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そして、足を踏み入れることになった生徒会室。…なんか、凄い。
校長室とか、理事長室とか偉い人が入る部屋みたいで。赤い絨毯に、頭上に取り付けられたきらきらと輝きを放つシャンデリア。背凭れのついた椅子に立派な机。観葉植物が大きな窓の近くにあって、給湯室に仮眠室もある。俺は応接室に通されて、恐々と座り心地も良いソファに腰を下ろした。

おぉ、ふかふか、すごい沈む。

「紅茶で良いかな?」

「お、お構いなく…」

金髪という派手な見た目に反して丁寧な言葉遣いで話かけて来た先輩に俺は緊張して声が詰まった。
黒月先輩は俺を応接室に残して生徒会長とプレートの置かれた机に歩み寄り、そこに座っていた先輩と何やら話をしているが…。

黒月先輩の言っていた明先輩ってどの人だろ?

生徒会室にはその他に、書記の席に着いて作業をしている黒髪の小柄な生徒と副会長の席に座って手元の紙をぺらぺら捲っているオレンジ色っぽい茶色の髪をした生徒がいる。

やがて、話は終わったのか黒月先輩が応接室にやってくる。同時に、紅茶で良いか聞いてきた先輩がトレイにカップを乗せて戻ってきた。

「どうぞ。アップルティーです」

「あっ、ありがとうございます」

カチャリと小さな音を立てて置かれたカップに、紅茶を淹れてくれた先輩に御礼を言えば優しそうな笑みが返ってくる。

兄ちゃんも良く言うけど人は見た目じゃないね。うん、見た目に騙されちゃ駄目だ。

いただきますと、カップに口を付け、静かに向かい側に座った黒月先輩に目を向ける。

「明の仕事がまだ少し残ってるらしくてな、悪いけどちょっとここで待っててもらえるか?」

「それは全然構わないです!むしろ、俺が邪魔しちゃってるような気が…」

「そんな事無いぜ。俺も京介の仕事が終わるまで暇だし、話し相手にでもなってくれよ」

然り気無い言葉の中に隠された気遣いに俺は勢い良くぶんぶんと首を縦に振った。

「俺なんかでよければいくらでも!…あっ、それと京介先輩って?」

「あぁ、あの生徒会長席に座ってる奴。神城 京介。で、副会長じゃねぇけどそこに座ってるのが新見 明」

紅茶を淹れてくれた金髪の先輩が渡良瀬 宗太先輩で、書記の席に座ってる小柄な少年が流 皐月。俺と同じ一年。

「階段で会ったのが副会長の佐久間 静だ。他に何か聞きたいこととかあるか?」

「えっと…ここって部活は強制参加ですか?」

「いや、自主性を重んじる校風だからほとんど自由だな。何かあるのか?」

「なるべくなら放課後は空けておきたいなって。家の事とかいつも兄ちゃんがやってくれてたから、部活に入らなくても良いなら俺も家の中のこと手伝いたいなって思ってて」

初めて会った人に何を言ってるんだろうと、初めて口にした言葉にも俺は少し恥ずかしくなって最後は誤魔化すように笑った。

「ふぅん、いいんじゃねぇの。お前、家族が好きなんだな」

「え?」

「話してる間ずっと嬉しそうな顔してたぜ」

話を聞いてくれた圭志先輩はそう言って柔らかな表情を浮かべる。

「あ…」

その背後に、いつの間に席を立ったのか京介先輩が近付いて来ていた。

「俺には仕事させといて随分楽しそうだな圭志」

圭志先輩の背後で足を止めた京介先輩は、ソファの背凭れに身を預け座っていた圭志先輩の頭を後ろから腕で抱き締める。
それを圭志先輩は抵抗するでもなく自然に受け止めていた。

「何言ってんだお前の仕事だろ?」

京介先輩を見上げて緩やかに口の端を吊り上げた圭志先輩は俺と話をしていた時とは何か雰囲気が違う。俺はちょっと目のやり場に困って視線をカップに落とした。

見上げた圭志先輩と見下ろす京介先輩の距離が縮まろうとしたその時、どこか上擦った声が耳に飛び込んで来る。

「こ、こんなとこで何してんだよ!お客さんだっているんだぞ!」

それは、耳を赤く染めた明先輩の声だった。
手に書類を握ったまま、明先輩は俺の側に来ると大丈夫か?と気遣うような声をかけてくる。でも…

「大丈夫です。俺も兄ちゃんに良くしてもらってるし」

「は?」

そう答えれば何故かぎょっとしたような顔で見つめられ俺は首を傾げた。

「家族間では良くあることですよね?寝る前に額にキスされたり…、あ、でも他の人がしてるのは初めて見ました」

それで少し居心地が悪かっただけで他はなにも。

「………」

「えっと、明先輩?」

沈黙してしまった明先輩に俺は何か間違ったことを言っただろうかと、おろおろする。
すると、ソファの前へと回ってきた京介先輩が圭志先輩の隣に座って言った。

「気にするな。ソイツのことは静が何とかするだろ」

「でも…」

「それより、明がこの調子じゃ学校案内は無理か」

ふいに戻された話題に俺はあ、と声を漏らす。その様子に京介先輩は隣にいる圭志先輩を見て、次に宗太先輩達の方を見た。

「これも仕事の内か。宗太、皐月と一緒に学校案内行けるか?行けなければ俺達が行って来るが」

当初の予定とは違ってしまったが、京介先輩は学校案内をしてくれると言う。
圭志先輩と京介先輩、宗太先輩と皐月、俺は迷惑にならなければどちらでも構わなかった。

どっちが案内してくれるんだろう?



m 宗太先輩と皐月

n 圭志先輩と京介先輩


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