02


まだ授業を行っている校舎内を堂々と歩き、下駄箱で靴を履き替える。

「そういや真田の所って今日は午前終わりなのか?」

俺達の学校は先の通りまだ五限の真っ最中だ。

「そうだろ。じゃなきゃ猿が許さねぇだろ」

猿?あぁ、真田の保護者か。

いつも真田と共にいる、飄々とした性格の橙頭を俺は思い浮かべた。

なんだか苦労してそう…。

正門で仁王立ちしている紅い人物を視界に捉えて俺はそんな事を思った。

「Hey、真田 幸村ァ!竜の棲みかに乗り込んで来るたぁいい度胸だな!」

「むっ。伊達 政宗!今日こそ決着をつけるでござる!」

閉じられた正門より此方側へ入って来ないのが真面目なんだか不真面目なんだが良く分からない奴だ。

政宗は門に片手を付くと軽々と跳び越え真田の隣に立つ。

「いいぜぇ。受けてたってやる」

臨戦態勢に入った二人に、俺もひょいと門を越えて口を挟んだ。

「その前に場所移そうぜ」

「そうそう、八神の旦那の言う通り。やるなら場所移した方がいいよ旦那方」

そして、いつからいたのか真田の後ろから猿飛が顔を覗かせた。








あれから場所を移し、拳を交えること数時間。

「ha、そろそろ降参したらどうだ?」

「なんのこれしき。お館様の拳を思えばまだまだでござる!」

いつしかギャラリーも集まり、応援やら歓声が凄くなっていた。

「アンタもいい加減真田を連れて帰ったらどうだ?」

かくいう俺もその輪に囲まれた一人で、猿飛を相手に足技メインで攻撃を繰り出していた。

「竜の旦那が降参したらそうするよ」

そう嘯く猿飛に温厚な俺でも怒るぜ、と睨み付け言ってやる。

「政宗が真田なんかに負けるわけねぇだろ」

「聞き捨てならないねぇ。あんま無駄口叩くと俺様、本気だしちゃうよ?」

にっこりと目の前で笑う猿飛の側頭部に右の靴先を叩き込む。

が、猿飛はそれを左腕一本でガードすると踏み込んで拳を繰り出してきた。

「っと、その嘘臭い笑み止めろ。うすら寒ぃ」

身体を捻りかわして、間合いをとる。

「ひっどいなー。皆この顔好きだって言ってくれるのに」

「はっ、本命に言われなきゃ意味ないぜ猿飛」


俺はそう切り返してチラリと政宗と対峙している真田に視線を向けた。

そろそろ終わりそうだな…。

「ちぇ、その点八神の旦那は羨ましいねぇ」

挑発に乗るかと思ったが猿飛は乗らずに構えを解いた。

その潔さは嫌いじゃねぇな。






結局勝負はダブルノックアウトで引き分け。

「あー、疲れた。やってらんねぇ」

「某ももうへとへとでござる。佐助〜」

「はいはい」

地べたに座り込んでいる政宗の側に近づき、俺は政宗の隣にしゃがんだ。

「お疲れ様。楽しかったか?」

「まぁまぁだな」

「嘘吐け。お前すげぇ生き生きとした面で真田とやりあってたじゃねぇか」

回りにいたギャラリー、蒼竜の仲間から缶ジュースを受け取り政宗に一本手渡し、少し離れた場所でへばっている真田と猿飛には一本ずつ放り投げる。

「ありがと八神の旦那」

「ありがとうでござる」

「いんや、別に」

手元に残った缶を開け、一口口をつける。

「政宗、一息ついたら帰ろうぜ。あんま遅いと小十郎さんに怒られる」

「もうそんな時間か…、っ!?」

「どうした?て、政宗。口の端切れてる」

知らぬ間に切れたのだろう、そこへ飲み物がしみたと。

俺は手にしていた缶を横へ置き、政宗の頬に手を添えると顔を近づけた。

「口の中は平気だな?」

「あぁ。ンな心配しなくてもこんなの舐めときゃ治る」

そう、さして可笑しくもない言動をしていたのだが俺はいきなり真田に指を差されて叫ばれた。

「なっ!?なななな…!八神殿、破廉恥でござるー!!」

「はぁ?」

「ちょ、旦那、待って!」

意味不明なまま真田は顔を赤く染めて走り出し、猿飛はその後を追うように姿を消した。



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