戯れ(最上×虎野)


シンと静けさを取り戻した保健室で、清潔感溢れる黒髪に細い弦の眼鏡。お決まりの白衣と聴診器を首にかけた男が、扉の鍵を落としながら優しく微笑む。

「自己紹介がまだでしたね。私は新任の保健医、最上(もがみ)と申します」

ちなみに歳は二十七、独身でもあります。

「それで、貴方がお友達と此処を訪れた理由は?頭が痛い?お腹が痛い?熱がある?それとも…怪我かな?」

簡易ベッドのある一画に足を踏み入れ、穏やかな声で訊きながら最上は後ろ手にシャッとカーテンを閉めた。

「ふざけんなテメェ!教師がこんなことしていいと思ってんのか!」

ベッドの上には学校指定の制服を着崩し、もはや肌ける寸前の格好にされた赤髪の男子生徒が一人。ガタガタと頭上にあるベッドのパイプと手首を縛る布を動かし、今にも最上に噛み付かんと側に寄ってきた最上を睨み付けている。

「クラスと名前は?」

「誰が言うか!さっさと外せ!」

「確か…お友達は君のこと、虎野(とらや)君って呼んでたかな」

確かめるようにじっくりと暴れる虎野の反応を眺めながら言えば、虎野の肩がピクリと小さく震えた。

それでも口を割る気はないのか、むっつりと押し黙ったまま睨むのを止めない虎野に最上は唇に薄く笑みを乗せる。

「きみは意外と素直だね」

「なっ…!」

「その調子で保健室に来た理由も教えてくれないかな?」

「………」

更に不機嫌になって視線すら外してしまった虎野に、最上はしょうがないですねと小さく息を吐き、虎野の額に手を乗せる。

「なっ…にすんだ!」

「熱は無いようですね」

「あるわけねぇだろ!」

「そう…、じゃぁ次はこっちだね」

「はっ…」

額から離された手が、せいだいに肌けた胸元に触れ、残りのシャツのボタンを外していく。

「てめ…なにやって…」

「貴方が此処へ訪れた理由を教えて下さらないので、どこが悪いか診察しているんですよ」

虎野に答えながら最上は聴診器を耳にかけ、ぺたりと虎野の胸に聴診器をあてる。ひやりとした冷たい感触に虎野の胸が微かに震え、最上の指先が胸の果実を掠める。

「少し心音が早い気もしますが、まぁ許容範囲でしょう」

すぅっと聴診器はそのまま、臍の辺りまで下りていき、最上の指先が虎野の肌を撫でる。

「…っ、止めろ!俺は別に病人なんかじゃねぇ!」

ぺたぺたと肌に押し付けられる聴診器と掠める指先に虎野は身を捩って抵抗をみせた。

「病人ではない?」

聴診器を首に戻しながら、虎野を見下ろす最上の目はいつの間にか冷ややかなものに変わっていた。優しげな雰囲気からがらりと変わった硬質な空気に、虎野はひゅっと息を飲む。

「では…貴方は怪我人ですか?」

眼鏡の下の双眸が鋭く細められ伸ばされた手が、はだけた虎野の首元に触れ、鎖骨を辿り、胸を通って臍の下までなぞるように滑る。
そして、きっちりと締められていた虎野のベルトに最上の指がかけられた。

「ばっ…何して!」

「怪我人ならば、どこか怪我しているはずです。恥ずかしがらずに私に見せなさい」

カチャリと金属の擦れる音に、最上の本気を思い知らされて、虎野はとうとう口を割る。

「っ、怪我もしてねぇよ!俺達はただ、新任の美人保健医が来るっていうからどんなもんかと見に来ただけだ!」

「ほぅ…、もう口を割ってしまうんですか?これからが愉しいところなのに。虎野君は堪え性がないですね」

にっこりと冷たい雰囲気を一掃して最上は虎野に優しく微笑む。
その間も止まらなかった最上の手がカチャリと虎野のベルトを外していた。
ホックが外され、ジッパーが下げられる。
それにぎょっとしたのは正直に答えた虎野だった。

