秋の物語(ぬら孫+友人帳)
太陽の照りつける夏に出会った優しい人と妖
再び交わった縁に心温め
新たな出会いに決意を秘めた―…
□秋の物語□
ジリジリと肌を射していた陽射しが遠くなり、ひゅるりと吹く風が冷たさを運んできた頃。
浮世絵中学校の制服も夏服から早くも冬服へと変わり、リクオは黒い学ランの首元に白いマフラーを巻いて歩道を歩く。
「どうしようか…」
歩道には長い影が二つ伸びる。
「来週のことですか?」
リクオは金木犀の香る通学路を屋敷に向かって、学生に化けたつららと並んで歩く。
「うん…。清継くんには悪いけどやっぱり断った方が良いよね」
「勿論です!花開院家に行くなど、陰陽師の総本山ではありませんか!危険すぎます!」
すぐさま怒ったように口を開くつららにリクオは困った様に笑う。
(う〜ん、一応じぃちゃんにも聞いてみるか)
そうして事の発端は、やはりと言うべきか清十字怪奇探偵団を率いる清継からだった。
◇◆◇
放課後、生徒の居なくなったとある教室で。いつものメンバー、清継に島、鳥居と巻にカナ、そしてリクオとつららが集まり、思い思いに過ごしていた時。
ガラリと教室の前扉が開いて、今まで実家に帰っていたゆらが夏服姿で姿を見せた。
「おぉっ!我が清十怪奇探偵団の特別軍事顧問ゆらくん!良く来たね!ささっ、座ってくれたまえ!」
「はぁ…」
ゆらは異様にテンションの高い清継に迎えられ、椅子を勧められる。そしてそのまま流れる様に空いていた椅子に座らされた。
「ゆらちゃん、久し振りだね」
「あぁ、家長さん。けどまたすぐ実家にかえらないかんのや」
「そうなの?」
久々に顔を出したゆらとカナが話をしているのを皆が何とはなしに眺めていれば、何故だか一人元気な清継が急に椅子から立ち上がり、口を開いた。
「ゆらくん!来週の土曜に君の家主催で陰陽師の集まりがあるっていうのは本当かい?」
「え…?あぁ…、そういえば兄ちゃんがそないなこと言うてたような」
不確かな記憶なのか、それがどないした?とおっとり聞き返すゆらに清継は不気味な笑いを溢し、宣言する。
「決めたぞ!来週の土日は京都で陰陽師合宿だ!敵を知るにはまず味方から…、いや妖怪が敵と言うわけではなく、そちらの方面の知識を培っておくのも悪くないと…!」
「えぇーっ、京都っていかにもじゃん」
巻の嫌そうな言葉に夏実もうんうんと首を縦に振る。
「清継くん。あの、俺は来週サッカーの試合が…」
「そうやで。京都は古来より妖怪の跋扈(ばっこ)する町や。遊び半分で行こうとするのはやめた方がええ」
ぴしゃりとゆらは清継の提案をはね除ける。
しかし、こと妖怪に関して熱すぎる情熱を注ぐ清継も負けてはいなかった。
「遊び半分なんかじゃないさ。それにゆらくんも以前身を守る術を覚えておいた方が良いと言っていたじゃないか」
「うっ…、でも、あの時はあの時や。今は…」
と、清継とゆらのやり取りが数度繰り返された後、結局ゆらが丸め込まれたというか…折れた。
「…分かったわ。ただし、夜は絶対に出歩いたらあかん。泊まるとこもうちが用意したとこに泊まるんやで」
何だかんだで皆を心配し、守ろうとするゆらに、成り行きを見守っていたリクオは気付かれないよう小さく笑みを溢す。
《ふっ…、何だかんだでアイツも甘いよな》
(あれ?起きてたんだ、夜)
《清継の奴はおもしれぇからな》
(またそうやって遊ぶんだから。夜の悪い癖だね)
「よぉし、それでは来週、清十字怪奇探偵団京都合宿だ!」
そして、高らかに宣言し直した清継の声は茜色に染まり出した室内に響いて消えた。
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