01
今日も今日とて彼に会いに婆娑羅中央公園へと足を進める。
公園の中心には大きな噴水があって、一時間ごとにキラキラと水を噴き上げている。
夜になればライトアップでカラフルな水のカーテンも見れる。
咲夜は公園東側の入口から中へ入り、きょろきょろと周りを見回した。
「えっと確か階段の所にいるって…」
婆娑羅中央公園の直ぐ側には婆娑羅駅があり、公園から駅へと繋がる結構段数のある横に広い階段があるのだ。
と言っても駅へ行くのに階段を使う人間は滅多にいない。
近道だが公園を通る事で危険が伴う、遠回りだが安全に行ける公園の外、天秤にかければ誰だって分かるでしょ?
「あ、いたいた!」
咲夜は蒼い集団を見つけると駆け寄った。
そして、階段の下でたむろしている蒼い集団の中に飛び込んだ。
「Good morningみんな!」
リーゼントやら髪をツンツンに立たせている不良集団の中で咲夜は場違いの様な綺麗な笑顔を浮かべた。
「「「はよッス!!」」」
そんな彼女に彼等は当然の様に頭を下げて挨拶をした。
「今日もよろしくね」
咲夜はニッコリと笑みを浮かべ、集団から抜け出すと階段を上った。
背後でうぉーとかYeah―とか声がするのはいつもの事で咲夜はトントンと階段を上がると、階段の中央に座ってこちらを見ていた人物に飛び付いた。
「Good morning政宗!」
「Good morning咲夜」
政宗は飛び付いてきた咲夜の背と腰に腕を回し優しく抱くと、寄せられた頬にキスを一つ落とした。
咲夜もくすぐったそうに笑って、政宗の頬にお返しのキスをする。
階下ではひゅーひゅー、とか今日も熱いッスね筆頭ーとか囃し立てる声がした。
政宗は咲夜を腕に抱いたまま立ち上がるとha、と口端を吊り上げた。
「ンじゃ今日もPartyと行くぜ!」
「「Yeah――!!」」
今週のキングは伊達政宗率いるブルードラゴン。
街の見回りを兼ねつつ咲夜と政宗はデートに繰り出す。
「俺から離れんなよ咲夜」
「うん!」
差し出された右腕に自らの腕を絡ませ、咲夜は嬉しそうに頷いた。
ぞろぞろと蒼い集団を引き連れ、二人は歩き出す。
「まずは何処から行くの?」
「ah-、北口の商店街だ。いつきからrequestが来てる」(依頼)
「いつきちゃんから?」
婆娑羅中央公園の中を通り抜け、北口に向かう。
公園の中にはちらほらと他のチームの人間もいて、談笑したり、スケボーで技を披露したりと楽しそうに騒いでいる姿が見受けられた。
「あぁ、どうにも最近ガラの悪い客がいるらしくてな。別に品物を買うでもなくうろうろして、それじゃ他の客が入って来れねぇし、他の客も実際迷惑してるそうだ。んで、ソイツ等をどうにかして欲しいってな」
政宗は眉を寄せ、依頼内容を口にする。
「それは確かに困るわね」
咲夜も難しい顔をして頷いた。
いつきちゃんと言えば北口商店街のアイドルで、いつも元気よく笑っている姿が思い浮かぶ。
顔を出せば咲夜姉ちゃん!と慕ってくれる、妹みたいに可愛い存在。
その笑顔が曇るなど…。
許せない、と目の前に見えてきた北口商店街をキッと見据えれば隣から伸びてきた手に頭を撫でられる。
「咲夜、お前は手ぇ出すなよ」
降ってきた優しい声音に咲夜は不満気に政宗を見る。
「何でよ?」
「ンな連中に、追い払う為とはいえ触れて欲しくねぇ」
大抵の場合、話し合いでの解決は難しく武力行使に踏み切る事が多い。
それを指して言えば咲夜はほんのり頬を染めた。
「でも…」
「でもも何でもねぇ。それに、たまには俺に守らせろよ咲夜」
頭に乗せられた手が頬へ滑り、顔を覗き込まれる。
「―っ、…う…ん」
視線を絡めた先にある瞳が思いの外真剣で、咲夜は恥ずかしそうに瞳を伏せ頷いた。
「OK.良い子だ」
ちゅっと伏せた瞼にキスを落とされ、政宗が離れる。
「ん。政宗こそ怪我、しないでね」
目元を赤く染め、離れた政宗に咲夜はふんわりと微笑みかけた。
「いつきちゃん」
店はもう開店していて、いつきは常連客の一人にお釣りを手渡していた。
「咲夜姉ちゃんに蒼い兄ちゃん!さっそく来てくれたべか!」
「おぅ、お前も俺達の大事な仲間だしな」
「そうだよ。いつきちゃんの為なら私達はすぐ駆けつけるよ」
ぱっと明るい笑顔を見せたいつきに咲夜は内心ほっと安心した。
「それで例の奴等はまだ来てねぇのか?」
「うん。だども、もうすぐ来ると思うべ」
政宗の問いにしゅんと不安そうな顔をしたいつき。咲夜はいつきの側まで行くと頭にポンと手を乗せ、ふわりと優しく抱き締めた。
「大丈夫だよいつきちゃん。政宗がそんな連中すぐ追い払ってくれるから。ね?」
双方に向けられた言葉に政宗はもちろんだ、と返し、いつきも不安そうではあったが小さく頷いた。
それから政宗は外で待機させるチームと、店の奥で待機させるチームに振り分けた。
「咲夜、お前はいつきと一緒にいろ」
「うん、分かった」
それぞれが持ち場に付き、十五分が過ぎようとした所で奴等は現れた。
髪を茶色や金に染め、耳にはピアス。ズボンも服もだらしない格好で、見るからに不良という出で立ち。
カラーギャングも世間からみれば一応不良と分類されるかもしれないが、咲夜は彼等を見て思った。
(不良は不良でも政宗の方が断然格好良いわね。まっ、あんな奴等と比べるまでもないけど…)
それ以前に、咲夜には自覚が無かった。
咲夜にかかればどんな格好良い人でも政宗より上になることは無いのだと。
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