04
弓は接近戦に持ち込んでしまえばあまり意味をなさない。
次々と雨のように降ってくる矢を、彰吾は最小限の動きで斬って捨てる。
「はっ―!」
ジリジリと詰まる間合いに気付いて、距離をとろうと蘭丸が後ろへ跳ぶ。
そして、その時を待っていたかの様に彰吾は同時に駆け出し、瞬時に距離を詰めた。
「―っ、このぉ!」
バチバチッと紫電の光を纏わせた三本の弓を蘭丸は何とか放つ。
それを、碧の雷撃を纏わせた刀で迎え撃つ事で彰吾は相殺させた。
「ふっ―…」
バチッとぶつかり合った紫と碧の雷撃が、その衝撃でドンッと目が眩む程の強い光を放ち、辺り一帯に砂塵が舞う。
一瞬視界を奪われた中で、それでも彰吾は怯む気も見せずさらに一歩深く相手に踏み込んだ。
「ぅわっ―…!」
ヒュッと振り下ろした状態の刀を素早く切り返し、蘭丸の手元を正確に狙う。
―ガッ!!
「いっ―…っ!」
その手から蘭丸の身の丈程ある弓を弾き飛ばし、無力化させると、足払いをかけて地面に仰向けに転がす。
その首の横ギリギリにドスリと刀を突き刺し、彰吾は感情を読ませない冷ややかな眼差しで蘭丸を見下ろした。
「政宗様、如何なさいますか?」
「〜〜っ!?」
その体勢で尚、気を緩める事無く、彰吾は戦いを見守っていた政宗に言葉を投げた。
「ha…、Coolじゃねぇか」
政宗の口端がクッと吊り上がる。
「捕らえろ」
その命に小十郎が彰吾の元に進み出た。
両手を背中に回して縛り、暴れぬよう腕も足首も縄で封じた。
そして、切り落とした陣幕の辺りで伊達兵を背後に従え、政宗と遊士は蘭丸と顔を合わせた。
「〜っ、殺るならさっさと殺れよ!」
ふいっと政宗から顔を反らす蘭丸の側には、何かあった時すぐさま対処出来るよう、刀の柄に手をかけた小十郎と彰吾が立っている。
「その前に一つ聞きてぇことがある。…魔王のおっさんは何処だ?」
「…ふんっ!教えるわけないだろ。何で蘭丸が敵にそんなこと教えなきゃなんないんだ。バーカ」
べっと舌を出し反抗的な態度をとる蘭丸に、キンッと僅かに刀身を引き出し小十郎が殺気を飛ばす。
「口の聞き方を知らねぇようだな」
「――っ!ふ、ふんだっ!そんな脅しに屈する蘭丸じゃないぞ!」
ビクリと体を強張らせたくせに、意地でも言わないと固く口をつぐむ蘭丸。
「政宗。コイツ、本当に知らねぇのかもよ」
「遊士?」
自分に視線が集まるの感じながら、遊士は蘭丸と視線を合わせ、ふっと鼻で笑った。
「魔王の子だとか言われてるわりに、その居場所すら教えられてねぇんじゃたかが知れてる。さしずめ、明智と同レベルの…」
「むっ!あんな奴と蘭丸を一緒にするな!」
思った通り蘭丸は明智に敵愾心を持っているようだ。
遊士はそこを突いて言葉を続ける。
「なら、魔王の居場所は知ってるのか?」
「当然だろ!信長様は本の―…」
その時、漸く口を割った蘭丸の声を掻き消す様な爆音と、地面を大きく揺るがす酷い振動が美濃の地を襲った。
ぐらりと揺れた地面に足をとられる。
「―っ、なんだ?」
ふわりと風に乗って流れてきた焦げ臭い臭いに、その場にいた皆が爆音の轟いた南の方角に顔を向ける。
するとそこには黒く立ち昇る黒煙が見えた。
「あれは…位置的に設楽原の方向か?」
瞬時に地理を頭の中に描いた政宗はそう呟く。
「信玄公の説得は成さなかった様ですね」
「しかし、それにしては静か過ぎる…」
「小十郎殿?」
信玄の説得虚しく、火蓋が切って落とされた戦。
そう判断した彰吾に小十郎が別の事を口にした。
「設楽原は山向こうだが、合戦の声ぐらい聞こえてもおかしくはないと…」
「そういやそうだな」
その疑問に遊士も頷き、政宗は小十郎に視線を戻す。
「ふん!みぃんな濃姫様にやられちゃったに決まってる!あの暑苦しい赤い奴等も、黄色いチビも!信長様に楯突く奴は皆やられちゃえばいいんだ!」
真剣な空気を纏うその中に落とされた新たな情報に、政宗は瞳を細める。
「あの爆発は魔王の嫁によるものか。だが、黄色いチビもってのはどういう意味だ」
魔王のおっさんは浅井に続き、徳川も切り捨てるつもりなのか。
「だぁかぁらっ!皆だよ皆!手傷を追った本田 忠勝なんて濃姫様の敵じゃないし、アイツがいない家康なんてまったく怖くないもんね!」
ここで、戦力になる徳川を切り捨てる意味が織田にはあるのか…?
「考えるのは彰吾達に任して、先を急ごうぜ政宗」
「そうだな。てめぇ等、行くぞ!めざすは本能寺だ!」
蘭丸の弓を破壊し、無力化してから足の縄だけ解き、転がす。
「後は好きにしろ」
「べー、だ」
馬上から言葉を落として政宗率いる伊達軍は先へと馬を走らせた。
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