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呼び出したアドレス帳画面で通話ボタンを押す。

暗くなってきたし、ここから一人で帰れる自身があまりない。兄ちゃんに頼ってばっかで情けないけど、迷子になるよりは良いと俺はすぐに繋がった電話にほっとし、電話口に出た兄ちゃんに向かって事情を説明した。

話し出した俺に遠慮してか、圭志先輩と京介先輩は少し離れた場所で待っていてくれる。

「うん、そう。…分かった、待ってる」

ばいばいと話を終わらせ通話を切った俺は圭志先輩達を振り返り言った。

「俺のすぐ上の兄ちゃんが、後一時間ぐらいしたら迎えに来てくれるって」

これで解決と喜んだ俺に圭志先輩は一時間かと繰り返し呟き、京介先輩を見た。

「一時間もここで待つのは厳しいだろ。その兄貴が来る頃にまた此処に戻ってこればいいし、一旦寮にでも行くか?」

陽が落ちたとはいえ、蒸し蒸しとした暑さは身体に堪える。
いつの間にか一緒に待っていてくれる様子の二人に俺は遠慮がちに口を挟んだ。

「俺はもう大丈夫なので、先輩達は寮に帰って下さい。ここで待つ位なら俺一人でもでき…」

そう言った途端圭志先輩が眉を寄せ、京介先輩が有無を言わせぬ物言いで決定を下した。

「行くぞ」

「あっ…」

「あぁそうだ。ついでに寮の中がどうなってるのか一応見ていけよ」

それがいい、と圭志先輩に畳み掛けるように言われ俺は今度は口を挟めぬまま流されるようにして寮へと連れて行かれた。

寮というものに多少好奇心が疼いたのも流された一因だと思うが、こればかりはしょうがない…と思う。

そして校舎の奥の方に見えた寮は、知る人ぞ知る道を行けば門からあまり時間をかけずに辿り着くことが出来た。

自動で開いたドアをくぐれば、寮のロビーというよりはホテルのロビーといった方がしっくりとくるような内装が目に飛び込んでくる。

「ふぁ〜…凄い」

驚いていれば奥へと進んだ先にあるエレベータへ促され、俺はきょろきょろと物珍しさに気を散らしながらエレベータに乗り込んだ。

「あの…どこに?」

扉を閉め、階数ボタンを押す圭志先輩に訊ねれば三階と返事が返ってくる。そこへ付け足すように京介先輩が言った。

「一年のフロアだ」

ふわりとした浮遊感に階数表示を見上げればエレベータはあっという間に三階に着き、扉が開く。

京介先輩の後に続いてエレベータから降りれば、各部屋から廊下にちらほらと出ていた一年生達がこちらを見てざわりとざ わめいた。

「嘘…っ、会長だ!」

「黒月先輩もいる!」

「こんな間近でお二人を見れるなんて…!」

その中にはふらりと倒れてしまう者までいて。

「えっと…これは…?」

その現象に俺は戸惑い、注目されている先輩方を見上げた。しかし、圭志先輩も京介先輩も気にした素振りはまったくなく普通に話を進めていた。

「ここが一年のフロアだ。二人一部屋で、あぁちょっとそこのお前」

「はいっ!何でしょう?」

圭志先輩が側にいた背の高い一年生に声をかける。

「悪いが部屋の中見せてもらえるか?」

「どうぞ、俺の部屋なんかでよければいくらでも!」

「悪いな」

ぽんぽんと交渉に応じてくれた一年生の肩を叩き圭志先輩はずらりと並んだ部屋の内一つの扉に手をかけた。

「……と、まぁこんな感じか」

「ありがとうございました」

寮の一室を見せてもらい、部屋の持ち主に御礼を言って部屋を出る。
その時には一年生のフロアには人だかりが出来ていた。

まるで見世物パンダになった気分。

「圭志、一度上あがるぞ」

そうして再び乗り込んだエレベータは七階まで上がると停止し、俺も先輩に着いて一緒に下りる。一年のフロアと違ってここは扉の数が少なく、静かだった。

「あ…」

京介先輩が足を止めた扉をよくみれば生徒会長とプレートがつけられている。もしかして…

「ここ、京介先輩の部屋ですか?」

「正確には俺と圭志の部屋だ」

「良いのか京介?」

ちらりと圭志先輩に見下ろされ俺は首を傾げる。
京介先輩も俺を見て、それから圭志先輩を見つめた。

「良くなけりゃ始めから連れてこねぇよ。お前もだろ?」

「…あぁ。お前も気に入ったか」

「まぁな。コレなら妬く必要もねぇし、楽しそうだろ?」

くしゃといきなり京介先輩に頭を撫でられ、圭志先輩はふっと口端を吊り上げる。

「ん、ちょうど暇だったし、育てるってのも楽しそうだよな」

このまま可愛い系にしておくか、カッコ可愛い感じに育てていくか。

俺を見てはよく分からない会話が交わされ、俺は先輩達の部屋へと招待された。

そこで好きな人やタイプを聞かれたが俺の理想は兄ちゃん達なので全てにそう答えた。すると…

「俺と圭志、どっちが好きだ?」

テーブルを挟んで向かい側のソファに座った京介先輩がそんなことを訊いてきた。

俺はそれに考えるまでもなく返す。

「二人とも好きです」

京介先輩はすぐ上の、圭志先輩は一番上の兄ちゃんに似ているから。

にこにこと笑顔で答えた俺に二人は顔を見合わせクツリと笑った。

「良い拾い物をしたな圭志」

「あぁ…将来が楽しみだ」

九琉に通ってユウマがどう成長していくか。

「……?」


俺は兄ちゃんが迎えに来てくれる時間になるまで先輩達と楽しい時間を過ごした。

編入日が楽しみだな。



九琉学園ルートEND.


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