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「よければもう少し遊びたい」

良いかな?と返せば夏野さんは柔らかく笑ってくれた。

「お前が大丈夫なら俺達は構わないぜ。な、鳴海、千尋」

「おぅ」

「うん。何かユウマとは気が合いそうだし、大地さんより断然良い」

「すっかり嫌われてんな大地の奴」

千尋も満面の笑顔で歓迎してくれて、鳴海さんはどこが苦笑気味に言う。
俺はそこまで千尋が嫌う大地さんという人に興味を持った。

「ところで大地さんって?」

「あぁ、俺と鳴海のダチだ。千尋とは始めの印象が悪かったのかこの通り」

「ユウマが居るなら別に大地さんなんて来なくていいのに」

持参してきたのだろうペットボトルに口を付け、千尋は不満そうに言う。
それに俺は苦笑を返して、側に転がっていたバスケットボールを手に取った。

「夏野さん、少しコート使ってもいいですか?」

「いいぜ」

噂の大地さんが来るまでまだ休憩してるという夏野さんに許可を取り、俺は不機嫌そうな千尋に声を掛ける。

「千尋。さっきのスリー教えてくれない?」

すると千尋はぱっと表情を変え、良いよと俺と一緒にコートに入った。

「でもオレのコーチは厳しいからね」

「了解」

軽い冗談に顔を見合わせ、互いにくすくすと笑う。千尋はまだ中学生だと言うけど、夏野さん達といるせいか少し大人びて見えた。
そして、バスケの教え方も上手かった。

「そうそう、ボールに手は軽く添えるだけで」

「こう?」

「ん。で、少し膝を屈伸させて…」

コートの中で千尋に教えを受けていた俺はふと何だかくすぐったいような視線に気付いてちらりと一瞬意識をそちらに向ける。
と、何だか優しい眼差しで夏野さんが俺達を見ていた。

でも、あれ…?

「ユウマ、聞いてる?」

「あ、うん。ごめ…。こうだよね?」

「うん」

確かに夏野さんの視線は俺達に向けられていたけど、その優しい眼差しは俺の隣に立つ千尋にだけ向けられていた。それは家族に向ける眼差しとは違う温度を宿らせていて。

「千尋」

「ん?」

「ありがと。もう分かった。後は一人でどうにかしてみる」

「そう?」

その眼差しに気付いてしまった俺はどうにも恥ずかしくなって、上手くない言い訳を千尋にして千尋から離れた。千尋は気付いていないのか普通に夏野さんに話しかける。

「お兄ちゃんも一緒にやろうよ」

「そうだな」

そんな夏野さんは千尋に気付かれぬよう俺に目配せして、口元に微笑を刻む。

"言うなよ"

何を、とはそこまで鈍感じゃない俺にも分かった。

入れ違いでコートの中に夏野さんが入り、コートから出た俺を外にいた鳴海さんが手招きする。

「どう…」

「お前もあの二人にあてられたか?」

「え…」

「仲良いだろ?あの弟くんと夏野、前は先輩と後輩だったんだ。親同士が再婚して今は義理の兄弟ってわけ」

「そうだったんですか」

それで、と俺はコートの中で楽しそうに1on1をする二人を見た。鳴海さんも口元に弧を描きコートの中を眺める。

「悪ぃ!寝坊した!」

それからしばらくして髪をはねさせた大地さんが到着した。

三対ニと不規則なチーム編成をして、それから俺は気付けば夕方まで千尋達とバスケで遊んでいた。

暮れて行く空に俺は今日出会った人達との楽しかった時間を思い浮かべてその日は帰途に着いた。
この街に来て良かったと思える一日目だった。



藤宮家ルートEND.

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