02


side 廉


何がどうしてこうなったのか、俺は真っ白になった頭でただひたすら逃げ出したいと思った。

熱の上がった頬は林檎のように真っ赤で、俺は何故こんな道端で工藤に抱き締められているのか。

「行くな…廉」

耳元に寄せられた唇が切なげに言葉を吐き出し、きゅぅと胸が震える。

「行くなって…俺は別にどこにも…」

そっと見上げた工藤は眉を寄せ、辛そうに俺を見ていた。
なんでそんな顔してるんだ、と俺は自然と持ち上げた右手で工藤の頬に触れた。

「いきなりどうしたんだよ工藤?」

恥ずかしかったのも忘れ、いつにない様子の工藤が心配になる。
頬に添えた手に工藤の左手が重ねられ、掴まれたと思えば掌に唇を寄せられる。

「なっ…!」

感じた熱と柔らかな感触に慌てて手を引こうにも工藤に掴まれたままなのでぴくりとも動かない。

「ちょっ、くど…」

「本当か?」

「え?」

「お前は目を離すとすぐどこかいっちまうからな。…他の奴の所とか」

じっと絡まる茶色の双眸は真剣そのもので。俺はこくりと息を飲んで、僅かに間を開けてから答えた。

「…どこにも行かないって言っただろ。工藤みたいに俺が好きだっていう物好き…お前しか、いないだろ」

自分で言ってて恥ずかしくなってきて、赤くなった顔を隠すように工藤の胸に頭を押し付ける。

「〜っこんなこと言わせんな馬鹿!」

耳まで赤くして八つ当たりすれば、工藤の纏っていた気配が和らぐ。頭を抱かれ、宥めるように軽く後頭部をぽんぽんと叩かれた。

「悪かった。少し思う所があってな」

「考え込むぐらいなら先に俺に言えよ。…心配した」

「あぁ、次からそうする」

ふと笑った工藤に顎を掴まれ上向かされる。

「廉」

甘く低い声で名前を呼ばれて、近付く距離に逆らわずに瞼を閉じる。

「工藤…」

「廉、あいして…」

吐息が触れて、唇が―…



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