02
政宗が容赦なく斬りかかると女はそれを正面から受け止めた。
ブンッと刀を弾くよう振られた武器がジャラリと音を立てる。
身の丈を越すその武器に政宗は見覚えがあった。
「碇槍か。アンタ長曾我部の人間か?」
確か元親が同種の碇槍を武器として振るっていた。
部下をやられて頭にきてはいるが、政宗は冷静だ。
「そうだって言ったらどうする?許してくれる?」
「ha、んなもんNoだ。長曾我部だろうと俺の部下に手ぇだした償いはさせてやる」
自分に向かってきた碇槍をかわすと、政宗は女の懐に飛び込む。
女は直ぐ様後方へ距離をとろうと跳ぶ。
それと同時に遠心力を使い、碇槍を飛び込んできた政宗に向かわせた。
「おせぇ!」
しかし、碇槍が到達するより先に政宗は女の横腹に蹴りを入れ、碇槍を刀で弾き飛ばした。
「……くっ」
飛ばされた女は何とか受け身を取り、地面に転がった。
「相変わらず容赦ねぇな独眼竜。普通女にここまでするか?」
そこへ、新たな人物が現れ女の横に立った。
「大丈夫か泉?」
「ん、何とか。悔しいけど手加減されてたみたい…」
体を起こした泉は、差し出された手をしっかりと掴み立ち上がった。
「で。これはどういうことか説明してもらおうか、西海の鬼」
くだらねぇ理由だったら斬ると政宗は刀に手をかけたまま泉の隣に立つ元親に視線を投げた。
元親はその眼差しに臆するでもなく当然のように答えた。
「あぁ、コイツが独眼竜の強さを知りたいって言うからやらせてやったんだ」
ぽんと頭に手を置かれた泉は政宗に向かって軽く頭を下げる。
「試すような真似してごめんなさい。この時代の伊達がどれだけ強いのか知りたかったからつい」
その言い方に政宗は違和感を覚えた。
この時代…?
「まさかアンタも…」
「Hey、政宗!ケリは付いたか?」
政宗の台詞は後ろからかけられた弾んだ声に遮られた。
「政宗?へぇ、随分気を許した相手がいるんだな」
独眼竜を呼び捨てで呼ぶ相手に元親は興味を示したようで、政宗に近付いてくる人物を見やった。
隣では何やら不思議そうに泉が首を傾げていた。
「やられた奴等は皆気絶してるだけで後少ししたら起きるぜ」
そう言って湊は政宗の隣に立った。
「…え?……湊?」
その姿に泉は目を見開き呆然と呟いた。
湊も泉に気付くと軽く目を見開き、次の瞬間にはニッと笑って見せた。
「久し振りだな泉。まさかこんなとこで会うとは思わなかったぜ」
「それはこっちの台詞だよ…」
泉も驚きから苦笑を浮かべ、笑う。
「知り合いか?」
政宗と元親は揃って同じことを口にした。
「うん。湊はオレの親友」
「親友っていうか悪友に近いけどな」
そう言って肩を竦めた湊の隣で政宗はへぇと呟き泉と元親を見る。
「ってことはコイツは鬼の子孫か。鬼に似なくて良かったな」
「はっ、そっちは独眼竜に似て生意気そうだな」
話を振られた湊は元親にニヤリと笑って見せる。
「そりゃどうも。誉め言葉として受け取っとくぜ」
すると元親は変な顔をした。
「変な奴だな。今のが嬉しいか?」
「オレにとっちゃ嬉しいね」
政宗は憧れで目標で、言葉では語り尽くせない程の想いがオレの中にはある。
フフンと堂々と頷いた湊に政宗は口端を吊り上げる。
湊の肩に左腕を回し、元親を挑発する。
「どうだ羨ましいか?」
自分を慕ってくれる湊。嬉しくないわけがない。
「…別に」
「じゃぁ今の間はなんだよ?」
にやにやと政宗と湊は揃って元親を苛めだす。
「アニキ!オレだってアニキみたいに男気溢れる海の男になるのが夢なんだからな!」
元親の腕を掴み、泉は元親を見上げて言った。
いや、お前女だし、海の男は無理だろ…。
伊達二人は思っても口にはしなかった。
はっと我に返った元親は泉の頭に手をやり朗らかに笑う。
「泉…。そうだよな。俺にはお前がいる。大体男に好かれたって嬉しくもねぇ」
立ち直った元親はそう言って泉の頭を撫でた。
「え?アニキ、湊は…」
「Stop!泉。それはSecretだぜ」(秘密)
どうやら元親は湊を男だと思っているらしかった。
湊はあえて教えず、泉にも黙ってるよう釘をさす。
何で、と視線で問う泉に湊はニヤリと一言。
「その方がおもしれぇから」
「あ?何がだ?」
首を傾げた元親に何でもない、と返して湊は政宗に視線を投げた。
―ちょっと遊んでもいいだろ?
―構わねぇが程々にな。
その視線に頷いた政宗は元親と泉を客人として城へ迎えた。
「冗談はさておき、遠路遥々よく来たな。歓迎するぜ、西海の鬼」
「おぅ」
政宗と湊に連れられ、元親と泉は城内へと足を踏み入れたのだった。
さて、竜の住処に飛び込んだ西海の鬼の運命やいかに―?
end.
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