02


それから…。

「遊士様、長曾我部殿と毛利殿がお見えになりましたが如何致しますか?」

襖越しに彰吾が声をかけてきた。

「こっちへ連れて来てくれ」

「はっ」

スッと彰吾の気配が遠ざかり、明良が口を開く。

「やっぱ毛利の旦那も来たね」

「元晴殿と会うのも久々だな」

そう待つこともなく、彰吾が二人を連れて真田達に宛がった部屋へと戻って来た。

彰吾が中へ一声かけ襖を開ける。先に客人二人を中へと促した。

「ありがと彰吾。…久し振り、遊士。幸弘と明良も来てるんだって?」

先に入ってきた陽菜は遊士に挨拶をし、室内にいる幸弘と明良に視線を向ける。

「フン、暇人が居たものよ」

その後ろから何処と無く機嫌の悪そうな元晴が姿を現した。

「久し振りだな陽菜。元晴も元気そうでなにより」

そう挨拶を返した遊士の側に、襖を閉めて彰吾が座る。

「長曾我部殿、元晴殿」

「どーも」

幸弘と明良とも軽く挨拶を交わし合い、二人も座った。

「あ、そうだ。遊士、文に書いた例の物、彰吾に渡してあるから」

チラリと彰吾に目配せすれば彰吾が心得たように頷く。

「Thank you.陽菜」

遊士はそれを受けて陽菜に感謝の言葉を口にした。

「ううん、別にこれぐらいどうってことないし」

「長曾我部殿。例の物とはいったい…?」

話の読めない幸弘は素直に陽菜に聞き返す。だが、陽菜が答えるより先に元晴が口を開いた。

「あぁ、アレか…。どうするのかと思えば竜への土産であったか。しかし、それならば俺に頼めば良いものを。コヤツより確実に素晴らしき幸を持参してやったというのに」

「ちょっと元晴。どういう意味よそれ。聞き捨てならないわね」

胸の前で腕を組み、やれやれといった調子で溜め息混じりに言った元晴に陽菜が眉を吊り上げる。

「で、例の物って結局なんなわけ片倉の旦那」

明良も気になったのか言い合う二人を横目に、一人現物を目にしている様子の彰吾に聞いた。

「海の幸だ。四国の海で採れた新鮮な魚や貝などを長曾我部殿から貰った」

「ふぅん」

「羨ましい…。四国の海の幸は美味だと聞き及んでおります故、是非御館様にも食して頂きたいもの」

「ならこうすりゃいい。元晴、そこまで言うなら真田に採ってきてやったらどうだ?」

「虎若子に?」

遊士の提案に、陽菜に向いていた鋭利な視線がジロリと幸弘に向く。

「む。元晴殿がよろしければ、俺は嬉しいが…」

その発言に不機嫌から一転、元晴の口元にうっすらと笑みが浮かぶ。

「よかろう。俺が長曾我部より良い品を採ってきてやる」

これで二人の言い合いも丸くおさまるだろ。
勝手に纏まった話に陽菜はいつもの事だと溜め息を落とす。

「悪いわね、明良。何か巻き込んで」

「ん?俺は別に。旦那も喜んでるし良いんじゃない?」

是という返事を貰い、喜ぶ幸弘を目に明良はあっけらかんと笑う。

「片倉、後で長曾我部の持参した品とやらを見せてはもらえまいか?策を練らねばならぬからな」

「言うと思った。いいぜ。後で見せてやる」

ふと言葉を投げられ彰吾は苦笑して頷いた。それを耳にして遊士が横から口を挟む。

「ah-、なんなら夕餉に振る舞うか。陽菜と元晴は泊まってくだろ」

「遊士殿!ならば俺ももう一泊泊まらせて頂きたい。夕餉もそうだがまだ話し足りない故」

「ちょっと旦那ァ?」

困惑する明良をよそに幸弘は遊士を見つめて頼んだ。

「そうだな…、彰吾が良いって言ったらな」

「片倉殿…」

「…しょうがねぇ。遊士様に感謝しろよ。それと猿の手綱は確り握っとけ」

言外に遊士が良いと言っているのだ。それに陽菜や元晴と会う機会も少ない。…たまにはこういうのもいいだろう。

「忝ない。遊士殿と彰吾殿の御心遣い、感謝致す」

「うん。ちょーっと引っ掛かる部分はあるけど旦那共々また世話になるよ」

帰る予定だった幸弘達の滞在が決まり、遊士はOK.と流暢に言葉を紡ぐ。

「今夜は久々のpartyだ。みんな楽しんでけよ」

ニィと高らかに告げた遊士に皆それぞれ口元を緩めた。



これが彼、彼女達の関係。
それが彼、彼女達の日常。



end.


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