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絢乃様リクエスト
京介×圭志で俺様な京介がひたすら圭志を甘やかし、そして甘えまくる圭志。
「………ん?」
ふと意識が浮上して、始めに感じたことは誰かが自分の髪をすいているという事だった。
その手付きが優しく、気持ち良くてまた眠りに引き込まれそうになるが、なんとなく眠っているのが勿体無いような気がして俺はゆっくり瞼を押し上げた。
そこには思っていた通り京介がいて、京介は片手で本を開き読書をしていた。
そして、その右手が俺の髪をすいている。
……あれ?
そこまでは何一つ不思議な事はなかったがどうも視界の高さと頭を乗せている場所の感触からそこがソファーじゃない事に気付いた。
もしかして。
「…京介」
「ん。起きたのか?」
髪をすいていた手が止まり、京介は俺を見下ろしてくる。
どういう経緯かは知らないがどうやら俺は京介の膝に頭を乗せて寝ていたらしい。
俺はゆっくりと体を起こし、京介の隣に座り直した。
「悪い、重かったろ」
「いや別に」
髪から離れた手が俺の腰に回り、抱き寄せられる。
「それより起きたなら俺の相手しろよ」
ぱたん、と持っていた本を閉じ京介は俺のこめかみにキスを落として囁いた。
一体どれくらいの時間俺は京介を放って眠りこけてたんだ?
あんまりにもコイツの側が心地好くて…。
「聞いてんのか?」
返事をしなかったからか顔を覗き込まれた。
「聞いてる。その前に俺コーヒー飲みてぇからちょっと淹れてくる。京介もいるだろ?」
そう言ってソファーから立ち上がろうとしたが、腰をグッと掴まれ立ち上がれなかった。
「京介、手」
「お前は座って待ってろ。俺が持ってきてやる」
変わりに京介が立ち上がり、本をテーブルに置いてキッチンへ入っていった。
その後ろ姿に口元が緩む。
「ほら」
戻ってきた京介の手には白と黒の色違いのマグカップが二つ。
「さんきゅ」
そのうちの白い方を受け取り口を付ける。
「美味い…」
ほぅ、と息を吐きゆるりと口端を上げれば隣に座った京介がふっと表情を和らげた。
それは俺だけが見られる顔。
俺は瞳を細めてその横顔をジッと見つめた。
「何だ?」
「何でもねぇよ。それよりコレ見ねぇか?」
京介がキッチンにいる間に持ってきたDVDを見せる。
「いいぜ。恋愛ものじゃなけりゃな」
ギシ、と近付いた京介にDVDを浚われる。
パッケージを裏返している京介に俺は、ははっと笑い返した。
「お前も俺と一緒か」
「まどろっこしいのは好きじゃねぇ」
手に持ったDVDをセットし、俺の隣に戻ってきた京介は癖のように俺の腰に腕を回す。
俺も京介に寄り掛かり、マグカップを傾け流れ始めた映像に目を向けた。
◇◆◇
エンドロールを眺めながら軽く伸びをする。
「話題作っていう割りにはまぁまぁだったな」
「大抵そんなもんだろ」
マグカップに残っていた残りのコーヒーを飲み干して京介に、ん。とカップを差し出す。
すると京介はカップを受け取り、フッと笑みを浮かべた。
「俺を使えるのなんてお前だけだぜ」
「知ってる」
俺だけの特権。
お礼の言葉の代わりにキスをして、俺も笑い返した。
「自分で淹れるより京介が淹れてくれた方が美味いんだよ」
「そうか?俺はお前が淹れた方が美味いと思うけどな」
二つのカップを手に京介は二杯目を淹れに立ち上がった。
俺はその間にDVDを片付け、京介が戻ってくるのをソファーに身を沈めて待った。
「おい圭志、寝るなよ」
淹れたてのコーヒーで喉を潤し、カップをテーブルに置いて俺は一息吐いた。
「ん〜、寝ねぇよ。これ以上お前を放って寝たら後が怖いしな」
