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言わなきゃよかったか?いや、でも…。

俺は八神 慎。伊達軍黒脛巾組(くろはばきぐみ)忍頭。忍の中じゃ偉いんだぞ。

そして今、そんな俺の首を絞めんとばかりに手をかけているのが俺の主君。

第十七代目伊達家当主伊達 政也様。御歳二十歳。

珍しく執務を午前中に終わらせ、お目付け役の片倉様もいなく、暇だと仰るので数日前に俺が体験した話をしてみた…、

途端、コレだ。

「慎、てめぇ俺の知らねぇ間に何一人でおもしれぇ事してんだよ」

面白いって。俺、政也様の御先祖様に危うく殺されるところだったんだけど。

ニヤリと笑う政也様に俺は溜め息を一つ落とした。

「政也様、連れて行って差上げたいのは山々なのですが何分まだ不確定要素の多い術でして」

「ha、俺がそんなんで引き下がると思ってんのか?」

「いや、全然」

挑むような眼差しを向けられ、俺は首を横に振ってすっぱり否定した。

「分かってるじゃねぇか慎」

「まぁ。お褒めに預かり至極光栄で御座います」

伊達に十五年も政也様に仕えてはいない。

五歳の頃はあんなに可愛かったのにどうしてこんな可愛げもなく育ってしまったのか…。

フッと遠い目をすれば政也様に睨まれた。

「お前今すげぇ失礼な事考えただろ」

「何の事ですか?まったく被害妄想甚だしい」

「…給料カットすんぞ」

「先日の悪戯、片倉様にバラしますよ?」

どっちもどっちな忍と主がそこにいた。







と。まぁ、そんなこんなで敷地の裏庭で再び術発動。

この間と違って今回は政也様付き。

眩い光を受けて目を閉ざす。

「―っ」

開けた次の瞬間にはどこか別の場所へ移動していた。

「どこだここ?」

「さぁ?ちょっと見てきますから呉々も動かないで下さいよ」

「I see」

政也様を置いて周囲を見渡せる場所に出る。

左手を水平に目の上で翳し、眩しくないよう影を作って周囲を見渡した。

「う〜ん、失敗したかなぁ…」

よく見るとここは数瞬前までいた敷地の裏庭、そこから数メートル離れた場所だということが分かった。

成功していれば視線の先には政宗様が居城にしている城があるはずなのだが…。

慎は木から降りると政也の元に戻る。

「で、分かったのか?」

「いやぁそれが…、失敗したかも」

「あぁん?」

てへ、と可愛く困った顔をしてみても政也様は騙されてくれなかった。

片眉をぴくりと跳ね上げ、睨まれる。

「どういう意味だ?」

「術は成功したんですけど、どうも俺が来た時と城の雰囲気が違うんです」

慎の言葉に黙り込んだ政也は、顎に右手を添え、ふむと思考を巡らせた。

「つまり、違う時代に来ちまったって事か」

「そのようで」

怒られるかな、と政也様の次の言葉を待てばそんな事はなかった。

「まぁいい。それならこの時代の伊達を見に行くまでだ。行くぞ慎」

「御意」

やはりただでは起きないのが政也様だった。

ところで行くぞって、どこに行く気なんだろ?

迷いなく足を進める政也様は確実に城の方へ向かっていた。

「あの、政也様?」

「あ?何だよ?今さら怖じ気付いたか?」

「そうじゃなくて…」

俺がこんなことで怖じ気付くわけがない。俺の売りは度胸が据わってる事と政也様に散々振り回されて培った忍耐力。それとちょっと人より強い好奇心ぐらいだ。

あ、でもマジ切れした片倉様にはいくら度胸があろうと怖いモノは怖い。

じゃなくて。

「まさかとは思いますが城に乗り込んだりしませんよね?」

政也はピタリと足を止めて慎を振り返った。

「ha、何馬鹿な事言ってやがる」

鼻で笑われた…。

「ははっ、そうですよね。いくらなんでも…」

「乗り込まねぇでどうする?」

「そうそう、乗り込まねぇで…」

乗り込む?

俺の思考回路は政也様の台詞を二回ほど反芻して止まった。

「何アホ面してんだ。置いてくぞ」

当たり前のようにさくさく進む政也様の背を見つめて、俺は一瞬自分が間違った様な気になった。

気になっただけで俺は正しい、…多分。

「…騙されるな、俺」

そう自分に言い聞かせ、俺は少し開いた距離を瞬時に縮め、政也様の服を掴んだ。



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