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「なんにせよ俺達が織田を討つにはまず徳川をどうにかしなきゃならねぇ」

進軍している最中に逆に後ろから挟み撃ちされるのも、国を空けている間に城を落とされるのも回避せねばならない。

政宗は西国の動きは一旦横に置き、軍議を続ける。

「そのことじゃが、竹千代は儂が引き受けよう。あれも考えあって織田についておるのじゃろう」

信玄の発言に政宗は難しい顔をし、鋭い眼差しを相手に向けた。

「今さら話を聞くとも思えねぇが、アンタが徳川の相手をしてくれるってんなら任せるぜ。俺達はその隙に美濃を通って尾張へ向かう」

信用を示す言い方に信玄はふと表情を緩め、政宗を見返す。

「して、お主はさして気にしておらぬ様じゃが前田はどうする?」

「前田は軍神が押さえるとよ。背後は気にせず暴れてこいとさ」

こうなる事を予想していたかの様に文に記された文句。

書をしたためた謙信の見据える先には一体何が見えているのだろうか。

「御館様。それでは我等は徳川と…」

「うむ。幸村よ、お主の働き期待しておるぞ」

「ははっ!御館様の為、この幸村――」

がばりと頭を下げたかと思えば次の瞬間には勢い良く顔を上げ、拳を握る幸村。

同じ様に拳を固めた信玄が動き出す前に政宗が口を挟んだ。

「真田。俺達は先に行くがpartyに遅れんじゃねぇぞ」

「むろんっ―…ぶはぁっ!!」

「油断するでない幸村ァ!戦場では気の緩みが命取りになる事、努々忘れるでないわ!!」

べきょ、と障子を一枚破って幸村は庭へと吹き飛ぶ。

「大将!旦那!駄目だって!」

慌てて立ち上がる佐助に、今まで静かに黙し正座していたかすがが驚きに目を見開き、呆れたようなため息を落とした。

「何なんだアレは…」

殴り合いなら外でしろと甲斐の一行を外に追い出し、政宗は居並ぶ臣下へ向けて口を開く。

「聞いてたなてめぇら。武田が徳川と、上杉が前田とやりあってる隙に俺達は尾張を目指す。伊達が狙うは魔王の首ただ一つ!派手にPatryと行こうぜ!」

おぉー!と声が返る中で遊士は意外と常識的な疑問を初めて政宗に抱いた。

「…あれで良いのか?」

真田は兎も角として信玄公の扱いがあれで。甲斐の国主、だよな?

チラリと小十郎を見やるも特に気にした様子もなく、政宗が盛り上げた場をキッチリと締めていた。

「各自うかれて準備を怠るんじゃねぇぞ!」

おぉー、と小十郎に返る声の中には若干怯えが混じっていたが遊士は知らぬ振りで眺め続ける。

小十郎さんが何も言わない所を見ると別に良いんだな、と最終的には自己完結させた。

そして、遊士が考え事から抜け出したのを見計らったかの様にかすがに話しかけられた。

「ところで聞きたかったんだが、お前は伊達の者か?初めて見る顔だな」

「あぁ、オレは伊達軍所属の遊士。隣のコイツは彰吾だ」

「………」

会話を交わす遊士とかすがの隣で、盛り上がる周りを一切無視した彰吾がジッと地図上に配置された碁石を睨みつけていた。

軍議が終わり、それぞれ戦の準備や持ち場へと戻って行く。

外で幸村と殴り合いをしていた信玄もボロボロになった幸村と疲れた顔をした佐助を連れて広間へと戻って来た。

「話は終わったようじゃな、独眼竜」

「まぁな。で、アンタ等はいつ発つ?」

「明日にでもここを出て、甲斐に戻り次第戦の準備をするつもりじゃ。なるべく早い方が良いであろう」

織田が新たな戦火を生む前に。

重く告げられた言葉に政宗は頷き、上座から腰を上げる。

「OK.その前に真田借りるぜ」

信玄の後ろにいた幸村はきょとんと政宗を見返した。

「某でござるか?」

「あぁ。…それと遊士!袴に着替えて鍛練場まで来い」

名を呼ばれた遊士はかすがから目を離し、政宗と視線を合わせると心持ち口端を吊り上げて分かったと頷く。

「ふぅむ、何やらおもしろそうじゃの。どれ、儂もついていこうかの」

「好きにしろよ」

信玄にそう返し、政宗は広間を出る。その後を遊士、戸惑い気味の幸村、落ち着いた雰囲気の信玄が続いた。

広間の中では政宗に付いていかなかった小十郎が広げた地図を片付けにかかる。

「どうした彰吾?」

そこで彰吾が地図上に配置されたとある軍を示す碁石を睨み付けるように、真剣な表情で考え事をしているのを目に止めた。

「少し、気になる事がありまして。…小十郎殿、この後時間ありますか?」

地図から顔を上げた彰吾は表情を変えないまま、小十郎を見る。

「大丈夫だ。ここじゃなんだ、俺の部屋で聞こう」

それに小十郎も真剣な顔になり、そう応えた。



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