02


次の日、

京介より先に目が覚めた圭志はどこかぼんやりとした表情で目の前の光景を眺めていた。

「………?」

もぞっと体を動かし、間近にある京介の顔をジッと見つめる。

「んんっ、…起きたのか圭志?」

圭志が動いた振動で目を覚ました京介が寝起きの掠れた声でそう言って、いつも通り唇にキスを落とした。

「〜っ!?///」

しかし、いつも通りの筈が圭志は顔を赤く染め、京介から離れるようにベッドから飛び起きた。

「あ、おい!頭打った奴がいきなり動くんじゃねぇ!」

京介に怒鳴られ圭志はビクリと肩を跳ねさせる。

「ったく、それだけ元気なら大丈夫だろうが一応病院行くぞ」

「………」

ふぁ、と欠伸をひとつして京介はベッドから降りる。

その様子を圭志はただ眺めているだけで動こうとしない。

「おい圭志?お前本当に大丈夫か?」

さすがに京介も何かおかしいと気付いたのかボタンを外す手を止めて圭志に近づいた。

そして、触れようと京介が伸ばした手は圭志に叩き落とされた。

「…俺に触るな」

それはまるで警戒する猫の様で。

「………」

だが、そんな事で手を引く京介でもなく無理矢理圭志の腕を掴むと強引に腕の中に抱き寄せた。

「離せっ!」

「熱はねぇな。頭はまだ痛むか?」

「何言ってんだよ、俺は別にどこも痛くねぇよ!いいから離せ!」

頬を赤く染めて圭志は京介から離れようと抵抗する。

そんな普段は滅多に見れない様子と本気で嫌がっている圭志に京介はふと不安を覚えた。

「お前、俺の名前分かるか?」

「知らねぇよ!それにだいたい此処どこだよ?」

逃げれないと分かって抵抗を諦めたのか圭志は不貞腐れた様にふいと横を向いてしまう。

「自分の名前は言えるか?」

「言えるに決まって…!」

ムッと不機嫌そうに口を開いた圭志だが何かに気付いたように動きを止めた。

「あ…、俺…」

次第に顔は青ざめ、圭志は泣きそうに顔を歪めた。

やっぱりな。昨日のせいか、と京介は心中で舌打ちし圭志を抱く腕に力を込めた。

「大丈夫だ。お前には俺がいる」

そう耳元で囁いてやれば抵抗するばかりだった圭志が京介の服をぎゅっと握ってきた。

「お前の名前は黒月 圭志。俺の事は京介って呼べ」

「きょう、すけ?」

「そうだ」

京介、と何度か呟いて圭志は服を掴んでいた手を京介の背に回した。

「京介」

「何だ?」

なんかこうしてると安心する、と圭志は暫く京介から離れなかった。

「俺はずっとこのままでもいいけどな」

しかし、そうもいかず昨日の件を知っている静と宗太、保険医が朝早くから訪ねてきた。







結果、圭志は頭を強打した事による一時的な記憶喪失だと診断された。

「日常生活に支障はなさそうだね。それに一時的なものだからすぐ元に戻るよ、大丈夫」

今の圭志からしたら見知らぬ保険医と他二名。

圭志は京介の手を掴んだまま診てもらっていた。

「ふぅん」

そして返答もそっけないものだった。

保険医が退席し、場所を寝室からリビングに移し圭志は静と宗太と対面する。

「………」

「そんな警戒するなよ。俺と黒月の仲じゃないか」

「知らねぇし、仲良くしたくない」

静がにこにこ笑って話しかければ圭志は眉を寄せて冷たくあしらった。

「圭志、そいつに近づくなよ」

「ん」

まるでそれが正論だとでも言うように圭志の隣に座った京介が圭志の腰に腕を回したままそう言った。

「京介の事は随分信用してるんですね」

素直に言うことを聞く圭志に宗太が感心したように呟く。

「これでも最初は大変だったんだぜ」

大人しく体を預けている圭志に京介は柔らかい視線を向ける。

「あれはお前が…」

視線を向けられた途端、圭志はソワソワと落ち着かなくなる。

その様子に京介はフッと笑み溢して人前にも関わらず圭志の唇を掠めるようにキスをした。

「それより静、野球部の方はどうした?」

「硝子の弁償、一ヶ月の部活動停止処分にしといたぜ」

「それが妥当でしょう」

二人は京介の行動に微塵も動じず、会話を続けた。



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