「ちょっ、止めろよ!ちゃんと答えただろ!」

「えぇ…、貴方は病人でもなければ怪我人でもない」

ジッパーを下げた手とは逆の手で、最上は狼狽える虎野の頬を優しく撫でる。
びくびくと怯えながらも睨むのを止めない、最上から見れば可愛いだけの抵抗に、最上は微笑みそっと身を屈めた。

尚もキッと睨み付ける虎野に顔を近付け、最上は甘く瞳を緩める。

「そのどちらでもない虎野君は、私が気になってしょうがなく見に来たと」

「っそう、だけど…そうじゃねぇ…っ」

ひっそりと耳に流し込まれる甘い声音に、虎野の目元が赤く熱を帯びる。
すると、最上はくすくすと笑いだして、赤みを帯びた虎野の頬に寄せた唇で触れた。

「可愛いことを…」

「――っ」

「私のことが知りたいのでしたら、特別に虎野君にだけ教えて差し上げますよ」

ね、と目元に触れた唇が宥めるように虎野の顔の上へ、ふわり、ふわりと羽のように落とされる。
そろりと、寛げられたズボンの中に最上の長い指先が忍び込み、虎野の分身へと絡み付く。

「―っ、あ…やめ、ろ…っ!」

「反応してますよ?若い証拠ですね」

優しく落とされる口付けに頭を左右に振り、直に触れてくる指先に虎野は足をばたつかせる。
頭上で拘束された腕を動かし、最上から逃れようと虎野は身を捩った。

「う…ぁっ…ぁあ、…やめ…っ!」

「ここが気持ちイイんでしょう?」

「よく…ねぇ…ッ」

「嘘は良くないですね。私の指が濡れてきましたよ。ほら…、貴方にも聞こえるでしょう、虎野君」

下肢を覆っていた下着ごとズボンを下げられ、中から飛び出した虎野の分身が最上の手の中でにちゃにちゃと音を立て始める。
わざと音が聞こえるように絡められた指先が激しく上下し、とろとろと蜜を溢す先端を最上は親指の腹でぐりぐりと押し潰す。

「こんなに溢して、虎野君は気持ちが良くないんですか?」

「っ…ぁう…ァ…よくなん…か、ねぇ…」

顔を真っ赤にしながら、虎野は息を荒らげる。
虎野自身は気付いていないようだが、最上の手の下で虎野の腰はゆらゆらと自然と揺らめいていた。

「そう…気持ち良くないですか」

薄く開いた唇から赤い舌が覗き、はっはっと漏れる吐息に混じって掠れた嬌声が零れる。素直じゃない虎野の態度に最上は笑みを深めて、とろとろと蜜を溢れさせていたモノをきゅっと握って、その流れを塞き止めた。

「あぅ…っ…くっ…」

びくりと虎野の腰が跳ね、虎野は悩ましげに眉をしかめた。最上の手の中で育った熱はぶるぶると震えて、まるで出口を求めるように虎野の中へと逆流していく。

「あぁ…はっ…ぁ、ン…!」

ガタガタとくくりつけられた腕を動かし、虎野の身体がびくびくと跳ねる。

「これでもまだ認めませんか?」

「ぅ…ぁ…だれ…がっ…」

すでに感じているのは明白なのに、まだまだ頑張る虎野に最上はそう言えばと話を反らした。

ギシリとベッドに腰かけ流れを塞き止めたまま、最上は身体の中の巡る熱に抵抗を見せる虎野の様子をじっくり眺めながら口を開いた。

「虎野君は私のことが知りたいんでしたよね」

「…っ…ふざけ…ん、なっ…ぁ!」

「まだ噛み付く余裕があるんですか」

塞き止めた指を僅かに緩めて、くちゅりと生ぬるい刺激を張り詰めたものに与えてやる。
ぽっかりと出口が開いたことで一気に掛け昇ってきた熱に、とろりと虎野の瞳から抵抗の色が抜け落ちた。

