02


伊達が明智と開戦した頃、加賀では前田と上杉が、長篠では徳川と武田が顔を突き合わせていた。

「お久しゅうございます、謙信公。この様な形での顔合わせ相成りましたこと、残念でなりませぬ」

「それはわたくしもです、まつどの」

慶次を通じて知り合いの二人は軽く言葉を交わす。

「まつ…。っ、謙信公!某達はどうしても戦わねばならぬのか!」

心を痛めた様子のまつを見て、利家がぐっと眉間に皺を寄せて口を挟む。

「いくらあなたがたがちゅうりつをうたおうとも、おだにぞくするものなのはじじつ。わたくしたちはけいかいせねばなりません」

「ぐっ、そうだが…。某は信長公に力を貸すつもりは…」

なんとか戦を回避しようと考えを巡らす利家に、まつは首を横に振って言う。

「犬千代様、良いのです。まつめは分かっておりまする。犬千代様も前田家当主として御決断を。それがなんであれ、まつめはどこまでも犬千代様についていきまする」

「まつ…」

決意を秘めた真っ直ぐな瞳。利家も心を決めるとうむ、と一つ深く頷いた。

「ゆきますよ、わたくしのうつくしきつるぎ」

「はい、謙信様」

かすがは謙信の側に立ち、クナイを構えた。








「久し振りじゃな竹千代」

「あぶのう御座います御館様!」

周りには目もくれず、ずかずかと敵陣を進む信玄の背を追い、幸村は叫ぶ。

それを家康は攻撃を加えるでもなく、信玄が自分の元へやってくるのを待った。

「信玄公…」

そして、目の前で立ち止まった信玄を見上げる。

「竹千代、お主が時を待っておったのは知っておる」

「ならば分かってくれよう。今はまだ動く時ではない。今はまだ…」

ぐっと地面に突き立てた槍を握り、家康はきっぱりと告げた。

「じゃがもう、待つだけでは活路は開けぬ。織田は駿河を始め、遠江、美濃、加賀、越前、近江と着実に天下を手に入れるべく地を固めておる」

その中に存在する徳川領、三河。

「この気を逃せば後はないと儂は思うておる」

天下を掴むことはおろか徳川の先は…。

それでも家康は首を縦に振ろうとはしない。

「できぬ。ワシがここで退けば盟約違反となり…」

ぐっと何かに耐えるよう唇を噛んだ家康に、信玄は一呼吸置いた後静かに言った。

「…人質をとられておったか」

「………」

返らぬ応えが肯定している。

「なんとっ!その様な…」

驚きに声を上げた幸村の前で家康は地面に刺していた槍を抜き、前方へ振りかざし、言い放つ。

「全軍突撃せよ!」

「…それがお主の答えか」

信玄は無言で横を通りすぎた家康の横顔に、覚悟を決めた者独特の強い瞳の輝きをみた。




[ 77 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -