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それからいつきの用意したお茶で一服し、政宗達の所に戻ろうと立ち上がる。

「姉ちゃん。おめぇのこと姉ちゃんって呼んでいいだべか?それとも兄ちゃんの方が良いべか?」

遊士に気を使っているのかいつきは考え込む。

そんないつきを可愛いなぁ、と眺めながら遊士は返事を返した。

「遊士でいい」

「でも、おめぇさ蒼いお侍様と一緒で偉いんでねぇか。様付けされてたべ」

「気にすんな。オレが良いって言ってんだ。ほら、呼んでみろ」

「……遊士」

OK!良い子だ、といつきの頭を上機嫌で撫で遊士は歩き出す。

その後ろでいつきが、遊士に撫でられた頭に手をやりちょっぴり嬉しそうにはにかんだ。

そして、遊士が戸口を出ると横からいきなり声をかけられた。

「遊士」

「っ、政宗!いつからそこに…」

戸口の横に、気配を消し壁に背を預けた政宗が立っていた。

「明智の野郎を退けたとは言え、残党がいないとも限らねぇ。あんま一人で出歩くな」

これは、心配してくれたんだよな?

「I see.でも何で政宗が?彰吾は?」

「お前が彰吾に来んなって言ったんだろうが」

「そうだった。でもだからって政宗が一人で出歩くのも問題だろ」

遊士の言葉を綺麗にスルーして政宗は行くぞ、と言って歩き出した。








その日は、陽の沈まぬうちに壊された農家や荒らされた田畑を見て回り、復興作業の為に残していく人員を決めた。

夜は農民達にもてなされ、宴に近い夕餉を迎えた。

そこで遊士と彰吾が改めて紹介された。

「コイツは見ての通り俺の縁者で、伊達 遊士。そっちが小十郎の縁者で片倉 彰吾だ」

紹介された遊士はニヤリと政宗と良く似た笑みを浮かべ、よろしくなと言い、彰吾は軽くお辞儀をした。

わざと縁者とぼかした言い方に疑問を持つものはいなかった。

政宗の隣に座る遊士は料理を摘まみながら、政宗に小声で話しかけた。

「北国の酒って上手いよな。土産に持ち帰れねぇかな?」

「彰吾の目を盗んでか?」

いつの間に農民と仲良くなったのか、はたまた意気投合したのか野菜談義を始めた彰吾を二人して眺める。

「Yes.オレこっちに来てから一滴も飲んでねぇ」

あのピリッとした身に染みるような感じが好きなのに。

恨みがましそうにこちらを見る遊士に、政宗はしょうがねぇなと呟く。

「後で他の荷に混ぜといてやる」

するとよほど嬉しかったのか遊士はパッと顔を輝かせた。

「Thank you政宗!オレ、一生政宗についてくわ」

「ha、ンなの当然だろ」

そうだけどさ、と遊士は笑い政宗の猪口に酒を注いだ。








穏やかな夜が過ぎ、太陽が東の空から顔を出す。

昨日とは違う新しい一日が始まった。

「てめぇ等、復興作業の手伝いしっかりやれよ」

「「はいっ!」」

政宗の檄に、選抜された伊達兵はビシッと頷く。

「Okey、良い返事だ」

その返事に政宗はニヤリと満足気に口端を吊り上げた。

「遊士!また来るべ。そんときゃおら自慢の田畑と作物を見せてやるべ」

伊達軍の見送りに出てきたいつきは屈託なく笑い、そう宣言する。

遊士はそんないつきの頭に手を乗せ、楽しみにしてるぜと返した。

「遊士様。そろそろ…」

「おぅ」

彰吾から手綱を受け取り馬に跨がる。

「いつき、また何かあったら俺に知らせろ」

同じく馬に跨がった政宗が最後にいつきにそう声をかけた。

「うん。分かったべ」

いつきが頷いたのを確認し、政宗は青葉城の方向へ馬首を返す。

「お前等、城へ帰るぜ!」

「「Yeah―!!」」

後ろを振り向き、そう告げた政宗の耳に聞き慣れた声が応える。

そして、先頭切って走り出した政宗に続くように遊士もクンッと手綱を引き、走り出した。







道中何事も無く、伊達軍は無事青葉城に帰還した。

「お帰り、皆!」

「お帰りなさいませ」

それを成実、綱元を始めとする伊達軍兵士、女中達が出迎えた。

静かだった城内が、無事帰ってきた伊達軍の姿を目にして活気づく。

手綱を兵に預け、その光景に遊士は笑みを溢した。

「やっと帰って来たって感じだな」

「川中島への出陣決定から向こう、ずっと慌ただしい日が続きましたからね」

遊士の側に立った彰吾も一段落したようにホッとした表情を浮かべた。

「小十郎。念の為各地へ偵察を出しておけ」

「はっ」

政宗は歩きながらやっておくべき事の指示を出す。

その姿を遊士は心に留める様、見詰めていた。

「やっぱすげぇな…」

「遊士様?」

「ん、何でもねぇ。オレ達も行こうぜ」

遊士は彰吾の背を軽くポンと叩き促した。

オレはオレの出来ることをするだけだ。

「遊士、彰吾」

足を踏み出した遊士達を、ふと振り返った政宗が呼ぶ。

近付けば頭に手を乗せられ、くしゃりと頭を撫でられた。

「二人とも疲れただろ。ゆっくり休め」

彰吾は肩を軽く叩かれ、労いの言葉をかけられる。

「おぅ…」

「はい」

常に上に立つ遊士は慣れない扱いに戸惑いながらも頷いた。

戦場に降り立った蒼竜は大いなる竜の元で羽を休める。未だ見ぬ明日へ進む為に。今一時の休息を―。








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