01
☆69000hit
涼様リクエスト
Signalより、いつもよりワガママな工藤に、何だかんだ言いながら流されてる廉
校門の辺りがやけに騒がしい。
何かあったのかな?
鞄を肩にかけて、門に向かって歩いていた俺は首を傾げた。
まぁ俺には関係ないか。早く…。
「廉!」
普通に校門を通り過ぎようとしたら、聞き覚えのありすぎる声が俺の名前を呼んだ。
「工藤…?」
声のした方を見れば、校門に預けていた背を離し工藤がこっちに向かって歩いてきた。
騒ぎの中心は工藤だったのか。
でも、どうしたんだろう?
「何かあったの?」
学校を終えてそのまま来たのか工藤は制服姿で鞄を肩にかけていた。
「何かないときちゃいけないのか?」
「いや、そうじゃないけど…」
じゃぁ何しに来たんだろ?
その答えはすぐに返ってきた。
「この後暇なら遊びに行かねぇか?」
「う〜ん。俺、今日は店の方に用事があって…」
マスターが新作のパフェを試食させてくれるっていう。
「そうか。じゃぁ、俺も一緒に行こうかな」
「来ても工藤は面白くないかもよ?」
「廉がいるだけで十分だ。ほら、行くぞ」
工藤はそう言ってスッ、と当然の様に右手を俺に差し出した。
「うっ…///」
「どうした?行くんだろ?」
慣れてきたとはいえ、まだ恥ずかしさを捨てきれない俺は、その手におずおずと自分の手を重ねた。
―カラン、カラ〜ン
見慣れた扉を開いて店の中へ足を踏み入れれば、いつものようにちらほらと声をかけられる。
「なんか今日は人が少ないな」
「昨日から隼人たち二年生は修学旅行なんだって。いいよね」
カウンターの中にいたマスターが俺に気付いてにっこりと優しく微笑んだ。
「いらっしゃい。おや、二人とも仲が良いんですね」
にこにこ見てくるマスターの視線の先を辿れば、繋いだままの手。
「うわっ///これは違くて!!」
俺は慌てて工藤から手を離した。
顔を赤く染めてわたわたと否定する俺の横で、工藤は口元を緩めた。
「そんな慌てなくてもここまでずっと繋いできただろ?」
「それは工藤が!」
「嫌だったのか?」
「いっ、嫌じゃないけど…恥ずかしい」
自分で言ってる事もなんだか段々恥ずかしくなってきて尻すぼみになっていく。
「嫌じゃない、ね」
工藤はフッと嬉しそうに笑い俺の背を押した。
「ほら、何か用があったんじゃないのか?」
カウンター席に促され、反れた話題に俺はホッと安堵した。
「マスター、約束の…」
にこにこと穏やかに笑っていたマスターはちょっと待って下さいね、と言って一度カウンターの奥に引っ込んだ。
「約束って?」
隣に座った工藤が置いてあったメニューを開きながら聞いてくる。
「マスターがお店に新しいパフェを出すんだって。そのパフェの試食」
マスターの作る料理はどれも美味しくて、中でもデザート系は絶品だと俺は思ってる。
俺はわくわくしながらマスターが戻ってくるのを待った。
その様子を可愛いな、と愛しそうに瞳を細めて見つめていた工藤に俺は気付かなかった。
「はい、お待ちどうさま」
コトリ、と目の前に置かれた彩り綺麗なパフェに俺はキラキラと瞳を輝かせた。
「うわぁ、美味しそう」
「マスター、俺にもチーズケーキ貰えますか?」
「はい。それとコーヒーと廉くんはいつものカフェオレかな?」
俺はそれにコクリと頷き返し、スプーンを手に取った。
「んっ、美味しい〜v」
へにゃりと破顔してもう一口スプーンに掬う。
それをまたパクリと口に含んで味わう。
「マスター、絶対売れるよコレ!」
コーヒーを淹れているマスターに俺はスプーンを握り締めて大絶賛した。
「くっ、廉、お前…」
その横で俺を眺めていた工藤がなにやらいきなり肩を震わせて笑い出した。
ん?と、きょとんとして見返せば工藤は一瞬チラッ、とこちらに背を向けてカフェオレを用意し始めたマスターに視線をやった。
マスターがどうかしたのか?
