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これ以上時間を無駄にしない為にも俺は久弥の言葉に甘えることにした。

「じゃぁ、お願いできる?」

「おぅ」

あっさり頷いた久弥は俺の横を通り過ぎると保健室の扉を開け、ついて来いよと言って俺を促す。

「あ、そうだ。てめぇと掃除屋はついてくんなよ」

「掃除屋?」

「歩きながら話す」

ピシャンと扉を閉め、中に三人を残して俺は久弥と共に保健室を後にした。
そして始めて見る校舎内は何て言うか凄かった。廊下の途中に壺は置いてあるし、壁には絵画が掛けられている。何より足元の廊下が一般的な廊下じゃない気がする。踏み心地が良いって言うのか、上手く言えないけど何かが違った。

「掃除屋っていうのは学園内での風紀の呼び名な」

「呼び名なんてあるんだ」

「まぁ、他と比べると少し特殊なのは確かだな。お前、ここに入らなくて正解だぜ」

生徒玄関から外へと出て久弥が言う。
俺はそれに首を傾げた。

「どうして?久弥が通ってる学校だろ?」

「通ってるからこそ分かることもあるんだ」

ふっと何だか遠い目をした久弥はいきなり俺の腕を掴むと、止まれと何かに気付いた様子で鋭い声を発した。

「え、どうし…?」

「ちっ、この先に厄介な奴がいる」

久弥の視線を辿れば、少し先に派手な金髪頭が見える。その身を包むのは久弥と同じ制服。

「知り合い?」

俺の腕を引き、側にあった木の陰に身を隠した久弥に俺は耳元でこっそり尋ねた。

「知り合いたくなかった知り合いだ。來希の奴何処行くつもりだ?邪魔くせぇ」

動く気配をまったく見せない來希に久弥は正門から出ることを諦め裏門に回る。
俺はどちらから出ても、無事元の道に出れれば良いやと久弥に腕を掴まれたままついて行った。

明らかに道ではない草の生い茂る中を突っ切り、ようやくコンクリートで固められた普通の道に出る。
裏門の側には守衛室があり、閉ざされていた門を開けてもらおうと久弥が中を覗いて見たが人は居なかった。

「見回りに出てんのか?」

「う〜ん、どうしようか」

正門の方に戻るしかないかと、俺が背丈よりも高い門扉を見上げて久弥を振り返ると何故か久弥は屈伸運動をしていた。

「まさかとは思うけど…」

「そのまさかだ」

ニッと口端を吊り上げて笑った久弥は助走をつけて走り出すと、意図も容易く門扉の上に身体を乗せる。不安定な体勢から俺の方に手を伸ばし、掴まれと言った。 その手を、俺は背伸びをして恐る恐る掴む。

「いいか?引き上げるぞ」

「うん」

久弥に合わせて俺も身体を上へと押し上げる。何とか門扉の上に座った俺は、先に久弥が門の外へ飛び降りるのを見ていた。

「よっと!降りれるかユウマ?」

「どうだろ?」

高さはそれなりにある。
でも、久弥が降りれたんだし俺も降りられるはずと何の確証もなしに決意したその時、久弥から待ったをかけられた。

「良いとこに来た和真!ちょっと手伝ってくれ!」

「ヒサ?お前こんなとこで何して、って誰だぁソイツ?」

門の外側から久弥の友人か、背が高く青い髪色の青年が左手側の道から近付いてきた。
和真と呼ばれた私服姿の青年は久弥を見て、それから俺を見る。

「後で教えてやるから、下でユウマを受け止めてやってくれ」

「お前はまた、コイツどっから見ても一般人だろ?無茶なことさせてんなぁ。ほら、ヒサの頼みだ。受け止めてやるから降りて来い」

ふわりと、一瞬身体が浮き、結局俺は和真に受け止めてもらって地面へと足を下ろした。

「ありがと、助かった」

「おぅ。んで、どうしてこうなったんだ?」

「ユウマはこの後まだ行かなきゃならねぇとこがあるんだ。だから説明は俺が帰って来てからな。じゃ、助かった和真。また後でな」

「あっ、ったくしょうがねぇなぁ」

会話を一方的に終了させ、久弥は歩き出す。

「いいのかあれで?」

「平気だろ」

気になって後ろを振り返れば、俺が苦労した裏門を軽々越え、和真は学校の敷地内へと入っていった。

「それより、正門はこの柵沿いに歩いて角を曲がって、更に左に曲がった先な。俺とお前がぶつかったのはちょうどその中間地点あたりで」

歩きながら角を曲れば、何だか見覚えのある場所に出る。

「ここら辺だ。お前は街の方から来たんだろ?」

「そう。五番街から坂道を上がってきた」

「なら、後はそこの坂を下って行けば元の道に戻れる。必要ならそこまでついてってやるけど、どうする?」

久弥の問いかけに俺は首を横に振って返した。

「ありがと。ここまで来ればもう大丈夫だから」

「そうか?」

「うん。またどこかで会うことがあったら頼むよ」

冗談交じりに笑って別れの言葉を切り出せば久弥も笑ってそうだなと言う。

「じゃぁ」

「あぁ、またなユウマ」

俺が坂道を下るまで久弥は坂道の上で俺を見送ってくれた。




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