05
終始ニコニコとご機嫌で夕餉を食べた俺は政宗様と小十郎様に笑われた。
曰く、忍にしちゃえらく表情豊かだなぁ。おもしれぇ。お前本当に忍か?
曰く、金平牛蒡一つでそこまで喜ぶなんざどこの餓鬼だ。ったく調子狂う奴だな。
小十郎様は笑うっていうか苦笑に近かったかな。
でも俺は気にしない。なんたって今は機嫌がいいからね。
「そうだ、お前の部屋用意しねぇとな」
場所を政宗様の部屋の前、庭に面した廊下に移し寝る前に月見酒をすると言った政宗様に俺は付き合っていた。
「あ、部屋はいいよ。なんか俺もうすぐ帰れるような気がするから」
政宗様に酌をしながら俺は言った。
「そうか」
「うん」
ふと言葉が途切れる。
雲が流れて月が姿を現す。
今夜は月明かりが綺麗だな。
「政宗様、酒の肴を持って参りました」
「oh、Thanks.」
静かな空間に小十郎様の低音が耳に心地好く聞こえる。
―慎!
「ん…?」
「どうした慎?」
酒の肴を受け取った政宗様が首を傾げた俺を見る。
「今、誰か俺の名前呼んだか?」
政宗様と小十郎様は顔を見合わせいいや、と首を横に振った。
あれ?おっかしいな…?
―慎!てめぇ何処にいんだよ!
あ、まただ。
「というかこの声政也様?」
声の正体が分かった途端、俺は自然と帰らなきゃと強く思った。
「おい、慎!」
「慎!お前身体が…」
政宗様と小十郎様の声に我に返り、俺は自分の身体を見下ろす。
徐々にだが透けてきていた。
「あぁ、どうやら時間切れだ」
驚く二人にどこか納得した俺は笑いかける。
「帰るのか?」
―慎!ったく俺を待たせるとは良い度胸だぜ。
「政也様が呼んでるからな」
政宗様の声に政也様の声が重なる。
「ha、次はへますんじゃねぇぞ。もしまた来るような事があったらまた執務手伝わせるからな」
「そうか。…しっかり自分の主君を護れよ」
茶化すように言った政宗様と真っ直ぐ俺を見て言った小十郎様に俺は膝を折って頭を垂れた。
「御意」
そして俺の意識は一度そこで途切れた。
その場に残された政宗は慎の消えた場所を見つめ自然と口端を吊り上げた。
「中々mysteriousな体験しちまったぜ」
「その様ですな」
小十郎も慎のいた場所を見つめながらそう返した。
―――――
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―――
――
―
「…ってぇ!今度は一体何だ?」
帰って来たと思ったらいきなり頭に衝撃が。
「―っ。てっめぇ、慎!確かに俺はお前を呼んだがな、天井から主君の頭上に落ちてくる奴があるかっ!」
あの衝撃はそれか!
俺はとりあえずサッと体裁を整えようと頭を下げた。
「何か御用でしょうか?」
「ha、今さら取り繕ったっておせぇよ」
「あ、やっぱり?」
こうして俺の一日不可思議体験は終わりを告げ、いつもの日常が始まった。
このこと政也様に言った方がいいのかな?いやでも、そしたら政也様が行ってみてぇとかいいだしかねない。
さぁ、どうしよう…?
fin...
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