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〔竜の雲:二匹の右目、追跡編〕


遠ざかっていく二頭の馬を目先に捉え二人は厩の前で駆けていた足を止めた。

「ちっ、悪餓鬼共め。逃げられたか」

「小十郎殿、俺も気持ちは痛いほど分かりますが厩番が怯えているんでその殺気しまって下さい」

おっと、すまねぇと謝罪した小十郎に厩番は青ざめた顔で首を横に振った。

それから馬を一頭出すよう告げた。

「政宗様はまた執務放棄ですか?」

「そうだ。ちぃっと目を離した隙に逃げられた。そっちは?」

「似たようなものです。文句も言わず珍しく真面目に勉強をしていると思って少し席を外した隙に身代わりを置いて逃げられました」

それと、湊様の壊した障子は後で湊様に弁償させますので。

意外と主に厳しい泉に小十郎はあぁ、と一つ頷いて返した。

それから泉は厩番から手綱を受け取る。

「では、俺は城下に」

馬の背に跨がり泉は二人が去っていった方向へ顔を向ける。

「俺は城で待機している。頼んだぞ」

「はい」

馬の腹を蹴り、駆け出した泉を見送って小十郎は空を見上げた。

暖かな陽射しに青く澄み渡る空。

いうなれば蒼天。

「サボりたくなる気持ちも分からんでもないが…」

雪で閉ざされていた奥州に春の訪れ。

小十郎はしょうがない、と口元を僅かに緩め厩を後にした。



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