16
政宗と遊士の怪我を考慮し、ゆっくりと進んだ遊士達が青葉城へと辿り着いたのは東の空に陽が昇ってからだった。
「筆頭!片倉様!」
「それに遊士様と彰吾様も!おい」
「あ、あぁ。俺、成実様と綱元様に筆頭が帰って来たって伝えてくる!」
帰って来た政宗達に気付いた門番達が声を上げ、城内へ政宗達の帰還を伝えに走って行く。
政宗は門番の前で足を止めると口を開いた。
「先に帰した奴等はどうした?」
人質にとられていた斥候達の事だとピンと来る。
「はっ。綱元様の指示で皆手当てを受け、今は部屋で休んでるッス」
そうか、とどこか安堵した様な顔で門番の横を通り抜ける政宗に遊士は無言で続く。
彰吾も城内へと入り、小十郎は門番に一言残して行った。
「引続き警戒を怠るな」
「「はいっ!!」」
ピシッと背筋を伸ばし、大きく頷いた門番はその背が見えなくなるまでそうしていた。
小十郎と彰吾は城内へと入るなり、主君に大人しく自室で休むよう言い残してそれぞれ別れる。
「何だありゃ?」
「さぁ…?」
残された主は顔を見合わせ首を傾げる。
どちらにしろ着替える必要もあるので遊士はそこで政宗と別れ、自室へと向かった。
陣羽織を脱ぎ、戦装束から着流しに着替えていると外から声がかけられる。
彰吾か。
「入っていいぜ」
後は帯を結ぶだけだったのでまぁいいやとあまり考えず返事を返した遊士に、障子が開いた瞬間別の声がとんだ。
「まぁ!遊士様!何て格好をしているの!」
入ってきた人物はピシャンと後ろ手に障子を閉め、共に居た彰吾を廊下に置いてくる。
「え!?喜多さん…?」
思わぬ人物の来訪に遊士は帯を手にしたまま驚いていた。
喜多はすすすっと遊士に近付くと遊士!とキツい眼差しを向ける。
「はい!って、え?何で喜多さんが?彰吾は?」
「彰吾には廊下で待機してもらっています。それより、何ですその格好は?」
「何って、着流し…」
「そういう事ではありません!」
バッと手から帯を奪われ手早く着付けられる。
「ぐっ…!」
ちょっ、締まってる!
「帯も締めず、中に人を入れるなど。いいですか遊士、貴女がどの様な服装をしていようと自由です。自由ですが、着替えの最中に人を入れるなど!喜多は悲しゅう御座います!」
「いや、そのっ!彰吾だけだとおもっ…」
「ですからそういう問題では御座いません!彰吾に呼ばれて来てみれば…」
喜多の勢いにおされ遊士はいつの間にか正座をして聞いていた。
彰吾の奴〜!
その後、肩の怪我を手当てされながらその事についても説教をされた。
一方で政宗も同じ様な状態にあった。
床に敷かれた布団に体を横たえ、薬師に傷をみて貰う。
「僭越ながら政宗様」
「ん?」
「私が申したこと覚えておりますかな?私の記憶違いでなければ安静にと申した筈ですが」
政宗はその言葉に悪びれた風もなく、言ったなと頷いた。
「ならば何故傷口が開いているのかご説明願いたい」
「あ〜、ちぃとな…」
手当てを受けながら政宗は薬師の質問を飄々とかわす。
「ちぃと、とは何で御座いましょう?私は薬師としてその内容を是非お聞きしたいのですが」
「…お前、いつになくしつこいな」
「気のせいで御座いましょう」
とぼける薬師に政宗はふっと息を吐く。
「まぁいい。それより俺の手当てが終わったら遊士の所へ行ってやれ」
それは純粋に遊士の怪我を心配をしたものであり他意はない。
「この傷が何故開いたのかお聞きしたら直ぐ参りましょう」
「………」
政宗は薬師とは反対側に座し、成り行きを見守るように沈黙する小十郎をジロリと見やった。
これはお前の仕業だな。
動けぬ政宗はいかに怪我が大事であるか薬師に長々と語られた。
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