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「ううん。一本道を少し戻るだけだし大丈夫。ありがと、久弥」

俺は心配してくれる久弥の言葉を断り、保健室の扉に手をかけた。

「とりあえず校舎内で迷子になられたら困るから正門まで俺が送ろう」

「そんな、これ以上迷惑はかけられませんから。俺一人で大丈夫です」

誠士郎さんにも断りを入れて、俺は保健室を後にした。
その後ろで、くっと低く笑った遊士が久弥をみて余計な一言をもらす。

「むしろかけたのはコイツだがな」

「ンだと?もとはと言えばてめぇが追いかけてくるからだろうが!」

「何だ、やるのか似非優等生?」

再び始まったバトルに誠士郎は付き合いきれないと呆れたため息を落とした。

「暴れるなら外でしろ。仮にもここは保健室だぞ。それに生徒の模範となるべき生徒会長がいちいち後輩に突っかかって…」

「掃除屋。外なら良いんだな?表に出ろよ。今日こそその面ぶん殴ってやる」

「優等生が言う言葉じゃねぇな。もう剥げかかってんだ、いい加減その似非優等生の仮面外したらどうだ」

久弥と遊士は誠士郎を無視して言い合いながら保健室を出て行く。

「誠士郎」

そして、保健室に残された誠士郎はそれまで沈黙を保っていた久嗣に話しかけられ疲れた様子で何だ?と返した。
すると何故か珍しく労わるようにぽんぽんと肩を叩かれ、誠士郎は思わず久嗣を見返す。

「珍獣も見れたし、俺は風紀室に戻る」

「あぁ…」

それだけ言い残して保健室を出て行った久嗣に続き、誠士郎も保健室を後にした。
その後、久弥と遊士のバトルがどうなったのか誠士郎は知ろうとも思わなかった。
ただ、これ以上風紀の仕事を増やしてくれるなと願うばかりであった。
しかし、そうはならないのがこの学園である。

「っ、ヒサ!お前どうしたんだその怪我?」

「和真。これは…っていうかここでヒサって呼ぶな。バレたらどうしてくれんだ」

昼間に訪れた保健室に再び足を踏み入れた久弥はその右頬に真っ白い湿布を貼り付けていた。

「おいおい、誰にやられたんだ?言え」

和真から少し遅れて保健室に姿を現した來希は久弥の怪我を目にすると鋭く瞳を細めて聞く。

「誰でもねぇよ。そんなことよりその物騒な気配どうにかしろ」

「まぁ、聞かなくても俺の玩具に手ぇ出す奴なんてあのクソ会長か掃除屋ぐらいか」

「誰がてめぇの玩具だ。分かってんならいちいち聞くな、腹が立つ」

けど、今頃遊士を見た生徒達は悲鳴を上げているに違いない。
久弥は心の中でざまぁみろと舌を出した。

「…遊士、その頬の傷は」

生徒会室に戻った遊士は副会長、幹久からかけられた言葉に不機嫌そうに眉を寄せた。
遊士の左頬には猫に引っかかれた跡の様な細い線で出来た傷が一筋走っている。

「うわぁ、見事に入った綺麗な傷。総長、誰にやられたの?」

「うるせぇ。その口閉じろ」

不用意に口を開いた書記の昇(ノボル)は遊士の不機嫌さをたっぷり込めた眼差しにあえなく撃沈した。

その夜、夕食を食べに食堂へ姿を見せた遊士に一般の生徒達は久弥が思い描いた通り嬉しくない悲鳴を上げ、同じく食堂にいた久弥は一人胸をスカッとさせる。

第二ラウンドが食堂で始まるとも知らず、久弥はデザートのプリンに舌鼓を打った。

この学園では昼も夜も関係なく、波乱な日常が続く…。



彩王学園ルートEND.


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