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「お世話になります」

廉と工藤さんへ軽く頭を下げて俺は案内してもらうことにした。

ちなみに、メロンクリームソーダは隼人さんがアイスコーヒーの代金もあるからと奢ってくれた。

…良い人だ。

そして現在、喫茶店<向日葵>を出て道沿いに歩いている。歩道はそれなりに幅があって、俺の隣を廉、後ろを工藤さんが歩いていた。

「引っ越して来たって言ったけどユウマはどこから来たの?」

「田舎の方かな。こんなに人も多くなかったし、ビルも少なかった。周りはどっちかっていうと田畑が多かったな」

それで兄ちゃん達の就職先が都会の方に決まって、田舎には両親もいたけど揃って単身赴任が多いから、俺一人を残して行けないって言われて俺も一緒に引っ越してきたんだ。

足を止め、信号が変わるのを待って横断歩道を渡る。渡って、すぐの角を左に。そして右に…。

「廉。ちゃんとした道を覚えさせるなら近道は止めた方がいいぞ」

「あっ、そうだね」

右の道に入ろうとして、工藤さんに止められ廉は真っ直ぐに進路を戻す。

「その道行くと近いの?」

「近いけど目印がないからお前の場合迷う確率が上がるな」

ちらっと後ろを振り返り聞けば、工藤さんはふっと口端を緩めて、俺にとっては恐ろしいことを言う。

「それは嫌だな」

その後も他愛ない話をしながら道を進む。
時おり工藤さんが後ろから口を挟み、廉は店の前を通り過ぎると自分のよく行く店やどこで何を買うと良いと色々教えてくれた。

歩いていると次第に人が多くなっていることに気付く。

「ほら、もうあそこに時計台が見えるでしょ」

「あれが…」

顔を上げれば、青空を背にした大きな時計台が目に飛び込んできた。
時計台の周りには時計台より背の高いビルはないようで建物に遮られることなく良く見えた。
時刻はもう三時を指そうとしている。

「時計台の下はよく待ち合わせに使われてて、休みの日には時計台の下でフリーマーケットが開かれるんだ」

廉の言葉通り、待ち合わせをしているのだろう人達の姿がちらほらと見えた。

俺は時計台の下まで来ると足を止め、ここまで案内してくれた二人を見る。

「じゃぁ、…ありがと。ここまで来れば俺も大丈夫だから」

「そう?」

「うん。工藤さんもありがと」

「俺は何もしてないがな。気を付けろよ」

思いがけず出会った人達に親切にしてもらい、その上心配までされてしまった。

俺はくすぐったい気持ちになり、笑みを溢して廉達と時計台の下で別れた。

五番街を人の流れに乗って歩き、抜ける。
すると目の前に二股に分かれた道が現れた。

「たしかこの道は…」



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