08
「政宗様。城門に武田信玄公と真田幸村が到着したと門番から知らせが…猿飛?てめぇが何故ここにいる?」
姿を見せたのは小十郎だった。
佐助は彰吾の刀を弾き、距離を取ると武器を持っていない左手で頬を掻いた。
「いやぁ、俺様それを知らせにここへ来たんだけどなぁ」
困った風に笑い、佐助は遊士と彰吾、政宗を見る。
「彰吾、ソイツの処置は後だ。小十郎、真田達を客間に通しておけ」
「分かりました」
政宗の言葉に二人は頷き、彰吾は刀を納め、小十郎は今来た道を戻る。
佐助はそんな小十郎の後を、助かったと呟きながら付いて行った。
二人が居なくなり、その場に残された政宗はところで…と遊士に視線を投げる。
「明良ってのは誰だ?」
「猿のdescendantだ。今の奴とそっくりだぜ。な、彰吾?」(子孫)
「えぇ、まったく。やることが同じで思わず叩き斬りたくなるぐらいには」
布で足に付いた汚れを落とし、廊下に上がった彰吾の口元は緩やかに円を描いているが目は笑っていなかった。
「へぇ。で、これはどうした?」
それを政宗は軽く流し、用を成していない、廊下に転がる障子について聞く。
「賊が侵入しました折、俺が勢い余ってやりました。後で直しておきます」
真っ二つになった障子を見下ろし、答えた彰吾。
「いや、どっちかって言うとオレのせいだろ」
その台詞に遊士が言葉を被せるよう口を開いた。
「ah―、何にしろお前等に怪我がねぇならいい。それは後で他の奴にやらせる」
それより甲斐の奴等との会談、お前等も参加しろ、と政宗は二人に言った。
正装とまではいかないが袴からそれなりの着物、もちろん男物、を身に付け、遊士と彰吾は政宗の後に付いて甲斐の虎との会談の場に向かう。
「本当にいいのか政宗?」
「構わねぇよ。どうせ後々呼ぶことになるだろうしな」
真田と猿飛に見られてる以上、お前等が何者かって向こうは聞いてくるはずだ。
甲斐の一行を通した部屋の前では小十郎が待っていた。
「念の為、人払いをしておきました」
「OK.…行くぜ」
その声に小十郎がスッと静かに襖を明け、政宗、遊士、彰吾と入室する。
「そなたは!」
目を見開いて驚く幸村、ふむと興味深そうな視線を向けてくる信玄、その側で大人しく控える佐助。遊士は彼等を一瞥し、直ぐに視線を戻した。
内心では、いろいろ思うところもあったが顔には出さず、涼しげな表情で座に着く。
彰吾も慣れた様子で視線を気にすることなく遊士の隣に座った。
そして最後に小十郎が襖を閉め、上座に座った政宗の側、一番近くに腰を下ろす。
「遠路はるばるよく来たな。歓迎するぜ甲斐の虎」
「うむ。相も変わらず元気そうじゃな独眼竜」
ふっと共に口元に弧を描き、互いに簡単な挨拶を交わした。
「早速じゃが同盟の件、アヤツからも色好い返事が返ってきおったわい」
「だろうな。軍神の所にも織田の兵が奇襲まがいの攻撃を仕掛けて来たってのを俺も耳にした」
国を背負う者の目をした政宗に遊士も知らず身を引き締める。
「うむ。民を恐怖で支配する織田、アヤツが天下を掴めばこの世は今以上に荒れる。それだけは何としても阻止せねばならん」
「それで軍神とは一時休戦か?」
「そうじゃ。だが、同盟を良しとしたお主もそれは承知の上であろう」
すでに政宗は武田に返事を返してるのか。それも同盟を結ぶ方向で。
遊士は二人の会話を聞きながら頭をフル回転させる。
軍神は上杉。上杉もこの同盟に加わり、織田を倒すまで武田とは一時休戦で話がついてる、と。
「武田、上杉、伊達、三国同盟か…。だが、東から織田を討つとなると徳川はどうする?」
「遊士様」
つい、口を挟んでしまった遊士を彰吾がたしなめる様に隣から声を上げる。
だが、政宗は気にした様子もなく、信玄に至っては問題はそこじゃと深く頷いた。
「竹千代は織田と同盟関係にあり、そう易々とは動けまい。一応、佐助を遣いにやらせてみたが結果は芳しくない」
徳川、あそこには戦国最強とうたわれる本多 忠勝がいる。
出来れば仲間に引き込みたいが、そう上手くはいかないようだ。
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