05


「真田。結衣のことちゃんと守ってやってね」

「…!無論、そのつもりで御座る!」

ずっと繋がれたままだった結衣の手を握り、幸村は力強く頷いた。

互いに名前を呼び合うのも、手を繋ぐのも大変だった二人がこうして自然と一緒にいるのを見てると微笑ましくなる。

「政宗、次行こう」

「OK.真田、助けが必要になったら連絡しろよ」

「その時は頼むで御座る」

「咲夜ちゃん、またね!」

少し離れた場所で、各々自由に待機していた仲間達に声をかけて政宗と咲夜は紅蓮の集まる通りを抜けた。

「西から、か。海里達は知ってるのかな?」

「さぁな。ただ、知ってれば毛利の奴が動いてるはずだ」

「あぁ、梓のとこ」

西口を縄張りにする鬼船と安芸。鬼船はともかく、毛利率いる安芸は容赦無いからなぁ。

咲夜の頭の中を一月前の出来事が過る。

…一月前、西口にある日ノ輪<ヒノワ>神社に命知らずにも賽銭泥棒が入った事があった。

「賊め。我の領地を荒らすとは、その命惜しくはないようだな」

ヒヤリと熱の籠らない鋭利な眼差しに、あの時は毛利の方が悪者にさえ見えた。

「あれはちょっと可哀想だったな…」

「何がだ?」

思い出し、つい声に出てしまったのか政宗が聞き返してくる。

「ん、日ノ輪の賽銭泥棒」

「…あぁ、アレか」

政宗も思い出したのか、僅かに同情したような声音になった。

婆娑羅中央公園から西に数百メートル。都会の街中にあって尚自然の残るそこに、日ノ輪<ヒノワ>神社は存在した。

鳥居をくぐった先に長い階段、上がりきってまた朱塗りの鳥居。石畳を進んだその先にどっしりとした歴史ある日ノ輪神社の本殿が見えてくる。

御利益は家内安全から商売繁盛、心願成就、身体健全、厄除け、交通安全と様々で、日頃から参拝者は多い。

故に賽銭泥棒が現れた時にも賽銭箱の中にはそれなりの金額が入っていたのだった。

「西の件も気になるし、一応見て回るか」

「うん」

西へと進路を変え、時折通りにある店に寄り道をしながら、仲間を引き連れ西口方面へ。

東口から西口方面へと向かった蒼い集団の前方に、先程とは違う紫色を身に付けた人間がちらほらと見えてくる。

「…ッス」

「変わりねぇか?」

政宗と咲夜に気付いて頭を下げてくる相手に、政宗は声をかけた。

「はぁ、それが…」

「どうしたの?」

何だか冴えない顔で、歯切れ悪く応えた鬼船の者に咲夜は首を傾げる。

「言ってみろ」

どんなに些細なことでも構わねぇと政宗は促した。

「ここ最近、アニキ達が仕事で留守にしてる時に妙な奴等が彷徨いてるンスよ」

「妙な奴等?毛利の駒じゃなくてか?」

仲が良いのか悪いのか、同じ西口を拠点とする長曾我部の鬼船と毛利率いる安芸は度々衝突することがあった。しかし、

「違いますって。もし毛利の手先だったら、俺は毛利の趣味を疑いますよ」

聞き返した政宗に、男の連れ、こいつも鬼船の一員で紫のバンダナを腕に巻いている、奴が口を挟んできた。

ソイツ等は変な頭をしていて、変な本を持っていて、変なチラシを配っている。

詳しい情報を得るために、今いる鬼船の奴等に集合をかけて話を聞いた結果がコレだ。

「妙な奴等って言うか、どっちかって言うと変な奴等ね」

紫と蒼の集団に囲まれて立つ咲夜は、どうする?と隣で考え込む政宗に視線を投げた。

「誰かそのチラシっての持ってねぇか?」

「すいやせん…」

誰もが首を横に振り、肩を落とす。

「だってなぁ…」

「あぁ…、あれは…」

「捨てたくなるよな」

口々にのぼる負の感情。
それを振り払うように、咲夜が更に問いかけた。

「元親と海里はこのこと知ってるの?」

「いえ、まだ。アニキ達は何だか本職が忙しいみたいで顔出さねぇンす」

だから、俺達だけでどうにか解決しようとこうして手の空いてる者達で集まってるンす。

「う〜ん、確かにさっき会った時も何か忙しそうにしてたし」

大学生である自分達と違い、時間に融通が利かないのだろう。

政宗は集まった鬼船のメンバーを見回し、低く良く通る声で告げた。

「OK.分かった、俺が元親の代わりに解決してやる」

まずは、ソイツらの似顔絵と出現時間帯、人数の確認だ。目撃者から話を集めろ。

次にそのチラシだ。もし受け取ったら今度は捨てずに俺達の所へ持ってこい。

「え?政宗さん達は…」

「俺達は一旦ここを離れる。敵に警戒されちゃ困るからな」

指示だけ出し、政宗はこの場に集まった鬼船を早々に解散させた。


紫の集団から離れ、今度は緑色を身に付けた人間がポツポツといる中へ足を進める。

目の前に立つ一つ目の鳥居をくぐり、一月前に賽銭泥棒が転げ落ちた長い階段を上がっていく。

「ねぇ、政宗。真田の言ってたナンパ男ってもしかして…」

「あぁ、さっきの奴等と関係あるかもしれねぇ。もう一度話を聞く必要があるな」

真田は西から来たと言っていた。

階段を上りきり、二つ目の朱塗りの鳥居をくぐって石畳の上を歩く。

「でも確か、二人はこの後学校じゃなかったかな?午後から授業とってた様な…」

歴史を感じさせる日ノ輪神社の本殿に辿り着いた咲夜達は周囲に異常がないか、ぐるりと辺りに視線を走らせる。

「ah-、メールでもいれとくか」

「うん。あっ、それか小十郎さんに聞いといてもらえば、夜には何か分かるんじゃない?」

片倉 小十郎。婆娑羅大学の教師でありながら、蒼竜の傘下-ドラゴンアイ-を率いる、政宗が全幅の信頼を置く人物である。

「そうだな、小十郎にするか。…真田から来るメールはいつも要点が抜けてたり、誤字脱字が多くて分かりづらくてしょうがねぇ」

ぼやきながら政宗はジャケットのポケットに入れていたメタリックブルーの携帯電話を取り出し、さっそくメールを作成していく。

「ふふっ、真田らしいよね。でも最近は結衣とメールする為に真田も四苦八苦しながら頑張ってメール打ってるらしいよ」

それを咲夜は口元を綻ばせ、眺めていた。



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