03
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「少し疲れたから、ちょっとだけ休んでから行く」
「分かった。あまり無理はするなよ」
くしゃりと髪を撫でられ、俺はその感触に瞳を細めた。
食べ終わった皿をキッチンに運んで、二階にある自室に戻る。
お腹が一杯になったせいか眠くなってきたなぁ。
ぼふっとベッドに倒れ込み、俺はちょっとだけ…と思って目を閉じた。
◇◆◇
「……い、おいっ!」
ユサユサと体を揺さぶられる。
「んぅー、…なに?兄ちゃ…」
俺は夢現のまま答えた。
「兄ちゃん?俺はお前の兄貴じゃねぇよ」
「すぅ、すぅ…」
「おいっ、寝るな!起きろ!アイツに見つかったらヤバイんだって!」
コツリ、コツリと床を踏む音が近付いて来る。
そして、ソレは直ぐ近くで止まった。
「カケル。これはどういうことだ?俺様が納得いくよう説明しろ」
「っ、ライ!?これは…」
「お前には俺様がいるというに、よもや他の者を連れ込もうとは」
ざわざわとさっきからうるさくて寝ていられない。
俺はぽやんと薄く目を開けて、起き出した。
「んぅ〜、うるさい…」
いくら兄ちゃんでも許さないぞ。
けれど、目を開けた先には見慣れた兄ちゃん達ではなくまったく知らない人が。
どちらも文句無しの美形で、背の高い方の男は濡れた漆黒の髪に紫の瞳。もう一人は背まで流れる綺麗な銀髪に、やはりこちらも紫の瞳。この世の者とは思えぬぐらい二人は整った顔立ちをしていた。
ほぅとつい見惚れていれば、漆黒の男が瞳を細めて俺を見下ろす。
「貴様、我が妃を誘惑するとは…覚悟はできてるんだろうな?」
「ちょ、待てよライ!」
「妃?ん…?そういえばここどこ?」
いくら方向音痴な俺でも、人様の家に勝手に上がり込むなんて真似しない。
慌てて漆黒の男、ライを抑える銀髪に俺は首を傾げて聞いた。
「ここはライヴィズの魔城にある俺の寝室」
「魔城…?」
聞き慣れない単語に更に首を傾げれば、ライと呼ばれた男が偉そうに告げる。
「まさかここが俺様の城と知らず来たわけじゃあるまい。唯の人間風情が」
「人間?って事は俺みたいに連れてこられ…」
「それはない。魔界の門は俺様を除いてそう易々と開けられるものではない。門にはケルベロスを置いているしな」
魔城、魔界の門、ケルベロス…何だかRPGの世界だ。
しかしそれなら…。
場違いにも俺は好奇心を擽られワクワクしてくる。
俺は真剣な顔して話し合う二人に、悪いとは思いながら口を挟んだ。
「じゃぁさ、ここが魔城だっていうなら魔王っているの?」
これだけは聞いておこう。出来れば見てみたいけど、きっと怖いんだろうな。
きらきらと期待に満ちた目で見上げられ、ライヴィズとその妃、カケルは僅かに驚きを見せた。
だがそれもほんの数瞬、俺は気付かなかった。
それまで難しい顔をしていたライヴィズはニィと口端を吊り上げ、傍らにいたカケルの腰を抱き寄せる。
そして、
「俺様が魔を統べる王。ライヴィズ=ハルスティ=サタン。そしてコイツが魔王の妃、カケル」
さらりとカケル銀髪をすいたライヴィズは、人前にも関わらずカケルの唇にキスを落とした。
「んっ…」
途端、カケルの表情がうっとりと熱に浮かされた様に溶ける。
(うわ〜〜〜!!)
そういう事に免疫のない俺は、一瞬で顔を真っ赤に染め、視線を反らした。
助けて兄ちゃん!
「ぁ…ふっ…ライ…」
「ふむ。コイツを連れ込んだお仕置きにこのままヤるのもいいか」
ツィと細められた紫電の瞳が俺を見る。
「――っ」
その視線にゾクリと背筋が震え、急に呼吸が苦しくなった。
その間にもライヴィズの右手がカケルの服の中へ侵入する。
「ゃ…っく、っ…ラ…イ」
「嫌?イイの間違いだろうカケル?」
いくら目を反らしても、悪戯に耳に届く低い笑い声。
俺は自分の為にも、カケルの為にも気力を振り絞って動いた。
c その人は悪くない!正直に話す。
d もう無理!耐えきれずこの場から逃げる。
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