03
人通りの少ない道を選び、黒服を避けて進む。
その足が橋へと差し掛かった時、真哉はまたしても知らぬ人間から声を掛けられた。
「貴様、高杉の手の者か?」
真哉は掛けられた声に足を止め、進む道を変える。河原に下り、橋の下へと向かった。
そこには声の主と思わしき細身の、腰に刀を挿し、黒髪を背に流した青年と変な白い着ぐるみみたいな生き物がいた。
真哉はあえて着ぐるみを無視し、調度良いと青年に問いかける。
「何故、私が高杉の者だと分かる?」
青年は真哉の問いに訝しげな顔をした後答えた。
「妙なことを…刀を帯刀しているだろう。廃刀令が出た後、刀を持っている人間は攘夷志士か真撰組だけだ」
すると俺が斬った黒服はどっちだ?攘夷志士か真撰組か。
考え込んだ真哉に青年は続けて言う。
「高杉の元に戻るなら、お前のやり方は危なすぎると伝えてくれ。俺達にまで被害が及ぶ」
それが言いたかっただけだ、と青年は勝手に話を切り上げ背を向ける。
「行くぞエリザベス」
そう言って青年は着ぐるみと去って行った。
廃刀令に真撰組、攘夷志士。
何となく分かってきた。
ここは江戸時代だ。
それも少し可笑しな。
真哉が橋の下で青年と会話を交わしている頃、真哉が斬り捨てた黒服の元へその仲間と思われる一団が駆け付けていた。
「こりゃヒデェ、…しかもみんな一撃でサァ」
地面に転がる仲間のすぐ側にしゃがみこみ、坦々と状況を述べる青年。
「相当の手練れだな」
しゃがみこんだ青年の横で冷静に現場を見渡した黒髪の青年は、鋭い目付きで薄暗い路地の先を睨み付けるように見つめた。
「副長!」
「あ゛?何だ?見つかったか?」
黒髪の青年、副長と呼ばれた青年は駆け寄って来た部下にそのまま鋭い視線を向けた。
「ヒッ…、その…ここから少し離れた路地で高杉の一味と思われる人間を捕らえました!」
「そうか」
部下の報告に青年は思案気な表情を浮かべる。
「なら、この惨状は一体誰が引き起こしたんだかねィ」
遺体の傍らにしゃがみこんでいた青年が瞳をギラギラ輝かせながら立ち上がった。
「おい、総悟。瞳孔がかっぴらいてんぞ」
「土方さん程じゃねいサ」
「ンだと…?」
どこか危なげな雰囲気を醸し出した二人に部下はもう一つ伝えておかなければと勇気を振り絞って口を開いた。
「それと女が…」
続けて受けた報告に今にも言い合いを始めそうだった二人は部下に視線を戻した。
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