02


お茶で一服しながら遊士は彰吾に真田が来ることを告げた。

「それで猿飛が…」

「Yes.久々にお前と遠駆けに行けるかと思ったんだがな」

残念そうに茶菓子を摘まむ遊士に彰吾はほんの少し嬉しくなった。他の誰でもない、自分とと言ってくれたのだ。

「近い内、機会を儲けましょう」

「おぅ」

そして残りの執務に遊士は取り掛かった。

すらすらと進む筆に、彰吾が時折助言をして、と一つ一つ終わらせていった。

「お疲れ様でした」

「Ya.彰吾もな」

互いに労り、二人の間をゆったりとした空気が流れる。

しかし、それもすぐさまぶち壊された。

「筆頭―!」

「遊士様―!」

ばたばたと廊下を走る音が近付いて来て、部屋の前でピタリと止まった。

「何があった?」

彰吾が障子を引き、鋭い声で問うと、走ってきた伊達軍兵士が蒼い顔をして答えた。

「か、片倉様。それがっ…」

「門前に真田 幸弘が!」

それを聞いて彰吾は指示を仰ぐよう遊士を振り向く。

その視線に頷き、遊士は知らせに来た兵に視線を移した。

「客間に通せ。後から行く」

「「はい!」」

遠ざかる足音を聞きながら遊士は立ち上がった。

来ちまったもんはしょうがねぇ。







客間に入れば、子供の手本のように元気のいい声が遊士達を出迎えた。

「遊士殿!彰吾殿も。お久し振りでござる」

「ha、相変わらずだな真田 幸弘」

上座に腰を下ろした遊士の側に控えるよう彰吾が座る。

「それで、今日は何の用だ?」

遊士は幸弘に視線を合わせながら懐から短刀を取り出した。

すると、幸弘の横にサッと影が降りてきた。

「いやぁ、お二方。さっき振り」

「おい、猿飛。なんでてめぇがうちの天井裏から降りてくるんだ。事と場合によっちゃ容赦しねぇぞ」

遊士は短刀を懐にしまい、彰吾と明良が睨み合う。

「明良!」

それを幸弘が諌めるように明良の名を呼んだ。

「すまぬ彰吾殿。明良には俺がよく言い聞かせておくゆえ見逃しては貰えまいか」

「彰吾」

遊士に促され、その意図を汲んだ彰吾は幸弘の目をしっかりと見据え、言った。

「真田、てめぇに免じて今回は許してやる」

「すまぬ。ほら、明良、お主も謝れ!」

しょぼんとした幸弘は横にいた明良の腕を掴み、グイッと下に引いた。

「あ〜、その。俺が悪かったよ」

幸弘には逆らえない、と明良は罰の悪そうに鼻の頭を掻いて明良は謝罪の言葉を口にした。

「んで、何しに来たんだ?オレも暇じゃねぇんだ、さっさと用件を言え」

幸弘の斜め後ろに控えた明良を視界から外して、遊士は幸弘を見た。

「うむっ。遊士殿と手合わせ致したく甲斐から参ったしだいでござる!」

「………ah?もう一編言ってみろ」

「ですから、遊士殿と手合わせ致したく…」

「Stop!もういい」

スッと片手を上げ、幸弘を制した遊士は幸弘から明良へ視線を移す。

「本当にその為だけに来たのか?書簡を持って来たとかじゃなく」

遊士の呆れた眼差しを受けて、明良はだってしょうがないじゃんと肩を竦めて頷いた。

「ぬっ?何か問題でも?」

純粋に不思議そうに首を傾げた幸弘に遊士はコイツ、本当にオレと同い年か?とつい疑いの目を向けてしまった。

「チッ、しょうがねぇな。相手してやる。表へ出ろ」

愛刀を手に、立ち上がった遊士と喜びに顔を輝かせた幸弘。

「お待ち下さい遊士様」

「何だ?」

「着流しで相手するおつもりですか?せめて袴に着替えてからにして下さい」

おっと、いけね。と遊士は自分の姿を見下ろし、着替えてくると言い残し客間を出て行った。







場所を移し、袴に着替えた遊士と幸弘が向き合う。

「Come on.かかって来いよ」

ジャリッと砂利を踏み鳴らし、刀を半身上段に構えた遊士は幸弘に鋭い視線を投げた。

「いざ、尋常に…勝負!」

幸弘は二槍を手に間合いを詰めた。

ガッと刀にのし掛かる重い一撃を受け流し、遊士は幸弘の懐に潜り込む。

力ではどうしても負けるがスピードは遊士の方が上だ。

「ha―!」

ザッと刃を返し、下から上へ向けて斬り上げる。

「くっ―」

飛び退き、辛うじてかわした幸弘の前髪が数本宙を舞う。

再び開いた間合いを同時に詰め、刀と槍が鈍い音を立ててぶつかり合った。

「やるじゃねぇか真田ァ!」

「遊士殿こそ!」

ギィンと刃を交える遊士と幸弘を彰吾と明良が離れた場所で見守っていた。が、

「しょうがないって言ってた割りには竜のお嬢…っおぁ!」

いきなり刀が明良目掛けて飛んできた。

まるで図ったようにトスッと明良の足元にそれは突き刺さった。

「oh、sorry!握りが甘かったのか、すっぽぬけちまったぜ」

カラカラと笑いながらやって来た遊士に、彰吾が刀を抜いて手渡す。

「呉々もお気を付け下さい、遊士様。こんな些事で怪我をしたら大変です」

「おぅ、分かってるって。なぁ、猿?」

「………そうだね。竜の、旦那」

明良は無理矢理口元を引き上げて笑った。

「遊士殿ー!早く続きを…」

暢気に声を上げる幸弘がこの事態に気付くのはいつなのか。

今日も平和に(一人除く)時が過ぎていく。


end.


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