02
栗拾いを体験する栗園は民宿から程近い場所にあり、今の時期、家族向けに栗拾いを企画しているという。
荷物を民宿に置き、夏目はスニーカーにズボン、上はパーカーに帽子。手には軍手という出で立ちになって栗園の人の話を聞く。
滋と塔子も夏目と同じように軍手をはめ、麦わら帽子を被る。塔子は珍しくパンツスタイルで、少し恥ずかしそうにしていたが滋と夏目に似合ってると言われてどこか擽ったそうに笑った。
栗園の人から一通りの注意事項を聞き、栗を入れる専用の袋を受け取って栗拾いの時間となる。ちらと周囲に目を向ければ家族向けに企画されているだけあって小さな子供と両親、祖父母と来ている人達が多い。
ふと夏目は自分達は周りからどう見られているんだろうかと思った。
「滋さん、このイガなんてどうかしら」
「うん?これはまだ少し青いかもしれないなぁ。…貴志、これ何か良いかも知れないぞ」
葉っぱと一緒に足元に落ちている焦げ茶色のイガを見つけて滋が夏目を呼ぶ。
「どれですか?」
「これだ。栗拾いは初めてだろう?足で身を潰さないよう、こう踏んで見なさい」
見本を見せるようにイガを踏んで広げる仕草をした滋を真似て夏目もやってみる。
「こう…?」
「そうそう。上手いな貴志は」
くしゃりと子供にするように頭を撫でられて、夏目は照れ臭そうに笑った。
そして、夏目の拾った栗を始めに配られた袋にしまい次は塔子が小さな栗を拾う。
「二人ともイガのトゲには気をつけるんだぞ」
滋に注意されて夏目と塔子ははーいと揃って返す。それが何だか可笑しくて二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。
「あ、そうだ。宿で不貞腐れて待ってるニャンコ先生にも幾つか拾って持って帰ってあげなきゃ」
残念ながらこの栗園はペットの入場は不可で、ニャンコ先生は民宿で大人しく留守番となっていた。
「夏目の奴、自分だけ楽しみおって。それなら私にも考えがあるぞ」
ちょこちょこと民宿の中をニャンコ先生は進む。
温かな泉を求めて…。
ペット専用温泉はこちらという案内板を再度確認し、足を進めていたニャンコ先生はいきなり後ろから抱き上げられた。
「のわっ、誰だ、何をする!」
「あ、ごめ…でも、やっぱりニャンコ先生だよね?」
「む?この声、何処かで…」
ぐりんと自分を抱いている人物の顔を見上げたニャンコ先生は何か思い当たった様子で大人しくなる。
「お主あの時の半妖の小僧か」
「正確には四分の一だけど」
苦笑して栗色の髪を揺らしたリクオにニャンコ先生はよくよく妙な所で会うなと呟く。
「僕もそう思う。夏目さんは一緒じゃないの?」
「夏目なら栗拾いだ」
ニャンコ先生の口から告げられた思わぬ単語にリクオはぱちりと瞼を瞬かせる。
その様子を、細めた瞳で見上げニャンコ先生は続けて言った。
「夏目に用なら、特別に私が代わりに聞いておいてやる」
「…ううん。夏目さん元気かなって思っただけだから」
「夏目ならピンピンしているぞ。何たって今夜は栗ご飯だからな」
ぴょんとリクオの腕の中から飛び降りたニャンコ先生は今来た道を戻り始める。
「小僧」
「……?」
「夏目はここへ家族旅行とやらで来ている」
そして、それだけ言うと丸い尻尾をふりふりと動かし去って行った。
「家族旅行か…。それなら邪魔しちゃ悪いよね」
道が分かったぞ、奴良くん!と後方から声を掛けられリクオも踵を返す。部活の仲間が待つ輪の中へリクオは戻り、こじんまりとした温かな民宿を後にした。
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