06
自室に向かっている途中で、遊士の足がピタリと止まる。
「如何致しました?」
「ん?あれ…」
廊下を曲がった先、そこに女中達が集まり何やら困った様子で上を見上げていた。
遊士は自室へ帰る道から進路変更し、女中達の元へ向かう。
何かあったのだろうか?
スタスタと声の届く距離まで行くと遊士はHey、と声をかけた。
「何かあったのか?」
その声にその場にいた女中五人が振り向く。
「まぁ、遊士様!」
「彰吾様も!ちょうど良いところに」
驚く二人に、他三名は仄かに頬を染めて遊士と彰吾に小さく会釈した。
さっそく話を聞こうと彰吾が切り出す。
「それで、どうしました?こんなところに集まって」
「あっ、はい。実は…」
なるほどな、と話を聞き終えた二人は女中が見上げていた木を見上げる。
二人の視線の先には、緑に色付いた葉と、その幹から伸びる何本もの木の枝。あまり太くもないその不安定な枝の上に一匹の猫が動けずに震えていた。
「随分やんちゃなcatがいたもんだ。登ったはいいが降りられねぇとは」
「遊士様、俺が」
「ん。そうだな、頼むぜ彰吾」
気を付けろよと言葉を投げ、遊士と女中達は彰吾が猫を捕まえて無事降りて来るのを待った。
みぃみぃと彰吾の腕に抱かれ、降ろされた白い猫はどうやらまだ子猫の様で。
「ありがとうございます彰吾様。今朝から鳴き声は聞こえていたのですが中々見つからず、手の空いた者達で見つけてみれば木の上で。助けるにも難しく、皆困っていたのですよ」
「いえ、無事で良かったです」
小さい子猫をソッと地面に下ろせば子猫は彰吾の手を追うように擦り擦りとふわふわの毛を押し付けてくる。
遊士も子猫を怖がらせないよう側にしゃがむと子猫の頭を指で撫でた。
「可愛いなこいつ。チビの癖してもう木なんかに登るんじゃねぇぞ」
みぃ、と応える様に鳴き、遊士を見上げてきた子猫に遊士はふわりと優しげな笑みを溢す。
「OK.良い子だな」
白い小さな体の下に両手を差し入れ、抱き上げると遊士は柔らかな眼差しをそのままに女中達の方を振り向いた。
「コイツに何か余りもんでもあげてやってくれねぇか?」
「…あっ!は、はい!ただいまお持ちします!」
子猫に優しく笑いかける遊士の笑顔にみとれていた女中達は、急に声をかけられ慌てて動き出す。
(少年の様なそのあどけない笑顔、遊士様ってば可愛い〜!!)
きゃぁきゃぁと後の厨で女中達の話題となる一幕。
女中が子猫の食べれる物を取りに行っている間、子猫とじゃれる遊士を彰吾は穏やかな瞳で見守っていた。
「それにしても大分懐つかれましたね」
女中達に預けるはずが、子猫は何故か遊士の側から離れようとしなかった。
置いて行こうとすればみぃみぃ鳴くし、終いには後ろをちょこちょことついてくる。
遊士はそんな子猫を見かねて仕方がねぇな、と苦笑し再び腕に抱き上げ、一緒に自室に戻ることにしたのだった。
「遊んでやったから懐ついたのかもな」
腕の中で心地良さそうに瞳を細める子猫は眠る寸前で。
人で例えるならうとうとと微睡んでいる状態だ。
「でも、いくら子猫でも警戒心薄くねぇかコイツ?猫っていうのはもっとこう…」
そう遊士が疑問を口にした瞬間、子猫はピンと耳を動かし遊士の腕の中でもぞもぞと動いた。
どうした、と考える前に子猫が何に反応したのか二人は気付く。
ふと顔を上げれば、前から小十郎が近付いて来ていた。
「一応警戒心はあるんだな」
「その様ですね」
遊士は小十郎さん、と小十郎を呼び止め腕の中の子猫を見せる。
「どうしたのですこの猫は?」
「木の上で降りられなくなっていたのを女中の方々が見つけまして…」
簡単に彰吾が説明すると小十郎はそうか、と一つ頷き続けて言った。
「もし面倒を見るのであれば一言政宗様に伝えておいた方が良いかも知れんな」
「そうですね。…政宗様は今どちらに?」
「執務を終えて自室で休んで居られる」
「なら、コイツ連れて政宗の所に行ってみようぜ」
言うより見せた方が早いだろと遊士は言い、大人しくなった子猫の頭を撫でた。
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