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「ふむ。…少年、私は一つ欲しいものが出来てね。それさえ手に入れば彼らを解放してもいいと考えているのだが…」

そう言う松永の瞳が怪しげに細められ、すっと視線が動く。

遊士はその視線の先にあるものが何かを知りつつも、分からぬ振りをして聞き返した。

「何の話だ」

「卿の持つ竜の刀」

「han、竜の刀だぁ?政宗の刀は全部てめぇが奪っただろうが。何言ってやがる」

やはり刀の事に気付いていたか。

だが、表情にはまったく出さず遊士は続けた。

「刀が欲しいなら鍛冶屋にでも行ったらどうだ」

「卿の刀はただの刀ではないだろう?先に頂いた竜の爪と全く同じ業物。私の知りうる限り存在せぬ刀だ。どこか間違っているかね?」

「あぁ。全く違う」

同じ業物でも使い手が違えば自ずとその刀の価値など全てが変わる。

たしかにオレの刀は政宗の代から継いできたものだが、この刀にはまだ竜の爪と同等の価値はない。また、存在しない刀と言うが現にここにあるじゃないか。

きっぱりと言い放った遊士に松永は笑う。

「ほぅ、シラをきるつもりかね。まぁそれはそれで結構。卿から奪うまでのこと」

「また人質を使って、か?フン、芸のねぇ奴。それに同じ手は二度と食わねぇぜ!」

カチャリ、と遊士は懐に差し込んでいた右手で何かを掴むと、素早い動作で柱にくくりつけられている斥候達に向かってソレを投げ付けた。

とす、とす、と間の抜けたような音が数回続き、パラリと斥候達を縛っていた縄が落ちる。

「縄がっ!!」

「おぉー!」

どさっと柱から解放され歓喜で沸く斥候達の声を耳にしながら、遊士は冷然と見やる松永にニヤリと口端を吊り上げた。

「移動してくれて助かったぜ。崖の先じゃ使えねぇ手だったからな」

そう言って手の中にあるクナイを閃かせ、松永にも投げつける。

「てめぇ等はさっさと逃げろ!」

キンッ、と剣に弾かれたクナイが地に落ちる。だが、そうなる事は予想済みで遊士は斥候達に撤退の指示を叫びながら松永に突っ込んで行った。

「ふっ、それで勝ったつもりかね少年?」

ガッと剣と刀が交わる。

「No!てめぇを倒して政宗の刀も取り返す!それでThe endだ」

松永は余裕すら窺わせる態度で遊士の刀を受け止め、ほぅと打ち合った遊士の刀を検分するよう見つめた。

「ふむ。大分傷付いているようだがやはり卿の刀は竜の刀に違いない。それも…」

「まだ言ってんのか。しつこい奴だな」

ガチガチと刃を合わせたまま、スラリと右の刀も抜き放つ。

抜き放つと同時に刀を寝かせ、松永の胴を目掛けて真横に振るった。

「それも全く同じ。差異と言えば卿の刀は何か時を感じさせる」

ヒュッと鋭い音を立て迫った刃を松永はいとも容易くかわし、興味深そうな瞳を遊士へと向けた。

松永弾正久秀。戦国の梟雄って悪名で有名だが、骨董の収集家としても有名だったな。

その目は確かな様だ。

遊士は小さく舌打ちし、追撃を図る。

「言ってる意味がわかんねぇぜ」

コイツには火薬がある。間をとる方が危ねぇ。

小十郎もそれが分かっているのか遊士の刀が避けられたと同時に動き出していた。

「松永ァ!」

左斜め上から刀をブンと振り下ろす。

それを松永は右手に持った剣で防いだ。

「竜の右目。…独眼竜の敵討ちかね?あぁ、実に良い眼だ。憎しみに満ちた」

「てめぇ…!」

クツクツと愉しげに笑う松永に、小十郎の刀にパリパリと青白い光が走る。

政宗と遊士の纏う蒼色とは少々異なる碧(アオ)色。

「Yeah―ha――!!」

それを見て、遊士は小十郎が立つのとは逆の位置、松永の右側から攻撃をしかけた。

左右から挟撃するよう二刀を振るう。

だが、それよりも先に松永の左手がスッと上がった。

「遅い」

クッと吊り上がった口端が、そう紡いだ瞬間足元から火薬の匂いが立ち昇る。

「遊士様!」

「――っ!?」

思ったより松永の反応速度が早い!

襲い来る熱に遊士は無理矢理動きを止めて、その場を跳びすさった。

傷付いた右肩がズキリと痛む。

「くっ―…」

蛇の様に地面を伝い、襲い来る炎に遊士が構えた瞬間、それはバリバリと凄まじい音を立て通過した雷撃に呑み込まれていった。

「なっ!?今のは―」

完全に消失した炎とパリッと放電を残して消えた雷撃に遊士は驚き、心を震わせた。

それは蒼い――。




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