06
そして、再び間合いを詰めた遊士と幸村の武器が激しく激突した。。
「はぁ―!」
「うおぉぉ―!」
小細工なしで遊士は幸村と刃を交える。
正面から襲い来る槍を、受け流し時に弾く。
コイツ馬鹿みてぇに力がありやがる。これはちぃとヤバイかもしれねぇ。
そう思うのに、口元には笑みが上る。
「上等!てめぇはオレがここで倒す」
政宗に姿を似せるため、腰に挿していた六振りの刀の内、右の刀を一振り抜き放った。
二刀流、遊士は左右に一振りずつ刀を持ち、幸村の二槍を抑え込むとその懐に飛び込んだ。
「Yeah-ha――!!」
「っ、なんのこれしきっ!凌いで見せる!」
一方、遊士と対峙する幸村は伊達軍が現れてから、遊士を前にして更に強くなった違和感に今気付いた。
間近に迫った刃と、兜の下に隠されていた鋭い瞳。
良く似てはいるがそれは政宗のものではない。
「―っ、ち、ちょっと待って下され!」
僅かに生じた動揺が幸村の集中力を欠き、隙を与える。
「The endだ、真田 幸村」
待てと言われて止まれるほどの余裕が今の遊士には無かった。
頭に合ったのはいかにして幸村を倒し、道を切り開くかである。
ここで幸村を抑える事イコール、先へ向かわせた彰吾達の安全が確保されたも同義。
小十郎は政宗が戦う時と同じ様に遊士と幸村の戦いには手を出さず、気にしつつも周りの兵を蹴散らす。
「…遊士様」
決して手は出せない。遊士はそれを望まない。
小十郎は遊士を信じて目の前の敵を斬り伏せていった。
そして、
粗方片付けた小十郎の視界の端に、幸村が地に膝を付いた姿が写った。
「ha…、どうした真田 幸村ァ?てめぇはこんなもんか?」
遊士の攻撃は、幸村の肌を斬ったが致命傷に至るほどではなかった。
幸村が膝を付いたのは、避けた際バランスを崩したためで、それほどダメージは受けてないはず。
すぐに立ち上がらない幸村に遊士は尚も言葉を投げる。
「立てよ。まだケリはついてねぇ。それとも、このままその首跳ねてやろうか?」
冷たく見下ろす遊士をジッと見つめ、幸村は口を開いた。
「某にそなたとつける決着など御座らん」
そう言って首を横に振った幸村に遊士は眉を寄せる。
「某が決着を望む相手は伊達 政宗殿ただ一人で御座る。故に政宗殿では無い貴殿では御座らん」
「だからどうした?刀を引くのか?…ふざけるなよ」
オレは確かに政宗じゃないが、これじゃ舐められてるみてぇだ。
遊士の怒りが伝わったのか幸村はそうでは御座らん、と否定した。
「決して貴殿を軽んじているわけでは御座らん」
遊士は黙って先を促す。その隣に小十郎がやって来る。
「ただ、貴殿ら伊達軍の様子から何か先を急がねばならぬ事情がおありのように見える。政宗殿の姿が見当たらぬのがなによりの証拠」
立ち上がった幸村に、先を察した小十郎が刀を握ったまま口を開く。
「どういうつもりだ…」
「どうもこうも御座らん。この先は奥州へと繋がる道。行かれよ、急ぎ奥州へ戻られよ」
幸村の言葉に遊士は素直に頷けず、刀の切っ先を幸村へと向けた。
「何でそんなことが言える?情けをかけるのか?…その余裕がてめぇの命を終わらせるぜ」
遊士の殺気にも幸村は動じず、真っ直ぐ遊士の目を見て告げた。
「断じてそのようなことでは御座らん。某は先日の借りを返したまで」
先日、それは上杉の陣で政宗が幸村を見逃したこと。
きっと政宗は借りだなんて思ってないだろうが。
一理ある答えに遊士は刀を引き、小十郎を見る。
それに小十郎は一つ頷いた。
「OK。これで貸し借りなしだ」
「すまねぇ真田」
二人は刀を鞘に納め、踵を返す。
「政宗殿にお伝え下され。貴殿との勝負、この幸村が心より楽しみにお待ち申し上げている、と」
他軍である自分に伊達軍の事情はよく分からないが、気付けば幸村は政宗に似た遊士の背にそう声をかけていた。
遊士はそれに片手をヒラリと振っただけで、振り返らなかった。
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