04


「その辺で止めとけ海里。詳しい事はどうせ集会ン時に聞けるんだ」

くしゃり、と武骨で大きな掌に頭を優しく撫でられ海里は凛としていた表情を僅かに崩す。

「ちょっと元親!髪が乱れるでしょ」

「おっと、すまねぇ。けどよ、お前の髪って触り心地良いんだよな」

「何言ってるのよもう!」

乱れた髪を手櫛で直しつつも、海里はどこか嬉しそうだ。

その様子に咲夜は感化されたのか、政宗の腕に自分の腕を軽く絡めてくっついた。

「相変わらず仲良いよね二人とも」

「そうだな。アイツ等はほっといてそろそろ次行くぜ」

「うん。……仕事頑張ってね二人とも!」

蒼い集団の円が崩れ、再び政宗と咲夜を先頭にぞろぞろと動き始める。

「あーぁ、まったく。行っちゃったじゃない」

「おいおい、職務中って言ったのはお前だろ?政宗達に構ってる暇はねぇんじゃねぇのかよ」

つい蒼い集団を見送ってしまい、残された海里が不満げに言うのに元親は苦笑して答えた。

「そうだけど、…咲夜に言っておきたい事があったの。まぁ、咲夜には政宗が付いてるから大丈夫だろうけど」

「あぁ、アレか。早めに皆に伝えた方がいいな。政宗じゃねぇが、次の集会の時にでも報告で上げろよ」

「うん、そうする」

鬼船の海里じゃない今は、刑事の海里はカラーギャングの世界には踏み込めない。

「行こうぜ、海里。遅いとまた元就の野郎がうるせぇ」

「梓もね」

くるりと背を向け、蒼い集団とは逆方向の人混みへと二人は紛れて行った。







北口から東口方面へと移動し始めた蒼い集団の前方に、ちらほらと赤い色を身に付けた人間が現れ始める。

「独眼竜だ…」

「竜姫だ…」

先頭を歩く政宗と咲夜に気付くと彼等は口々に異名を呟き、視線が合えば軽く会釈してくる。

「ここは問題なさそうだな」

「うん」

腕を絡めたまま歩く咲夜はふと強い視線を感じて政宗の腕を引いた。

「ねぇ、政宗。あれ…」

「ah?どうした、って真田?何やってんだアイツは」

咲夜に促され、同じ方向に目をやった政宗は、固まった様に動かずこちらを見ている幸村に眉を寄せる。

すると、幸村の立っている場所から直ぐ側、右手の店から咲夜達より年下と思われる可愛らしい女の子が出て来て固まる幸村に話しかけた。

「あ、結衣を待ってたのね」

杉本 結衣。咲夜達より二つ下の18歳。婆裟羅大学一年生で、紅蓮の虎姫。幸村の彼女だ。

結衣は幸村と何やら会話を交わすとふいにこちらを見た。

そして、おもむろに幸村の手を掴むと幸村を引っ張って近くにやって来る。

「咲夜ちゃん!政宗さんも。今日は見回り?」

「うん。結衣達はDate?」

「えっ、そ、そんなんじゃないよ…ね、幸村?」

カァーッと一瞬で顔を赤く染めて口ごもった結衣は隣の幸村をチラリと見上げた。

「そ、そうで御座る。俺達はただ店を覗いて歩いて回ってただけで、決してデートでは…」

「それをDateって言わず何て言うんだ真田」

「ぐっ、それはその…」

政宗の呆れた様な突っ込みに、結衣と幸村は二人して狼狽える。

このカップルはどうやってくっついたのか不思議なぐらい初な恋人同士だ。見ているこっちが焦れてくる。

「あっ、そうだ!それより咲夜ちゃん。咲夜ちゃんは美人だから気を付けてね」

「何に?」

話を反らすためじゃないだろうが、いきなり話を変えてきた結衣に咲夜と政宗は顔を見合わせた。

「最近この辺りを変な人達が彷徨いてて、特に女の子に声をかけてくるの」

「この辺りって言うとお前等の縄張りでか?」

もたらされた情報に、政宗は瞳を鋭くして聞き返す。

「そうで御座る。目下、紅蓮で情報を集めておるがどうもそ奴等は西から来たようなのだ。実際結衣も声をかけられた故、政宗殿も咲夜殿のこと気を付けるで御座る」

それに立ち直った幸村が真剣な顔をして答えた。

「言われずとも咲夜は俺が守る」

「政宗…」

咲夜に政宗は優しげな笑みを見せ、一旦外した視線を目の前の二人に戻す。

「それで、声をかけられたって言ったな。その時に捕まえられなかったのか?」

「それが、その…」

そう聞いた途端、幸村は罰が悪そうに真っ直ぐ政宗に向けていた視線を反らした。

「おい、真田」

「何かあったの?」

見かねて咲夜が心配そうに結衣に尋ねる。

「実は…、その時まだ私達も西から来た変な人達の事知らなくて。…幸村がその人達をナンパと勘違いして追い払っちゃったの」

困ったように告げた結衣の頬は、その時の事を思い出してか薄く色付き、照れたような笑みを浮かべた。

「それじゃぁしょうがないわね」

「ha、お前もやるときゃやるじゃねぇか」

咲夜と政宗はミスをした二人を責めるどころか、恋人として一歩前進したことを喜ばしく思った。



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