釣られてカウンター内に視線を向けた俺に、工藤はカタン、と少しこちらに身体を傾け、
「クリーム付いてる」
と、耳元でひそっと囁き口元についていたクリームをぺろっと舐めとった。
「うっ!?」
俺は驚きのあまり変な声を出して固まった。
わあぁ〜〜〜!!///
な、なっ、何すんだよ!!///
ボンッと顔を熟れたトマトのように赤く染め、俺は口をぱくぱくさせて抗議した。
「ごちそうさま」
それにたいし工藤はフッ、と満足気な笑みを見せ浮かせた身体を元の位置に戻した。
「〜〜〜っ!?///」
「はい、お待ちどうさま。コーヒーとチーズケーキ、カフェオレです」
「あ、どうもありがとうございます」
う〜、恥ずかしい。ありえない。工藤のバカ!
マスターが他のお客さんに対応しに行った後、俺は工藤を睨み付けた。
のはずなのに、睨まれた工藤は何故か笑顔を返してきた。
「うぅ〜」
それがまたムッとした。
「拗ねんなよ。ほら、これやるから」
切り分けたチーズケーキをフォークに刺して俺の目の前に差し出してきた。
「こんなんで俺は懐柔されないからな」
でも食べ物に罪はないし…。うん。
ぱくっ、と差し出されたチーズケーキを食べた。
美味しくて自然と頬が緩む。
「もう一口食うか?」
「…いいの?」
もう一度言うけど食べ物に罪はないから。
再び差し出されたフォークを俺はパクリと口に含んだ。
「美味しいか?」
「うん」
コク、と頷けば工藤はフワリと優しい笑みを浮かべ、俺の頭を撫でてきた。
「なっ、何だよ///」
俺はまだ怒ってるんだからな!
「駅前に新しいカフェが出来たの知ってるか?」
「え?そうなの?」
「あぁ。つい最近出来たんだ。そこのメニューに廉の好きそうなケーキとかあるんだけど今度行くか?」
へぇ、知らなかった。たしか先週あたり工事してたのは知ってたけど。
ちょっと気になるな。
それが顔に出ていたのか俺の頭から手を離した工藤はコーヒーを啜り、言った。
「今週の日曜にでも行くか?」
「そうだなぁ…」
何も用事が無いことを頭の中で確認して俺は頷いた。
「じゃぁ、九時頃お前ん家に迎えに行くな」
「何で?どっかで待ち合わせればいいじゃん」
「…とにかく俺が迎えに行くから待ってろ」
よく分からないけど、そんなに言うなら待ってる、と俺は溶けてきたパフェにスプーンを突き刺した。
…あれ?俺、何か忘れてる?
首を傾げた俺の横で、肩を震わせ工藤が笑っていたけど俺は溶けかけていたパフェの方が気になってまぁいっか、と手と口を動かすことに専念した。
マスターのパフェは溶けても美味しいな。
「なぁ、廉。俺にも一口くれないか?」
にこにこしながら食べてたら、不意に工藤がそう言ってきた。
「お前が美味しそうに食べてんの見てたら気になってきた」
「ん?別にいいよ」
そう答えてマスターに新しいスプーンを頼もうとしたら工藤に右手を掴まれ、
「これでいい」
と、ちょうどスプーンに乗っていたパフェをパクリ、と食べられた。
「ちょっ、何して!///」
「何ってさっきと同じだろ?」
「ん?…あれ?…そうだね」
でも何だ、この恥ずかしさ。さっきはなかったのに。
う〜ん。
「ほら食わないと溶けちまうぞ」
「あ、うん」
とりあえず当初の目的であるパフェを完食して俺は満足した。
「ごちそうさまでした!」
そして、カフェオレを飲んでふぅ、と息を吐き出す。
「廉。日曜の事だけど、他に行きたい所考えておけよ」
「…ん」
そっか。カフェ行くだけじゃ時間がもったいないもんな。せっかく出掛けるならどっかで遊ぶのもいいし。
うんうん日曜の行き先について考え始めた俺を工藤は口元に笑みを浮かべ、優しげな瞳で飽きることなくずっと見つめていた。
END.
[ 17 ][*prev] [next#]
[top]