揺らめいていた腰が昇り詰めようとがくがくと揺れ、虎野の口から堪えきれずに声が零れる。

「ンぁっ…ぁあ…あっ、あぁ…ッ!?」

しかし解放される直前、絡み付いた最上の指が、容赦なく虎野自身を締め付ける。

「だめですよ。まだイッテはいけません」

「っ…あぁ…っ、はなっ…せっ!」

イク直前に塞がれた出口に、虎野は熱に潤んだ眼差しでキツく最上を睨み上げた。

「そのお願いは私の話が終わった後に。虎野君が可愛くおねだりできたらイカせてあげますよ」

「ぅ…くっ…誰がっ、はなっ…せよっ…ぁあ!」

出口を塞がれたまま、最上の指が先端をぐりぐりと擦り上げる。とろりと少量の蜜が零れ、虎野の腰がびくびくと痙攣し出す。

「私はね、虎野君。貴方のようなちょっと悪ぶってて、でも根は素直な子が好きなんですよ?」

うっそりと囁いて、昂った熱で零れた虎野の涙を最上は唇で拭う。

「可愛くて、可愛くて、甘やかしてあげたくなります」

「ン…ぁ、った…ら…はっ…その手…はなせ…っ…」

身体が熱くて熱くて堪らなくて、虎野は熱に浮かされた思考で正直に自分の欲求を口にする。
けれども最上は頷いてくれずにそのまま話を続けた。

「私が甘やかしてあげるのは、私の可愛い恋人限定ですよ?…虎野君は私の恋人になってくれるんですか?」

「…ン…はっ…ぁ?」

それまで最上を睨み付けていた虎野はきょとんと無防備な顔を晒して、口をぽかんと開けて最上の顔を見返す。

「私はこの短い時間で虎野君のことが好きになりました。一目惚れです」

「は…っ…ぁ…え?」

「試しに恋人になってみませんか?」

思考が追い付かないのか無防備な姿を晒し続ける虎野に、最上は握っていた手をゆっくりとゆるゆると動かし始める。

「あっ…ァ…ぅっ…」

「私の恋人になればもっと善くしてあげられますよ?さぁ、イキたいのなら頷きなさい」

ぶるぶるとまた昂った熱が虎野の身を焼き思考を溶かす。
くちゅくちゅと零れる水音に、蜜が溢れ最上の指を濡らしていく。

「さぁ…虎野君。可愛くおねだりしてごらん」

「はぁ…ぁあ…っン、ぁ…」

一際強く擦り上げ、最上は虎野の耳元で甘く惑わせるように虎野の鼓膜を揺らす。

「頷くだけで、イカせて下さいってお願いするだけで…良いんですよ?虎野君はそのままで可愛いんですから」

「っ…ふざけ…ン…あぁっ!」

ぎゅっと緩めた手を再び握って最上は優しく微笑む。
虎野君と甘く囁き、強弱をつけて弄ぶようにまた絡めた指で虎野のモノをゆるゆると抜く。

「あ…っ…はっ、ぁン…もっ…やめ…おかしくなるっ」

「大丈夫ですよ。どんな姿でも貴方は可愛い」

「っ…ぁん…分かった、から。…はや…くっ…」

「早く何ですか?」

「…イカせ…ろっ」

赤く染まった虎野の目元から、ぽろりと涙が零れ落ちた。最上は舌先で涙を掬い上げ、優しく虎野の唇に口付ける。

「良く出来ました」

一転して甘くなった指使いに虎野の腰が前後に小刻みに揺れる。
口付けられながら高みへと昇る熱に虎野の身はぐずぐずに溶かされていった。

「あっ…ん…はっ…ぁっ…」

とろりととけた反抗心に最上はにっこりと笑う。

「そろそろイキそうですね」

散々高められ抑え込まれた熱にぼぅっと虎野の焦点が怪しく宙をさ迷い出す。

「ぅ、ンッ…あっ…あッ」

「さぁ、好きなだけイキなさい。…私の可愛い虎野君」

たらたらと蜜を溢していた先端がぐちゅりと再び強く押し潰され、最上は絡めた指先を激しく上下に動かした。

「ひぁっ…あぁっ…あくッ…んぁ、ぁあ…ぅ、ンンッ――!」

パンパンに張り詰めていたモノから、びゅるりと解放された喜びに蜜が噴き出す。
待ち望んでいた解放にガクガクと虎野の腰が揺れ、それに連動するようにギシギシとベッドが軋んだ。

