04
「〜〜っ、したかったって。俺がいつ…」
キスして欲しいなんて!
…絶対言ってない!
これには納得出来なくてうーうーと一人唸っていれば綺麗に皿に盛られたマカロンが出される。
「これ食べたら勉強の続きな」
まるで先程のことなど無かったかの様に普段と変わらない態度の工藤に俺も頑張って平静を装う。
「…っ…おぅ」
皿に盛られた黄色やピンク、黄緑に水色のマカロンに意識を奪われ…どれを食べようか少し迷う。
その様子を隣で眺めていた工藤は喉の奥でひっそりと笑った。
近付きすぎると警戒されて、でも離れれば寂しそうにする。
振り回されている自覚はあるがそれも良いものだと工藤は心の内で思った。
「あ、工藤はどれ食べる?」
「残ったのでいいぜ」
「じゃぁ、コレとコレな」
「あぁ」
マカロンを美味しく食べて、調子を取り戻した俺はその後真面目にまた勉強に取り掛かった。
分からない所は素直に工藤に訊いて。
一緒に勉強して分かったことが一つ。
工藤って結構頭良い。
まぁ、それなりに偏差値の高い緑高に通ってるんだから普通かも知れないけど。
すらすらとシャーペンを走らせる工藤の横顔をちらりと盗み見る。
そういえば工藤ってどんな学校生活を送ってるんだろう?…何だか気になる。
盗み見したつもりがジッと見すぎてしまったのか不意に向けられた視線と絡まる。
「あ…」
「どうした?また分からない所でもあったか?」
「えっと…うん。この単語なんだけど…」
本当は分かっていたけど、俺の口をついて出たのはそんな言葉。
俺のノートに書き加えられる工藤の字を見て何だか胸の奥がきゅぅと震える。普段だったら交わることのない学校生活。
近付いた距離に、すぐ隣で紡がれる低い声に意識を奪われる。
それを懸命に堪えながら俺は口を開いた。
「…そっか。こっちを先に訳して」
「そうそう。落ち着いて考えれば出来るだろ?」
頬を緩めて笑った工藤に俺は落ち着きとは真逆の衝動に駆られながら頷き返す。
「後は自分で出来ると思うから…工藤は自分の勉強しなよ」
「じゃ、分からない所があったら遠慮せず訊けよ?」
「うん」
自分の勉強に戻っていく工藤にほっとして、喉の渇きを感じてティーカップに手を伸ばす。
とにかく落ち着こうと紅茶に口を付けて、今度はこの紅茶のせいで見た夢を思い出す。
「――っ」
堂々巡りする思考に嫌でも工藤を意識してしまう。変なことを仕出かしてしまう前に今日は早めに勉強を切り上げて家に帰ろうと俺は心に決めたのだった。
そわそわとしたその空気が工藤に筒抜けだったとも知らず…。
END.
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