混合軍小話02
〔混合軍:子孫、竜と鬼編〕
遠路遥々やって来た西海の鬼とその子孫、陽菜を歓迎してその夜、伊達軍では宴が開かれた。
宴に出された品々の中には元親が持ってきた魚介類も並び、遊士は久々に味わう四国の海の幸に舌包みを打つ。
「ん、美味い」
「でしょ?それアニキが釣ったんだよ。あ、これも美味しいから食べてみな遊士」
遊士の隣に座った陽菜はあれこれと機嫌良く遊士に進める。
「って、こんなに食べれねぇよ」
小皿に盛られていく料理の数に、感謝の言葉より先に呆れたような声が遊士の口から出た。
「大丈夫、残ったら彰吾が食べてくれるわよ。ね?」
そう信じて疑わない陽菜の視線に彰吾は苦笑いで返す。
「あまり遊士様を困らせるなよ長曾我部」
それを政宗と元親は上座に座り、互いに酒を酌み交わしながら何とはなしに眺めていた。
「しっかし、不思議な事もあるもんだな」
「ah?」
「いやよぅ、陽菜から聞いたんだが、今こうして天下だ何だといがみ合ってる奴等が仲良く手を取り合ってる先の世があるってんだから不思議なもんだよな」
クイッと手にした盃を傾け、元親は政宗をチラリと見やる。
「あぁ…。でも、アイツ等の生きる世がそれで平和になるなら、ある意味他と手を結ぶのも一つの策だな」
遊士達が来たことで、今まで考えられなかった選択肢が増えた。
「現に長曾我部と伊達が同盟を結びましたしな」
カタリと、新しい徳利を二人の膳に乗せた小十郎が、政宗の言葉に同意して言った。
双方、一国の主として中々真面目な会話をしていた時それは起きた。
ガシャーンと、煩い宴の中にあって響いたその音。
伊達も長曾我部もどちらかと言えば荒くれ者揃いの男所帯で、酒の席ともなれば酔って一波乱あるかも知れないと、上座に座る元親と政宗、側にいた小十郎は思っていた。
しかし、
「何よ、アニキの方が格好良いに決まってるだろ!」
「ha、海賊風情が。政宗に勝てると思ってんのか!」
立ち上がって睨み合うこの二人は予想外だった。
「遊士様!お止め下さい!長曾我部、お前も座れ!」
彰吾が間に入って止めようとするが、二人は全く聞かない。
「止めんじゃねぇ彰吾!そこまで言われて黙ってられるか!」
「そうよ、彰吾は引っ込んでてちょうだい!」
何が切っ掛けで二人が言い合いになったのかさっぱり分からないが、話からしてそれぞれの主のことらしい。
それだけ理解すれば、酒の入った、ましてノリの良い連中が騒がないわけもなく。
「いいぞー!もっと言ってやってくだせぇ、遊士様!」
「アネキー!格好良いッス!田舎者なんかちゃっちゃと負かしちゃって下さい!」
遊士と陽菜を中心に周りを巻き込み、これでもかと囃し立てた。
「なぁにやってんだアイツ等は」
「面白そうじゃねぇか。なぁ、小十郎?」
「はぁ……」
上座に座る本人達を無視して、遊士と陽菜の言い合いは加速していった。
ちょいちょいと政宗の手招きに気付いた彰吾はその場を一旦離脱する。
「政宗の方がCoolで、粋じゃねぇか!」
「アニキは海のように広い懐を持ってるんだから!」
「それを言うなら政宗だって負けちゃいねぇ!」
「何よ!」
「何だよ!」
バチバチと火花を散らす二人は一体どうしたのかと、政宗は側へと呼んだ彰吾に尋ねた。
「それが、長曾我部が…陽菜の方ですが、口を滑らせまして」
アニキに敵うものは誰もいない、流石はアニキ、等と遊士様の前でそれはもう長曾我部殿を誉めちぎりまして。
困ったように告げる彰吾に、政宗の隣で一緒に話を聞いていた元親はくすぐったい気持ちになる。
「それで?」
政宗に先を促され彰吾は続ける。
「当然、遊士様は面白くないわけでして」
遊士様からしてみれば、政宗様に敵う者は誰もいないという風になりますから、
結果、二人の意見がぶつかり合ってあの様な事に、と彰吾は締め括った。
「二人は酔っているのか?」
横からの小十郎の問い掛けに彰吾は首を横に振る。
「どちらも素面かと」
それには流石の三人も驚いた。
てっきり酔いに任せて言い合いになったのだと思っていたが、…あれだけ褒め称える様な台詞を素面で言っているとは。
嬉しくもあり若干気恥ずかしさを覚えた政宗と元親だった。
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