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「…はぁ…はぁ…」

いつきは肩で息をして、光秀と対峙する。

「もう終わりですか?」

だらりと下げた腕。鎌を持つ手がゆらりと揺れる。

「―っ、まだだべ!まだおらは戦える!」

「そうですか。では…」

奇声を発し、鎌を振り上げた光秀が迫る。

いつきはグッとハンマーを持ち上げ、何とか持ちこたえようとするが鎌の連撃に耐えきれずとうとうハンマーが吹き飛ばされてしまった。

「あっ!」

「これで終わりです!いい声で鳴いて下さい!」

迫り来る刃に、いつきはぎゅっと目を瞑り覚悟した。

―ガキィン!

「無事か、いつき!」

しかし、痛みはいつまでたっても襲ってこず、聞いたことのある声が降ってきた。

ソッと目を開ければ、目の前には蒼くて広い背中が…。

「あ…、蒼いお侍様…」

「お前は退いてろ!」

「ぅ、うん!」

来てくれただべ。

じわりと涙が滲む。いつきは大きく頷き、言われた通りその場から離れた。

「今度は独眼竜ですか…」

「明智 光秀。てめぇはここで散れ」

受け止めた鎌を刀で押し返し、射殺すような視線と鋭い刃を光秀に向かって走らせた。

「くっ―」

刃先が咄嗟に飛び退いた光秀の長い髪を掠め、銀髪が数本ハラリと舞う。

「奥州筆頭伊達 政宗、推して参る」

ジャキンと刀を一振り上段に構え、光秀を見据えてダンッと強く地面を蹴った。






政宗が光秀を引き付けて戦っている間に遊士と彰吾は農民を運ぶ。

「彰吾。こいつも連れて行ってくれ」

政宗の側で明智以外の兵士を掃討していた小十郎が遊士達に気付いて、いつきをそちらに押しやる。

「あ、はい。いつき、でしたよね?こちらに…」

いつきは見知らぬ遊士達に戸惑い、小十郎を見上げる。

「大丈夫だ」

それに小十郎はしっかりといつきの目を見て言ってやる。

「Hey、girl!ここは危ぶねぇ。お前の仲間にも会わせてやるし、手当てもしなきゃなんねぇ。さっさと行くぜ」

苛烈さを増す政宗と光秀の戦いに、遊士が警戒しながら口を挟んだ。

「あっ…、おめぇさなんか蒼いお侍様と同じだべ」

似たような顔で、異国語を操る遊士。政宗と似た陣羽織を羽織る遊士を信用したのかいつきの目から戸惑いが消え、不思議そうな表情を浮かべた。

「あぁ…。オレは政宗の分身だからな」

「分身!?あのお侍様さ、分身できるだべか!」

きらきらとした目で見上げるいつきの頭にぽんっと手を置き、遊士はニヤリと口端を吊り上げる。

「聞きたいか?なら、オレについて来い。詳しい話は向こうでしてやる。さっ、行くぞいつき」

彰吾と小十郎にもさっと目配せして遊士はいつきの手をとって歩き出した。

我が主君ながらなんて誘い文句。一見すると人拐いにも見える…、と彰吾はちょっと思った。

「遊士様、もう少し言葉を選ぶべきでは…」

小十郎も同じ事を思ったのか、隣からそんな呟きが聞こえた。

それを敢えて聞かなかった事にして彰吾は小十郎を見た。

「それでは、俺は遊士様の後を追いますので」

「あぁ、気を付けろよ」

いつきを連れて先に行ってしまった遊士の後を彰吾は追った。

負傷した農民達は皆、一番大きな屋敷に集められていた。

戸口に警備の伊達軍兵士が槍を手に四人立っている。

「遊士様!ご無事で。って、あれ?彰吾様は?」

遊士に気付いた兵は彰吾が側にいないことに首を傾げた。どうやら伊達軍兵士の認識は政宗と小十郎がセットの様に、遊士と彰吾もセットらしい。

「ah〜n、あれ?…置いてきちまったみてぇだな」

振り返った遊士は彰吾がついてきてるとばかり思っていた。

「まぁいいや。そのうち来るだろ」

「いいんだべか?」

「No problem.それよりお前の手当てが先だ。可愛い顔に傷が残ったら大変だぜ」(問題無い)

遊士は普通に言ったつもりだが、何故かいつきは遊士の台詞にほんのり頬を赤く染めた。

「なっ、なに言ってるべ!こんな傷…」

自分の事にとんと無頓着な遊士は自分が今、どんな格好をしてその台詞を吐いたのか考えもしなかった。その影響すらも。

警備の為に戸口に立っていた伊達軍兵士達が、格好良いッス遊士様!と遊士に憧れと尊敬の眼差しを向けていたことも気付かなかった。





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