03
それぞれが己の信念を掲げ、役割を果たすべく激しく刃を交える。
美濃の地で明智軍と開戦した伊達軍も、妙な違和感を覚えながらも襲い来る兵を次々と撃破して行った。
「ha--!!…っと、政宗!こっちは粗方片付いたぜ」
パリパリと刀に纏わせていた雷撃を、刀を軽く上下に振ることで発散させ、遊士は少し離れた場所にいた政宗に向かって声をかける。
「all right.」
政宗の方も片が付いたのか、刀を引くと汚れを払ってひと振り以外は鞘に納めた。
「残すは本陣ですが、人がいる気配がありませんね」
遊士の背後に立っていた彰吾は、陣幕が張られ中の様子が一切見えない先を睨み付ける様にして警戒する。
「あぁ、オレもさっき気付いた」
とりあえず政宗と合流するぞ、と遊士は斬り伏せた兵達を避けながら歩を進めた。
これは忌避すべき戦だ。
戦いたくもない奴を無理に戦に駆り立て、その手を血で汚させる。この乱世では当たり前なのかもしれない。
だが、しかし。
綺麗ごとを言うつもりはないが、武器を手に戦に出た以上、命を奪う覚悟と奪われる覚悟をしなければならないとオレは常に思っていた。
それを明智は…、こんな胸くそ悪い戦は初めてだった。戦と呼んで良いのかさえ分からない。
「遊士」
凛とした深みのある声に呼ばれて前を見れば、そこには政宗がいて、小十郎がいる。
「遊士様」
ソッと優しく背を押されて、振り向けば彰吾がいる。
「行くぜ遊士、本陣を叩く」
「…おぅ」
ついて来いと言わんばかりの政宗の背に遊士は天下への思いを一層強くして、政宗の隣に並んだ。
右手に刀を握ったまま左手を陣幕にかけ、勢い良く左右に開く。
バサッと姿を露にした陣幕内には考えた通り、やはり誰もいなかった。
「これは…足止めでしょうか?」
空っぽの陣に彰吾が思い付いた考えをあげる。
「だが、何の為にだ」
それを受けて小十郎も思案するように眉を寄せた。
「もしくはオレ達は奴に上手いこと誘い込まれたか…」
「シッ、どうやら両方だ」
政宗に口を閉じるよう手振りで指示され、沈黙を取り戻した陣内。研ぎ澄まされた四人の聴覚が、陣幕の外でギリギリと弦を引き絞る音を捉えた。
「囲まれてますね」
「アイツ等は何してやがんだ」
冷静に言葉を紡ぐ彰吾の側で、小十郎が刀を水平に構えながら外にいる筈の仲間の悪態を吐く。
「囲まれたって事は、アイツ等もたぶん別の部隊と交戦してんだろ。それより、いち、に、さんで行くぜ」
「Ya.」
背中合わせに立ち、カチャリと刀を構えた政宗に遊士、小十郎、彰吾は顎を引き、一つ頷く。
「OK.いち、に…」
さん、で四人とも同時に地を蹴り、目の前の陣幕をスパッと切り開く。
すると、ちょうど弓をつがえ放とうとした敵兵達の上に陣幕が目隠しをする形で覆い被さり、遊士達は陣幕を囲んでいた兵を苦もなくあっさり撃退することに成功した。
そしてこの場にそぐわない、子供の甲高い声が戦場に落ちる。
「あれ?もしかして光秀ってば負けちゃったの?」
馬鹿にしたように言い、きょろきょろと無邪気に辺りを見回すその子供。
「魔王の子か」
スッと瞳を細め、構えようとした遊士を左手で制し、政宗が口を開く。
「明智の野郎は初めからいねぇよ」
「えーっ、信長様の命を無視して何やってんだよアイツ。怒られたって蘭丸は庇ってやらないからな」
ブツブツと大きい独り言を呟く蘭丸に、この一戦で明智がとった行動は織田側にとっても予期していない事だったと知れる。
ならば明智は何処に?
「まぁ、いいや。あんな奴がいなくたって蘭丸が倒してやる。それで信長様に褒めて貰うんだ」
うきうきとした様子で自己完結した蘭丸は、背にした筒から素早く五本の矢を抜くと、手にした身の丈程ある弓につがえた。
「政宗様、ここは俺が」
珍しく名乗り出た彰吾に、政宗は遊士に視線を投げる。
「たまには彰吾に暴れさせてやろうぜ」
それに遊士は自信を持って頷き返した。彰吾の勝ちを確信しているような、信頼を全面に押し出した台詞に彰吾は口元に微笑を浮かべる。
まだ政宗も小十郎も戦場で彰吾がサシで敵武将と刃を交えている姿は見たことがなかった。
彰吾の実力を見るのにちょうど良いかもしれないと考えた政宗は彰吾と蘭丸の一騎討ちにGoサインを出す。
「では、遠慮無く」
蘭丸を無視するな!と、癇癪の声と同時に放たれた五本の矢を彰吾は刀を横一閃。涼しい顔して地面へと叩き落とした。
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