04


なんとか松永の陣を脱出した遊士は政宗達が落下したと思われる地点に馬を走らせ、慎重に探す。

彰吾も見落としがないよう周囲に視線を走らせる。

その後ろでは伊達軍兵士達が不安気な表情を浮かべ、政宗と小十郎の姿を探していた。

「この辺りのはずなんだが…」

遊士は焦る心を押さえつけ、呟く。

馬から降り、適当な木へ手綱をくくりつけると遊士は肌が傷付くのも構わず鬱蒼と繁る草木の中へ入って行く。

「遊士様!」

それを見て、彰吾が慌ててついていく。

ガサガサと草を踏み分け、進むとぽっかりと開けた空間に出た。目の前にはザァザァと川が流れている。

そして、その川辺に探し人の姿があった。

「政宗!小十郎さん!」

遊士の声に小十郎がピクリと肩を揺らし、振り向く。

「遊士様…」

しかし、政宗の方は仰向けになったまま、反応しなかった。

駆け出した遊士に続き、後ろからついてきた彰吾と伊達軍兵士達も駆け寄る。

瞼を固く閉ざし、ぐったりしている政宗の姿に遊士は息を呑んだ。

「ま、さむね…?」

政宗の横に膝を付き、遊士は震える手でその頬に手を伸ばした。

小十郎はグッと拳を握り、口を開く。

「応急処置はしましたがなにぶん傷が深い。それに爆風のせいか落下した衝撃か意識がない。急ぎ城へお連れしなければっ」

守れなかったと自責の念にかられている小十郎の代わりに彰吾が指示を飛ばす。

「聞いてたなてめぇら!政宗様を城にお連れする。さっさと準備にとりかかれ!」

呆然としている兵士達に彰吾は更に怒鳴り付ける。

「呆けてる暇があったらさっさと動け!」

「「―っ…はいっ!」」

皆の気持ちは痛いくらい分かる。だけど、俺まで引き摺られてはいけない。

彰吾は血の気の引いた顔で政宗に触れる遊士の横顔をジッと見つめた。

一刻も早く、城へ帰り薬師に政宗様の状態を見てもらわねば。

政宗の右腕を持ち上げ、首の後ろに回して、肩にかける。左側にも同じ様に兵士が付き、政宗の腕を首の後ろに回し肩にかけた。両側に政宗を支えるよう兵士が立つ。

「小十郎様、何で馬に乗せないんスか?その方が…」

「そうしたいのは山々だ。だが、ここは道が悪い。馬に乗せるとその振動が怪我に響いて余計悪化する恐れがある」

苦々しく答えた小十郎に兵士も顔を歪める。

「…遊士様」

自分の事の様に辛そうな顔をする遊士に彰吾がソッと声をかける。

それに遊士は片手を振って、勤めて平静な声で返した。

「大丈夫だ。…ちょっと動揺しただけだ」

くしゃりと前髪を掴み、遊士は顔を上げた。

深く息を吸って吐く。先程動揺したのが嘘の様に、毅然と前を見据え、遊士は小十郎を見た。

「小十郎さん。急いで青葉城へ戻ろう」

その声に小十郎も強く頷いた。

政宗を守るように側に騎馬をつけ、青葉城のある方向に進み出す。

遊士が先頭に立ち、周囲を警戒をしながら歩く。

その半歩後ろを、遊士を守るように彰吾。

間に騎馬と政宗、一番後ろを小十郎が歩く。






ある程度進んだ地点で遊士が何かに気付き足を止めた。

「あれは…」

「何かありましたか?」

前方を凝視する遊士に彰吾が問い掛ける。

ここを抜ければ街道にでるはずだが…。

歩みを止めた遊士は後ろを振り返り小十郎を呼ぶ。

「小十郎さん、ちょっと」

「どうしました?」

何か不都合な事でもあったのかと小十郎は険しい顔をする。

「あそこに旗が見える。赤地に武田菱、六文銭も…、たぶん真田の陣だ。どうする?」

思わぬところで邪魔が入ってしまった。しかし、この街道さえ抜けてしまえば青葉城まではあっという間だ。

「遠回りをしている暇はありません。しかし、かと言ってこのまま無事通り抜けられるとも。…なにより政宗様のお姿を敵に曝すわけには」

「だよな。チッ、邪魔しやがって真田の野郎…」

一度しか見たことないが遊士は忌々しそうに吐き捨てた。

「この際、少し危険な賭けですが囮を用意してその隙に抜けるしか…。迂回している時間もありませんし」

難しい顔をして考え込む二人に彰吾が口を挟む。

「囮か……」

チラと遊士は小十郎に視線を投げ、小十郎がどう判断するか待つ。

「考えてる時間も惜しい。遊士様、それで行きましょう」

「OK。そうと決まれば、彰吾。政宗の兜と刀を用意だ。オレが囮になる」

自ら囮になると言った遊士に当然彰吾も一緒に行くものだと思っていた。

しかし、

「彰吾、お前は政宗についてろ」

渡された刀を手早くばらし、鍔で眼帯を作るとそれで右目を隠す。

「あのっ、遊士様!そこまでしたら見えないんじゃ…」

政宗の兜を被り、視野の広さを確かめる。

「問題ない。元々オレの右目は見えてねぇからな」

「えっ!?…そう、なんスか…」

心配してくれた兵士に遊士は何でもない事のように返した。

「政宗様についてろとは、お一人で行かれるお積もりですか」

彰吾がジロッと危ぶむような眼差しを向けて聞いてくる。

「いや、小十郎さんについて来て貰う積もりだ」

政宗が心配だろうが、政宗のことは彰吾に任せてオレと一緒に来てもらえねぇか?と、準備を終えた遊士は小十郎に言った。

オレだけ出てもきっと怪しまれる。偽者だと気付かれない為にも小十郎さんにはいてもらわねば。

「…分かりました。彰吾、政宗様を頼んだ」

遊士の意図を違わず汲んだ小十郎はそう返した。

「はっ。必ずや無事、政宗様を青葉城までお連れします」

「良い返事だ。んじゃ行くぜ。今からオレが伊達 政宗だ」

眼帯を付け、兜を被った遊士は政宗そっくりだった。鋭く細められた眼光に、自信に満ちた笑み。

「Are you ready guys?」

力強いその姿に下がってしまった士気が戻る。

「「Yeah――!!」」

「OK!Let's party!」

遊士は弦月の前立ての下でニヤリと口端を吊り上げた。





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