苦笑しながら肩を竦めて言った俺に京介はニヤリ、と満足げに笑い、持っていたカップをテーブルに置いた。
「分かってんじゃねぇか」
「まぁな」
そう言って互いに顔を見合わせ、笑った。
「圭志」
ぐいっ、と体を抱き寄せられ俺は京介の足と足の間に挟まれる格好になった。
背後から抱き締められ、背中にジワリとした熱が伝わる。
身体に馴染んだ体温が心の中まで染み渡り自然と口元が緩む。
「あったけぇ…」
そのまま後ろに身体を預けて、俺は腰に回された京介の手を取り、握ったり開いたりと悪戯に弄った。
「もっと温かくしてやろうか?」
弄っていた京介の指が俺の指に絡まり、肩口に顎を乗せた京介が態と低い声を出してそんなことを嘯く。
「遠慮しとく。今はこれで十分」
俺は絡まる指先をぎゅっと握り締め笑みを溢した。
「今は、な。その台詞忘れんなよ」
くくっ、と京介は人の耳元で愉しそうに笑う。
「人の揚げ足とって笑うな」
頬にかかる吐息がくすぐったくて、俺は首を竦めた。
何をするでもなく、二人の周りの時間はゆったり流れ、俺はまた瞼が重くなってきた。
やばい、話してねぇと寝そう…。
俺は京介の胸に後頭部を押し付け、顎を持ち上げて下から京介を見上げた。
「なぁ、今夜何食いたい?俺はビーフシチューとかいいと思うんだけど」
「そうだな…」
俺は結局睡魔に勝てず、京介の言葉を朧気に聞きながら瞼を落としてしまった。
「圭志?」
静かな室内、腕の中からすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえ始める。
京介は完全に身を預けるように体重をかけてきた圭志の顔を覗き込んだ。
「また寝ちまったのか。ったく、仕方ねぇ」
夕べ寝たのが遅かったからなぁ、と京介は圭志の顔を見つめて呟いた。
そして、安心しきったような表情を浮かべて眠る圭志の唇にキスを落とした。
「夕飯は俺が用意しといてやるよ」
京介は圭志を起こさないよう抱き締めていた腕を解く。が、
「ん?」
くんっ、と服を引っ張られ視線を向ければ圭志がシャツの袖をしっかり握り締めていた。
「まったくお前は…、寝てる癖に俺を煽るんじゃねぇ」
ふっと瞳に優しい光を灯し京介は掴まれたシャツを脱いで、圭志の上にかけた。
なんか良い匂いがする。
その匂いに刺激されて俺はゆっくり目を開けた。
「…ん、…ぁ?」
胸元に、確か寝落ちする直前まで京介が着ていたシャツがかけられていた。
何でだ?と、瞬きをして俺は自分がそのシャツを握り締めていた事に気付いた。
「…何やってんだ俺。恥ずかし」
うっすら頬を朱に染めて俺はシャツを手放し、意識を切り替えるように匂いの元を辿ることにした。
そして、その先には―。
「目ぇ覚めたか?」
「京介…。どうしたんだよその料理?まさかお前が作ったとか?」
テーブルには俺が寝る前に夕飯にと口にしたビーフシチューやサラダが並べられていた。
「俺が作るわけねぇだろ。調理師に作らせて持ってこさせた」
「だよな。お前が作るの見たことねぇし」
俺は促されて椅子に座った。
「食いたかったんだろ?」
「―っ、まぁ」
ふわっと優しげな眼差しが正面から向けられ、鼓動が跳ねた。
京介が作ったわけじゃないけど、俺の為にしてくれたその想いが俺は嬉しかった。
「…冷めない内に食べようぜ」
俺は赤くなりそうになるのをなんとか押さえてスプーンを手に取った。
しかし、京介にはそんな俺の想いも見抜かれていた。
「お礼は態度で、な」
「っ、後でな!」
努力も虚しく赤く染まった顔で俺はビーフシチューを口に運んだ。
END.
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