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いつきの手を引き、遊士が屋敷へ足を踏み入れると農民達の視線が一斉にこちらへ向けられた。

「「いつきちゃん!」」

「無事で良かったべ!」

「いや、怪我してるだべ!?」

いつきの姿に涙ぐむ農民や目に見える怪我に青ざめる農民。いつきが慕われているのが一目で分かった。

「みんなっ!」

嬉しそうに声を上げたいつきの手を離してやれば、いつきは仲間の所に駆け寄る。

見たところ重傷者はいるものの命にかかわりそうなほど酷い人はいなそうだ。

遊士が満足気に笑むと、中で傷の手当てをしていた伊達軍兵士が遊士の元に来て報告をする。

「重傷者十三名、軽傷者二十八名です」

「死者は?」

「いません」

きっぱりと断言した兵士に遊士はgood.と返し、口元を綻ばせた。

「さすが伊達軍だ。農民に戦わせて怪我人が出たのは悔やむ事だが、死人が出なくて良かった」

報告に来た兵士にいつきの手当ても頼み、遊士は屋敷を出る。

と、外に出たところでばったり彰吾と遭遇した。

「…よぉ、遅かったな彰吾」

「今の間は何です?」

「何でもねぇよ」

置いてきちまったこと、怒られるかと思った。なんて馬鹿正直に口にするわけねぇだろ。

ジッと遊士を見下ろした彰吾はため息と共に静かに呟いた。

「分かっているのならいいです」

それに遊士は罰の悪そうに右手でがしがしと頭を掻いた。







農民全員を無事保護し終えた遊士達と時を同じくして、政宗の方も決着が着くところだった。

「…痛い、…痛いですねぇ」

腕から流れる己の血に舌を這わせ、光秀は恍惚とした表情を浮かべる。

「チッ、この気違い野郎が。次で終わりにしてやるぜ」

ギラリと研ぎ澄まされた刃先を光秀に向け、刃にパリパリと蒼白い光を走らせる。

そして、政宗は光秀に斬りかかった。

光秀が振った鎌とぶつかり、ガギィと耳障りな音が辺りに響く。

「あぁ…、愉しい。愉しいですねぇ独眼竜」

「それはてめぇだけだ」

ギチギチとぶつかり合った鎌と刀が斬り結ぶ。

鎌の向こう側に見える光秀の顔が、ニタリと怪しい笑みを形作る。

「先程、そこに来た貴方に似た少年。彼も私を愉しませてくれそ…」

無駄口を叩く光秀を政宗は力で押し切った。

よろめいた光秀に武器を構えさせる暇も与えず刀を斜めに一閃。噴き出す血が地面を汚す。

「てめぇにアイツは勿体無さ過ぎるぜ」

「ふっ、ふふふふ…。そう、ですか…」

血を流し、傾いていく身体をそのままに光秀は不気味に笑った。

「次は、彼と遊ぶと…しましょう…」

どこにそんな力が残っていたのか、光秀はぐんっと足に力を込めると、背後にあった崖へと自ら身を投じて消えた。





光秀が消えた事により、光秀が引き連れてきた兵は戦意を喪失した。もっともそれより先に伊達軍が一掃していたが。

刀を鞘に納める政宗に、一部始終を見ていた小十郎が難しい顔をして近付く。

「厄介な事になりましたな」

「あぁ。よりにもよって明智の野郎に目をつけられた」

崖下を覗き込んで見るがそこに光秀の姿はない。

化け物かアイツは。

「とにかく遊士達と合流するぞ」

「はっ」

崖から意識を切り離し、指示を飛ばす。奴がいなくなった今、考えるのは後でいい。

身を翻し、荒らされた田畑や壊された農家を目に納めながら政宗は足を進めた。

「「筆頭!」」

「政宗、明智の野郎は?」

農民を集めた屋敷の前で遊士と彰吾は待っていた。

「逃げられた。崖から飛び降りてな。それより、そっちはどうだ?」

「重軽傷者はいるが死者はいない」

そうか、と政宗は真剣な表情で頷き屋敷の扉に手をかける。

ガラリと政宗が引き戸を開けると、中にいた農民は驚きに目を見開き、慌てて頭を下げて平伏しようとした。

「Stop.そのままでいい」

それを政宗は止めさせ、中に入って行く。その後を遊士と小十郎、彰吾が続いた。






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