02


何気なく、疑問に思った事を政宗は聞いた。しかし、それに対して遊士は僅かに表情を曇らせた。

「ah〜、その、気を悪くしないでくれよ。…六振りのうち五振りは家宝として残ってるんだけど一振りは行方知れずで…」

「別に気にしねぇよ。逆にお前達の代まで残ってる方が凄いぜ。なぁ、小十郎?」

口を挟まず、今まで話を聞いていた小十郎は政宗に話を振られて頷く。

「はい。まさか自分の刀が家宝として受け継がれていたとは夢にも思いませぬからな」

まぁ、そのお陰でオレ達は身分を証明することが出来て、今ここに滞在を許されているわけだが。

そんなことを思いながら遊士はコクリと、茶が冷めぬうちに二口目を口にする。

「hum...それで、その話からすると、ここには無いが他の刀もお前が持ってるのか」

「………いや。オレが持ってるのはその内の四振りだけで」

何かを思い出すように急にトーンダウンし、湯飲みを置いた遊士を彰吾が隣で心配そうに見つめる。

「もう一振りは…」

そして、珍しくはっきりとしない、言い澱む遊士の姿に政宗と小十郎も何かあったのかと訝しげに眉を寄せた。

「…遊士様。俺が―」

その様子に、言い澱む理由を知っている彰吾が口を開きかける。

しかし、それを制して遊士は淡々と告げた。

「…分家の連中に持ってかれちまった」

無理に感情を圧し殺した様な声で、けれど表面上は何でもないような顔をしてそう告げた遊士に政宗と小十郎はさらに眉を寄せた。

「あ、分家ってのは…この時代にもあるかも知れないけど、伊達の本家の者が他所に嫁いで出来た家の奴等の事で…」

それを遊士は二人が分家という言葉に疑問を持ったのかと思い、続けて言う、が。

「Stop、遊士。それは分かる」

政宗に遮られ、その隣を見れば小十郎も一つ頷いた。

「…そう、だよな」

「持ってかれたとはどういう意味だ彰吾」

そして、小十郎は遊士ではなく彰吾に聞いた。

その心遣いに感謝して彰吾は口を開く。

「言葉通りです。本来、伊達家の宝刀というのは当主となった方が全てを受け継ぐ決まりになっております。ですから此度は遊士様が。…しかし、」

チラリと、横で口を閉ざし感情の読めない顔でただ聞いている遊士の姿を目の端に止め彰吾は胸を痛めた。

―伊達家当主が貴女のような女などと、相応しくない!姫なら姫らしく大人しく座敷の奥にでも居れば良いものを。…まったく貴女は伊達家の恥よ!

それが十三になったばかりの子供にかける言葉か。

誰のせいで遊士様が刀を手にしたと思っているのか。

ふと当時の事が頭を過った。

何故、遊士様ばかり傷付けられねばならないんだ――。

「…それを快く思わぬ方々もおりまして」

「ah-、そう言うことか」

それが分家と呼ばれる人間であり、遊士を当主と認めずに刀を取り上げた。

「だが、力関係で言えば遊士様の方が上なのでは?」

遊士様が本家、ましてや当主の身ならば返せと一言いえばいいのではないかと、小十郎は首を傾げる。

分家とはいえ当主には逆らえまい。

「そこがまた複雑でして…。遊士様を後継ぎにと当主に命じたのが殿であれば、遊士様を認めないと刀を取り上げたのは奥方様なのです。奥方様は分家の出の方で…」

「ha、あの人はオレじゃなく政臣に伊達を継がせて実権を握りたいだけだろ」

黙していた遊士が彰吾の言葉を遮り、吐き捨てるように言う。

「政臣ってのは…」

初めて聞く名に政宗が聞き返した。

「遊士様の弟君です」

「血は繋がってないけどな。…可愛いんだぜ」

ふっとその瞬間、弟の姿を思い浮かべたのか遊士は優しげに瞳を細めた。

そう言えば弟が居ると遊士はいつきに話していたな、と政宗は思い出す。

でも…。

「血が繋がってない…?」

「あぁ、政臣とは義理の姉弟なんだ。母が違う」

思ってもみなかった遊士の複雑な事情に政宗と小十郎はこれ以上踏み込んで聞いていいものかどうか判断に迷った。だが、その間にも遊士の話は続く。

「政臣の母が今の奥方、オレの母上はオレが小さい頃に病気で亡くなった」

元から身体の弱い人だった。オレを産んだのだって奇跡に近いって産婆は言っていた。



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