竜の雲番外:遊士編


〔竜の雲:未来の伊達主従:遊士編〕



文机の前に腰を下ろした遊士は些か困った様な表情で手にした文の文面を目で追った。

足元では子猫の白桜が構って構ってとじゃれついてくる。

「……ah?」

文を読みながら遊士は白桜の頭を撫でてやり、喜ぶ白桜とは逆に深い溜め息を落とした。

「どうしろってんだ…。彰吾もいねぇし、かといって小十郎さんには相談しづらい。…やっぱここは政宗に」

心を決めると遊士の行動は早かった。
甘えてくる白桜を喜多たち女中に預け、懐に問題の文を忍ばせ遊士は政宗の元に足を運ぶ。

障子を開け放して刀の手入れをしていた政宗は近付いてきた遊士の気配に、遊士が声をかけるより先に口を開いた。

「どうした、何かあったか?」

「まぁ…。ちょっと困ったことが。とりあえずこれ見てくれよ」

そう言って遊士は懐から取り出した文を政宗に渡す。

「見てもいいのか?」

「ん…」

政宗の手に渡った文。
くるりと表に返して政宗は一瞬目を見張った。

「っ、おい。これ誰から貰ったんだ?」

そう問う声は笑い混じりで。

「貰ったっていうか…飛んできた矢に付いてた。そこに名前は書かれてるけど、まったく心当たりないんだよな」

「ックク…、そうか。…しっかし、お前に果たし状とはなぁ」

ぱらりと開かれた文には、お付き合いをしていた彼女が遊士に惚れてしまい、恨みますと、何とも逆恨み甚だしい内容が。

親しい者しか遊士本来の性別を知らない。
特に隠しているというワケではないが、遊士の普段の素行や格好から皆には男だと思われていた。

「決闘場所は城下の外れの神社近くか。行くのか?」

「それを迷ってんだよ。名を知らないとはいえ相手は政宗の家臣だろ?叩き潰しちまったらまずいし、オレには戦う理由がない」

困りきった顔で言う遊士に政宗はふむと暫し考え、口を開いた。

「行ってこい。再起不能にされちゃ困るが、軽く叩く程度に倒して来い」

「いいのか?」

「あぁ。ソイツの為にもな」

一旦刀の手入れをする手を止めた政宗は席を立つと文机の前に腰を下ろして筆を手にとる。

「政宗?」

さらさらと流れる様に半紙の上を滑る筆を遊士は不思議そうに眺めた。

「ah-そうだ、遊士。間違っても手加減するなよ」

「ん?あぁ」

何やら書き終えたのか政宗は文机の前から離れ、遊士の側に戻ってくる。

「そうすりゃきっと丸く収まる。悪いがこの文を喜多に渡しといてくれ」

「おう」

それじゃ、と用件を済ませた遊士は預かり物の文を手に席を立った。

喜多さんに用なら呼んで言えば良いのに、と政宗の行動に首を傾げつつ遊士は頼まれた通り喜多に文を渡し、変わりに白桜を受け取ってその日は自室に戻った。







翌日、遊士は指定された城下の一角に愛刀をひと振り腰に携えて立っていた。また、向かい合う様に立つ相手も右手に刀を握っている。

「よくぞ来たな」

「………」

初っぱなから何だか殺る気満々な相手に遊士も気を引き締める。どれだけ振られた彼女とやらが好きだったのか、その深い想いがヒシヒシと殺気となって伝わってくる。
遊士が恐れる程の威力はないが、相手が真剣だというのは良く分かった。

「…OK.まどろっこしいのは好きじゃねぇ。さっさと始めようぜ」

手抜かり無く、やや腰を落とし、刀の柄に右手をかけて遊士は言う。相手もそれに応えるよう、右手に持った刀を構えた。

そして勝負は一瞬、

「てやあぁぁぁ!」

「haっ!」

勢い良く斬りかかって来た男の刀を、抜刀術を用いて受け流す。そして、流れる様な動作で刀を返し、二太刀めを男の背へと叩き込んだ。

「がはっ…!」

男は勢いのまま顔から地面に突っ込む。遊士は叩き込んだ刀を払い、静かに鞘へと納めた。

「安心しろ。峰打ちだ」

倒れた男へでは無く、決闘が始まると同時に現れた気配へ向けて遊士は告げる。

「やり方は間違ってるが、誰かの為に命を賭ける事が出来る奴なんて早々いねぇぜ。大事にするんだな」

その気配へと背を向け、遊士は歩き出す。背後から聞こえてくる女と男の声に遊士は溜め息を一つ落とした。

「まったく、犬も食わぬなんとやらだな」

どこで誤解が生じたのか、そういうことらしい。



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