をみせず、あまつさえ軽い調子で皐月に笑いかける静に宗太は少しばかりイラッときた。
「ですが、仕事はしてもらいますよ。もちろん徹夜で。溜まりに溜まった書類がありますからね」
京介の分も混ぜてやってもらいましょう、と笑顔の裏側でひっそりと心中で呟いた。
静の机の上に紙の塔を二つ並べ、宗太は自身の机に乗っていた紙もその上に乗せる。
「おい宗太」
「何ですか?カップを弁償したくなりましたか?」
「………」
「先輩…」
たしなめるような声で皐月が宗太の裾を引く。
「ん?それじゃ私達も帰りましょうか」
分かっているくせに態とそう返して宗太は皐月の手を取る。
そして宗太に手を引かれて、皐月は申し訳なさそうな顔をしながら生徒会室を後にした。
バタンと閉まった扉。
「さぁて、今日はどうやって切り抜けるかな…?」
生徒会室にはやれやれと肩を竦めた静と大量の書類が残された。
END.
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