03


拾った栗の袋に、栗園の人がおまけだと笑って大きな栗を少し足してくれる。

「楽しかったわねぇ」

「はい」

ぱんぱんに膨らんだ袋を右手に持って夏目は塔子の言葉に笑みをみせる。楽しそうに会話を交わす夏目と塔子を滋は穏やかな眼差しで見守っていた。

「じゃぁ私は民宿の方に栗ご飯を作って頂けるか訊いてくるよ」

「それなら私も行きますよ」

民宿に戻った滋は夏目から少し栗を貰い、塔子と共に話をしに民宿の主人の元へ向かう。
残された夏目は栗の入った袋を手に部屋へと戻った。

「ただいま、先生」

部屋へと入れば、ニャンコ先生は敷かれた座布団の上で丸まってぷぅぷぅと寝息を立てていた。

「先生?寝てるのか?…珍しいな」

てっきり不貞腐れて勝手に温泉に入ったり、民宿内を探検してるかと思ったけど。

かさりと袋をニャンコ先生の側に下ろし、夏目は中から一番大きそうな栗を一つ取り出す。それを掌の上で転がし夏目はふっと柔らかく笑った。

「先生の希望通り夕飯は栗ご飯になるかも知れないぞ」

ぷぅ…と立てていた寝息が途切れニャンコ先生の目がパチリと開く。

「起きたか先生?ほら、こんなに大きな栗が採れたんだ」

目の前に差し出された大きくて形も艶も良い栗をジッと見つめ、ニャンコ先生は夏目を見上げる。
嬉しそうに表情を緩め話す夏目にニャンコ先生は夏目にも分からぬほど小さく口許を緩めると、キラリと瞳を輝かせ偉そうに言い放った。

「でかしたぞ夏目!これなら夕飯の栗ご飯も期待出来るな」

「まったく、それ以上太っても俺は知らないからな」

呆れたように夏目は笑いニャンコ先生と夏目は常と変わらぬやりとりを滋と塔子が戻ってくるまで続けていた。







民宿の立つここは山も近いことから、夕飯にはきのこ料理や山菜の天ぷら、岩魚の炭火焼きなど、山の幸がふんだんに使われた料理が並べられた。
また、ご飯は民宿の主人が快く快諾してくれたお陰で栗ご飯となっていた。

話を聞くと栗園から近いこの宿では良くあることだそうだ。

自分達でとったというだけで何故か一段と美味しく感じる栗ご飯を食べつつ、きのこ料理にも箸を伸ばす。
夏目の隣でにゃんにゃんと器に盛られた栗ご飯を美味しそうに食べるニャンコ先生を視界に入れて夏目はゆるりと笑った。

「どうだった貴志。初めての栗拾いは。楽しかったかい?」

「上からイガが落ちて来たのにはびっくりしたけど、楽しかったです」

「私もあれには驚いちゃったわ。いきなり落ちてきたものね」

ほのぼのと栗拾いをしていた時の話から何気ないことにまで話は広がっていく。
ゆっくり、ゆっくりと…。
温かなぬくもりが静かに心に染み込んでいく。
そうして笑顔が溢れる優しい時が夏目を包むように緩やかに流れていった。


時を見計らいニャンコ先生が夏目に話し掛ける。

「お前が栗拾いに出掛けてる間に来客があったぞ」

「え、来客?もしかして友人帳関係の?」

「いや、何時だかの半妖の小僧だ。お前は元気かと訊かれたから適当に答えておいたぞ」

「それって…リクオくん?」

そんな名だったかとすっとぼけるニャンコ先生に対し夏目は少し残念そうな顔をする。

「ま、こんな山奥で会うぐらいだ。縁が強ければまた遭遇するだろう」

それよりお腹が満たされた次は温泉だとニャンコ先生は夏目を急かす。

「はいはい…」

タオルと着替えと温泉へ行く仕度をしていれば滋が夏目に声を掛けてきて共に温泉に向かうことになった。
その後で…塔子が二人だけでずるいわと言ったのに、滋と夏目は困ったように苦笑を浮かべたのだった。



end

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