05


だが、高杉は抜いた刀を真哉へ向けてでは無く、自身の背後に向けて振るった。

「ぎゃっ!」

赤い、俺にとっては見慣れた飛沫が高杉の向こう側からチラリと見える。

「囲まれたか」

刀についた血をぞんざいに払い、高杉は至極面倒くさいと言うように言葉を吐き出した。

その台詞に、真哉も面倒くさい事になったと柄にかけていた手を一旦下ろし、SDカードがささったままの携帯電話をポケットにしまう。

そして考える。

余裕の現れか、得体の知れぬ俺に高杉は背を向けている。

斬るなら今だが、中々コイツは面白そうな人間だ。

珍しく俺の中にある興味という名の琴線に触れてくる。

「おい、てめぇ。…てめぇも俺の邪魔をするつもりなら殺すぞ」

まるで真哉の考えを見抜いた様に高杉の低い声が告げる。

キィンと金属のぶつかる音、ザシュッと布と肉の斬れる音が耳に届く。

ギラリと一瞬向けられた鋭い、視線だけで人を射殺せる様な眼差しに真哉はゾクリと背筋を震わせた。

「―っは、いいねぇ、その目。ゾクゾクする」

高杉に触発された様に自然と真哉の口角も吊り上がり、面倒だった心境から一転俄然やる気になる。

キンッと鯉口を切り、姿勢を低くすると、本殿の出入口付近で斬り合いを演じる高杉の背後へ、真哉は一瞬で距離を詰めた。

そして、高杉の斬り下ろした刀をかわし、横をするりとすり抜ける。

真哉は人工の黒髪を靡かせ、眼前に広がる包囲網を斬り崩しにかかった。

「て、コイツ等――」

良く見ればあの黒服だ。
つまり、真撰組か。

高杉とやりあっていた真撰組の人間は、高杉の背後から飛び出して来た真哉に驚き、叫ぶ。

「仲間がいたのか!?」

「女!?こいつ、報告にあった女じゃ!」

真撰組の間を走り抜ける様にしながら真哉は愛刀-緋雨(ヒサメ)-を思う存分振るった。

「ぐあぁっ―!!」

「っ、このぉ!」

仲間がやられて頭に血が昇った隊士が大振りな動作で斬りかかってくる。

それを真哉は朱を引いた唇を綻ばせ、艶やかな笑みを溢して弾いた。

キィンと響く高い音。
月明かりを弾いた緋雨が妖しげに光る。

「残念ね。…さようなら」

その声を最期に隊士はドサリと地に崩れ落ちた。






「ふぅ…」

粗方片付け終わったかと真哉が刀を鞘に納めようとしたその時、真撰組援軍か、こちらへバタバタと複数の足音が近付いてくるのに気付く。

これ以上構ってられない。

ふいと近付く足音とは逆に、本殿の裏手に足を向ける。

真哉から少し離れた場所で戦っていた高杉も同じ考えなのか、進む方向が一緒になった。



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