「ぁふ…ッ…あっ…あ、ぁ…」

「ふふっ…とてもイイ顔をする。気持ち良かったでしょう?」

ぬちゅぬちゅと最後の一滴まで絞り出すように絡めた指先を動かしながら、最上はベッドへと弛緩した身体を沈めた虎野を愛しげな眼差しで見下ろし口許を緩める。

「沢山出ましたね。虎野君はあまり一人で処理はしないんですか?」

「…ン…ぁ?」

イッた直後でぼんやりと余韻に浸っていた虎野は何事か聞いてきた最上に鈍い反応を返した。

「いえ、何でもありません。それより手が痛かったですよね」

今外しますと言って、最上の手が虎野の手首とベッドを縛る布に伸ばされる。
堅く縛られていた布が解かれれば、虎野の手首には薄く赤い縛られた跡がついていた。

「ごめんなさい、虎野君。貴方があまりにも私の好みだったので、つい逃がしてはいけないと捕まえてしまいました」

手首に出来た赤い跡を擦りながら虎野はハッと我に返ってベッドの上を後ずさる。

「て…テメェ、こんなことしてただで済むと思うなよ!」

顔から引かない熱に瞳を潤ませたまま、虎野は最上を睨み付けた。
すると、最上は虎野のきつい眼差しを受け止め何故か柔和に微笑む。

「えぇ、ただでは済まないでしょう」

「は…?」

「私にはちゃんと虎野君の我が儘を聞く度量ぐらいはありますよ?」

「はっ…なんの…」

「ですから、可愛い恋人の可愛い癇癪ぐらい私はいつでも受け止めてあげますよ。さぁ、虎野君は私に何をして欲しいんですか?」

今なら虐めたお詫びにたっぷり甘やかしてもあげますよ?

ふふっと微笑を浮かべた最上に虎野はぞくりと背筋を震わせる。

「ふっ…ふざけんな!誰が誰の恋人だっ!」

無理矢理頷かされて、無理矢理イカされて。
声を震わせ怒鳴った虎野に最上は困ったように言う。

「虎野君は恋人でもない人に、イカせて欲しいとおねだりするんですか?」

「ぐっ…それは…テメェが…」

「私が強制したから?仕方なく虎野君は頷いた?」

「そ…そうだ…」

「そう…ですか…。せっかく可愛い恋人が手に入ると喜びもひとしおでしたのに、虎野君がそこまで嫌がるならば」

泣く泣く諦めるしかありませんね。

すっとベッドの側から離れた最上はさっさと白衣を翻してしまう。
その余りにあっさりとした感に手を出された虎野は釈然とせず、気付けばその背中に言葉を投げていた。

「か、勘違いすんなよ!俺は誰彼構わず触らせたりなんかしてねぇ!」

「………」

「ましてや…人を好き者みたいに。っておい、聞いてんのか最上!」

虎野の声にぴたりと最上の足が止まる。

「聞いてますよ」

「だったらこっちを向け!教師のくせに人と話をする時は目ぇ見て話せって教わらなかったのかテメェは!」

「やはり虎野君は根が素直な良い子ですね」

「はぁ?」

くるりと振り向いた最上は今までで一番美しいと、誰もが見惚れるような笑顔を浮かべていた。
コツリ、コツリとベッドの側に戻った最上は、例外では無くぽぅっと自分に見惚れる虎野に顔を近付け囁く。

「誰彼じゃないということは、私にもまだ望みはあるということですね」

「はっ…馬鹿なこと言ってんじゃ…」

そっと持ち上げられた最上の右手が虎野の頬をなぞり、言葉を遮るように唇に添えられた。

「覚悟しておいて下さい虎野君。私はいずれ貴方の恋人の座を手に入れてみせます」

「は…っ、ふざけんな」

唇に添えられた手を虎野は乱暴に払う。

「ふざけてなんかいませんよ?…あぁ、それから。溜めすぎは身体に良くないですよ」

「っ――、大きなお世話だっ!」

「お手伝いが必要ならいつでもいらして下さいね」

カァッと顔を怒りか羞恥か真っ赤に染めた虎野は身形を整えると、保健室の扉を乱暴に開け放って、捨て台詞を吐いて保健室を出て行った。

「こんなとこ、もうぜってぇ来ねぇからな!」

その後ろ姿を最上は微笑ましいものを見るようににこやかに見送っていた。



end.

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