12
「…何が可笑しい」
キィンと数度刃を合わせた後、距離をとった遊士が鋭い眼差しで半兵衛を射抜く。
「いや、君は僕を足止め出来たと思っているのかもしれないけど、敵が僕達だけとは限らないんじゃないのかい」
「それがどうした?そんなことでオレが動揺するとでも思ってんのか?」
空気を裂いて側面から襲い来る関節剣を大きく弾き、柄に刃先が戻りきる前に腰を落として半兵衛の懐へ潜り込む。
右手に握った刀を下から跳ね上げ、喉元を狙った。
「ha――っ!!」
「――っぅ!!」
紙一重で迫り来る刃を避けた半兵衛の前髪がはらりと数本舞う。
やや体勢を崩し、生じた敵の隙を見逃さず遊士は攻め込む。
右の刀も抜き放ち、胴を薙ぐ。
右と左、二刀を抜き放った遊士は、刀身に雷を纏わせ、刀を交差するよう同時に振り下ろした。
「JET-X!」
X字に刀身から放たれた雷撃と刃が半兵衛に迫る。
「―っ!?」
即座に、刃の戻った関節剣で迎え撃とうとした半兵衛の表情が急に不自然に崩れた。やや前傾姿勢になった体勢で半兵衛は遊士の攻撃を受ける。
「ぐっ―…こんな、時に…」
受け止めきれなかった雷撃が半兵衛の服を焦がし、その身を切り裂く。確かな手応えに遊士は追撃しようとして、…背にゾクリと嫌な震えが走った。
「遊士様っ!」
それに気付いた時、彰吾は考えるより先に走り出していた。
「くそっ、退け!」
眼前に立ち塞がった敵兵を一太刀で斬り伏せ、その身を滑り込ませる。
「悪ぃ遊士!」
余裕もなく乱暴にドンと、片手で遊士の体を突き飛ばし、彰吾は目の前に翳した覇龍をしっかりと握り締めた。
「っ、彰吾!」
「――っ」
ゴウッと隆起した地面が次々と彰吾の身を襲う。
辺りを粉塵が漂い、視界を遮る。その中からゆらりと、巨体が現れ、低い威圧感のある声が空気を震わせた。
「無事か、半兵衛」
「秀吉…。すまない、助かった」
こほこほと口許を右手で押さえ、半兵衛は咳き込む。
秀吉の登場に遊士は素早く、散らばっていた自軍の兵に撤退の指示を飛ばし、粉塵おさまらぬなか彰吾の元に駆け寄った。
「彰吾!」
「…っぅ…、遊士様、お怪我は?」
「ねぇよ!お前のお陰でな!」
この期に及んで人の心配をする彰吾に遊士は怒鳴り返す。
あの切迫した中で、彰吾はどうにか敵の攻撃を分散させたらしく、彰吾の右手の刀はパリパリと碧い放電を残し、両脇の地面は抉りとられていた。
一目痕跡を見れば、その破壊力の凄まじさが解る。
「立てるか?」
片膝を付き、地面に刀を突き立てた体勢の彰吾に遊士は瞳を細め、彰吾の状態を確認する。
「はっ、大丈夫です」
手を借りること無く立ち上がった彰吾だったが、立ち上がる時、微かに眉を寄せた。
そして、悟い遊士に気付かれる前に口を開く。
「それより先程は失礼を」
「構わねぇ」
突き飛ばしたことを謝罪する彰吾の言葉を遊士は一蹴し、合流を果たした豊臣の主従を見据えた。
コイツが豊臣 秀吉…。
その身から放たれる威圧感と凄まじいまでの覇気に遊士の体がふるりと震えた。だが、その震えは恐怖からの震えではない。
「上等…」
その証拠にニィと口端を吊り上げ、遊士は手にした二刀をしっかりと握り直して笑った。
「お前らは下がってろ」
遊士は自分の身の丈の倍はある秀吉を眼光鋭く見上げ、仲間を更に自分の後方へと下がらせる。
「遊士様」
覇龍を右手に、唯一隣に並んできた彰吾は何か言いたげで、遊士はちらりと視線を投げて先を促した。
「あの者の拳、受け止めてはなりませぬ。先の一撃の威力、貴女の…」
「all right.皆まで言うな」(分かってる)
それを受け、遊士は微かに眉を寄せて彰吾の言葉を遮る。
遊士がいくら鍛えていようとも女と男、力の差は如何ともし難い。
彰吾の危惧する様に遊士が秀吉の拳を直に受ければただではすまないだろう。
「愚かな…。力の差も分からぬ小者が」
刀を構え、戦う意思を示した遊士を秀吉はジロリと見下ろす。
「秀吉。彼が報告にあった竜の隠し爪だよ」
「ほぅ…」
半兵衛の台詞にただ見下ろしていただけの無機質な瞳に興味の色が灯った。
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